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何のための嘘  作者: 大きい橋


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12/12

最終話 それでも親友だった

冬の匂いが少しずつ街に混ざり始めていた。朝の空気は冷たく、吐く息が白くなる。通学路の木々はすっかり葉を落とし、歩道には乾いた落ち葉が風に転がっていた。


季節は少しだけ進んでいた。


あの日の放課後から、時間はゆっくり流れていた。


俺と悠真は、同じクラスのままだった。

席もそれほど遠くない。

会話も、まったくなくなったわけではない。


「おはよう」

「おう」


それくらいの言葉は普通に交わす。


でも、それ以上はほとんど話さなくなった。


前みたいに一緒に帰ることもない。

昼休みに屋上へ行くこともない。


どちらかが避けているわけではない。


ただ、自然にそうなった。


距離というものは、意外と静かにできていくものだった。


ある日の放課後。


教室には夕日が差し込んでいた。

冬の夕日は低く、赤い光が教室の奥まで伸びている。


俺はカバンを肩にかけ、教室を出ようとしていた。


その時だった。


「春人」


後ろから声がした。


振り向くと、悠真が立っていた。


久しぶりに、向こうから声をかけてきた。


「帰る?」


「うん」


悠真は少しだけ笑った。


「俺も」


それだけだった。


二人で教室を出る。

廊下を歩く。

階段を降りる。


その間、ほとんど会話はなかった。


昇降口で靴を履き替える。

校門を出る。


いつもの帰り道。


住宅街へ続く細い道。


空はすでに少し暗くなり始めていた。


しばらく歩いたあと、悠真がぽつりと言った。


「なんか久しぶりだな」


「何が」


「一緒に帰るの」


俺は少し考えてから答えた。


「そうかも」


それ以上は続かなかった。


風が吹き、電柱の影が揺れる。


やがて、あの分かれ道が見えてきた。


小学校の頃から、ずっとここで別れてきた道。


右に行けば悠真の家。

左に行けば俺の家。


俺たちはそこで立ち止まった。


悠真は少しだけ空を見上げた。


「なあ」


「ん?」


「この前さ」


悠真は言った。


「バイトの話」


俺は黙って聞いていた。


「嘘だった」


やっぱり、と思った。


でも驚きはなかった。


もうずっと前からわかっていた気がする。


悠真は続けた。


「別に意味なかったんだけどさ」


苦笑しながら言う。


「なんとなく言った」


その言葉を聞いて、俺は静かに息を吐いた。


「そうだろうな」


悠真は少しだけ目を細めた。


「怒ってる?」


「怒ってない」


それは本当だった。


もう怒りは残っていない。


悠真は少し考えてから言った。


「でもさ」


「うん」


「お前にだけは、ちょっとかっこよく見られたかったんだよ」


その言葉は、思っていたより静かだった。


俺は少し驚いた。


悠真は続けた。


「なんかさ」


「うん」


「春人って、ちゃんとしてるじゃん」


少し笑う。


「だからさ」


「何もしてない俺、ダサくね?」


夕方の空は暗くなり始めていた。


街灯が一つ、また一つと灯り始める。


俺は少し考えてから言った。


「俺さ」


「うん」


「別にすごい悠真が好きだったわけじゃない」


悠真は少し驚いた顔をした。


「そうなの?」


「うん」


俺は言った。


「どうでもいい嘘つく悠真でも」


「バカなこと言う悠真でも」


「普通に友達だった」


少し沈黙が流れる。


悠真は空を見上げた。


「そっか」


それだけ言った。


風が静かに吹く。


街はもうほとんど夜だった。


やがて悠真が言った。


「じゃあな」


俺はうなずく。


「またな」


悠真は右の道へ歩き出す。


その背中を見ながら、俺は思った。


昔ほど近くはない。


前みたいに毎日一緒にいることもない。


でも。


それでも。


たぶん俺たちは、完全に他人になるわけじゃない。


たとえ距離ができても。


たとえ時間が流れても。


きっとどこかで思い出す。


くだらない話をして笑っていた日々を。


嘘ばかりつく、どうしようもない親友のことを。


俺はゆっくり振り返り、左の道を歩き出した。


冬の夜の空気は冷たかった。


でも不思議と、胸の奥は静かだった。


嘘は消えない。


人も簡単には変わらない。


それでも。


あの時間は、本物だった。


そう思えたことだけは、確かだった。

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