「三度目の一撃、または:やっぱりパターンがあるかも」
佐藤博の事故から二週間が経った。
二週間、あのハンドルの後ろにいる毎回のシフトが心理的拷問だった。
もう四時間以上寝てない。寝ても悪夢を見る。勝手に回るハンドル。見開かれた目。蒸発する死体。
ユキはどんどん心配してた。言わなかった——プレッシャーをかけたくないから——でも俺を見る目で分かった。まるで俺が壊れやすいみたいに。いつ崩れてもおかしくないみたいに。
たぶん正しかった。
「健二、ご飯食べた?」
十分間何も見えずに見つめてた茶碗から顔を上げた。
「ああ。いや、食べてる」
ユキがキッチンテーブルの向かいに座った。お茶のカップを両手で握りしめてる。
「あのね、私...心配なの」
来た。
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないわ。寝てない。痩せた。いつもぼんやりしてる。それに仕事に出る時、戦争に行くみたいなの」
笑おうとした。絞り殺されたような音が出た。
「ただストレスが多い時期なんだ。過ぎる」
「二週間そう言ってる」
「ユキ——」
「プレッシャーかけようとしてるんじゃないの」急いで言った。「本当に。言いたくないことがあるなら、いいの。プライバシーは尊重する。でも...助けが必要なら、誰かと話すとか、専門家とか...」
「カウンセラーなんて必要ない」
思ったより荒い口調が出た。ユキがひるんだ。
「ごめん」すぐに言った。「そんなつもりじゃ...ごめん」
「いいわよ」でも声は小さかった。傷ついてた。
立ち上がってカップを流しに持って行った。
「仕事の準備しないと」俺を見ずに言った。
寝室に行く音が聞こえた。ドアが閉まった——叩きつけたんじゃない、ただ...閉まった。
テーブルに座ったまま、自分を憎んだ。
言え。何か言え。何でもいい。
でも何を?「俺のトラックは憑依されてる」?「二人轢いて消えた」?「頭がおかしくなってると思うけど確信がない...いや、頭がおかしくなってる方がマシだと思ってる」?
冷めたご飯の茶碗を見た。
食欲がなくなった。
その日は午後シフトだった。
川崎に配達、夕方までに戻る。
十四時にトラックに乗った。いつも一緒の恐怖感を持って。
お願いだから、祈った——誰に対してか分からない。お願いだから、今日はやめて。
エンジンは普通にかかった。全てが...普通に見えた。
デポから出て、指の関節が真っ白になるほどハンドルを握りしめた。
高速は混んでた。いい。渋滞は速度低下を意味する。...あれが起きる可能性が減る。
でもトラックが品川の出口を取った。俺が選んでない出口。
「ダメだ」囁いた。「ダメダメダメ、また始まるのか——」
ハンドルが回った。勝手に。
抵抗しようとした。鋼鉄の万力と戦ってるみたいだった。
「クソ!運転させろ!」
でも無駄だと分かってた。もう二回見てる。
トラックが俺をどこかに連れて行こうとしてる。
そして俺には止める術がない。
一般道はガラガラだった。工業地帯。廃墟の倉庫がいくつか。寂しいコンビニ一軒、看板が点滅してる。
そしてそこで見えた。
男の子。男性。たぶん二十五歳だが、動き方で年上に見えた——遅い、引きずられてる。まるで一歩踏み出すのに精神的努力が必要みたいに。
オーバーサイズのグレーのパーカー、どっかで見た覚えのあるロゴ:人気のオンラインゲーム。ダボダボで汚れたジーンズ。黒いリュックにキーホルダー——アニメのぬいぐるみ、ゲームのキーチェーン。
黒髪、ボサボサ、脂ぎってる。佐藤と張り合えるような深いクマ。
スマホを顔の前で持って歩いてた。親指が機械的にスクロールしてる。画面が青白い顔を照らしてる。
逃げろ、必死に思った。お願い、顔を上げて。俺を見て。
エンジンが唸った。
トラックが加速した。
「やめろ!」
全力でハンドルを引っ張った。肩で何かがパキッと音がした——筋肉?腱?——でも離さなかった。
「止まれ!頼む!」
トラックは止まらなかった。
男の子が顔を上げた。
一瞬、目が合った。
その目に何かあった。何か...空っぽ。まるで後ろに何もないみたいに。光なし。生命なし。虚無だけ。ただの空洞。見てるだけで寒気がした。
それからトラックを見た。
口を開けた——叫ぶため、何か言うため——
ドスン。
前と同じ鈍い音。いつものやつ。
それから沈黙。
トラックが止まった。
座ったまま、震えて、肺が痛くなるほど激しく呼吸してた。
ハンドルを握る手が制御不能に震えてた。
三人。三人だ。
降りた。
何が見つかるか既に分かってた。
何もない。
道路は空っぽ。死体なし。血なし。一秒前に男の子が握ってた携帯すらない。
灰色のアスファルトと沈黙だけ。
トラックの側面に寄りかかった。足がほとんど支えられない。
「お前は...何なんだ?」囁いた。冷たい金属に手を置いて。
一瞬——たぶん想像した——トラックが...振動したような気がした。わずかに。猫がゴロゴロ喉を鳴らすみたいに。
飛び退いた。喉まで心臓が上がってきた。
どうやったか分からないが、配達を完了した。
オートパイロットモード。積んだ。降ろした。書類にサイン。
人が話しかけてきて答えた。何を?覚えてない。
全てが綿に包まれてた。遠かった。
十九時半にデポに戻った。
停めてる時、鈴木さんが止めた。
「健二君!大丈夫か?なんか——」
「大丈夫です。ただ疲れてるだけ」
「本当?顔色悪いぞ——」
「大丈夫だって言ってるだろ」
黙った。俺の口調に驚いて。
「...そっか。そう言うなら」
心配そうに見ながら去った。
車に乗って家に向かった。
でも家には行かなかった。
十分先のコンビニの駐車場に行って、エンジンを切って、座ったまま。
震えてた。
震えが止まらなかった。
三人。三人だ。
そして全員消えてる。
渡辺祐樹。佐藤博。そして今...誰?この男の子の名前は?明日のニュースで分かるのか?
喉に胆汁が上がってくるのを感じた。
ドアを開けた。ギリギリ間に合って駐車場に吐いた。
やっと回復した時、ティッシュで口を拭いて、目の前のコンビニを見た。
ネオンライトが暗闇の中で点滅してた。
入った。
酒は飲まない。あまり飲んだことない。たまに同僚とビール一本くらい、それ以上はない。ユキはいつもそれで俺がつまらないって言う。
でもその夜、ビール缶を二本取った。それから焼酎のボトル。
レジ係——イヤホンつけた退屈そうな男の子——スキャンしながら俺を見もしなかった。
車に戻った。
最初のビールを開けて一気に飲んだ。小便みたいな味だったがどうでもよかった。
それから二本目。
それから焼酎を始めた。
燃えた。咳き込んだ。でも続けた。
ただ...考えないでいたかった。十分間。五分間。一分間。
効かなかった。
まだあの空っぽの目が見えた。まだドスンという音が聞こえた。
でも少なくとも今は全てが綿に包まれてた。遠かった。
やっと家に帰った時、もう二十一時近かった。
ユキがソファにいた。テレビはついてるが見てなかった。俺を見てた。
「どこにいたの?」
少しフラつきながら進んだ。
目が見開かれた。
「健二...お酒飲んだの?」
「ちょっとだけ」
「ちょっと?!お酒臭いわよ!あなた飲まないのに!」
「ごめん。渋滞」
「健二——」
「疲れた。寝る」
「でもまだ——」
「寝るって言ってんだろ」
声がアパートに響いた。
ユキが黙った。目が潤んでた。
クソ野郎だ、自分に言った。クソ野郎め。
でも謝る気力がなかった。もう残ってなかった。
寝室に行って、服を脱いで、暗闇の中で横になった。
ユキは寝室に来なかった。
何時間も起きたまま、天井を見つめてた。
翌日、仕事に行かなかった。
病欠の電話をした。また。中村さんは喜ばなかったが、俺の声が十分ひどく聞こえたんだろう、追及しなかった。
一日家にいた。ユキは仕事。
机に座ってノートを開いた。
接触記録
最初の二つを見た。それから三つ目を追加した。
接触#3 日付:五月八日木曜日 場所:品川地区、工業地域の道路 時刻:約15:20 相手:男性、約二十五歳。外見:手入れ不足。オーバーサイズのパーカー(ゲームのロゴ)、ダボダボのジーンズ、グッズ付きリュック。手入れされてない髪、顕著なクマ。接触中にスマホ使用(ゲームアプリの可能性)。表情:完全に虚ろ、無関心。 備考:インパクトはいつも通り。即座に消失。物理的痕跡なし。
ペンを置いた。
そして初めて、本当に——本当に——三つのプロフィールを一つずつ見た。
相手#1:若い、ライトノベル、オタク。
相手#2:サラリーマン、疲弊、ストレス。
相手#3:ニート、ゲーム、クマ、虚ろな表情。
パターン。
パターンがある。
無作為じゃない。道路の適当な人じゃない。
特定の...タイプ。
若い。または比較的若い。でも全員...消耗してる。空っぽ。まるで人生が既に吸い尽くしたみたいに。
想像の世界に迷い込んだ孤独なオタク。
骨まで絞られた労働者。
画面を通してだけ生きる引きこもり。
「トラックが選んでる」ゆっくり考えた。「狩ってる...何を?脆弱な人?絶望してる人?自分の人生から...逃げたい人?」
勢いよく立ち上がった。椅子が床を擦った。
部屋を行ったり来たりし始めた。
理由がある。あるはずだ。
なんでこいつら?なんで他の人じゃない?二週間で何百人も歩行者を見た。でもトラックは彼らだけを取った。
共通点は何だ?
それから、バカげてて笑いそうになるほど、思考が閃いた。
トラックくん。
ユキのバカなミーム。「いつもトラックくんなのよ!不幸な主人公、バン、転生!」
違う。バカげてる。アニメだ。フィクション。これは現実の世界だ。
でも小さな声が囁いた:もしかして...?
「いや」声に出して言った。頭を振って。「ダメだ、ありえない。異世界転生は現実じゃない。ファンタジー世界なんて存在しない。俺は...人をどこかに送ってなんかいない。ただ...消えてるだけだ」
でもどこに?
死体はどこに行く?
また座った。頭を手で抱えて。
理性的思考。理性的に。
仮説1:誰かが誘拐してる。 • でもどうやって?インパクトの数秒後。誰もそんなに速くない。
仮説2:トラックが...どこかに運んでる。 • どこ?どうやって?秘密の区画?でも鈴木さんが全部チェックした。
仮説3:カルト。組織。 • 可能性はある。でも誰?なんで?何の動機が?
仮説4:トラックが...超常的。 • 憑依されてる。呪われてる。説明できない何か。 • でもこれは...妖怪?神?魔法?
仮説5:異世界転生が現実で俺は——
「ダメだ」大声で言った。
立ち上がって、ノートを乱暴に閉じて、引き出しに突っ込んだ。
「考えすぎだよ、健二。ストレスたまってる。疲れてる。たぶんユキが提案してたカウンセラーが必要なんだ」
でもそう言いながら、信じてないと分かってた。
何かが起きてる。
何か不可能なことが。
そして俺はその真ん中にいる。
その夜、ユキが持ち帰りの寿司を持って帰ってきた。
「仲直り?」袋を持ち上げて言った。
最低な気分だった。
「ごめん」言った。「昨夜のこと。怒鳴るべきじゃなかった」
「いいの。ストレス抱えてるって分かってる。でも健二...」ソファの隣に座った。「怖いの。本当に。何があっても、話せるのよ。私はここにいる」
話せる?
本当に?
妻を見た。心配で満ちた茶色い目。俺の手を握る彼女の手。
そして思った:もし俺のトラックが人を異世界に送ってるって信じてるって言ったら、去られる。
「ただの仕事」嘘をついた。また。「プレッシャーが多くて。でも...今日は良くなった。約束する」
信じなかった。目で分かった。
でも頷いた。愛してるから。いつか心を開くって期待してたから。
ごめん、と思った。本当にごめん。
比較的沈黙の中で寿司を食べた。
その夜は抱き合って寝た。
でも俺は起きたまま、彼女の規則的な呼吸を聞きながら、もういない三人を考えてた。
そして問うた:次はいつ?
翌日、金曜の朝、朝食を作りながらテレビをつけた。
ニュース。
「...東京都内で過去数週間に謎の失踪を遂げた三人の捜索が続いています。当局は、証拠や手がかりが全くないため苦戦していることを認めています...」
画面に三枚の写真が映った。
渡辺祐樹。佐藤博。
そして三人目:田中真。二十六歳。無職。
写真にはクマのある男の子、黒髪、虚ろな視線。
二日前に轢いた人と同じ人物。
田中、ぼんやり思った。同じ苗字。なんて偶然。
女性アナウンサーが続けた:
「家族は答えを求めています。警察は徹底的な捜査が進行中だと述べていますが、現時点で容疑者はいません」
まだ、頭の中の小さな声が囁いた。
でもいつかパターンに気づく。
そして気づいたら...
どうするんだ、健二?
答えがなかった。
三人の行方不明者の写真が画面に残ってる間、コーヒーが冷めるのを見てた。
三つの命。
家族、友人、物語を持った三人。
そして俺——無意識に、知らずに——彼らが最後に見た人間だった。
目を閉じた。
止める方法を見つけないと。
何があっても。
見つけないと。
三回はパターンだ。そしてパターンは研究できる。分析できる。止められる。
...そうだろ?




