「本当に起きてない」。たぶん。
事故の後の最初の二日間——いや、事故だと思ったもの、幻覚、それとも一体何だったのか——ほとんど眠れなかった。
目を閉じるたびにあの男の子が見えた。渡辺祐樹。二十一歳。大学生。ライトノベル愛好家。
行方不明。
病欠の電話をした。二日間。班長の中村さんは喜ばなかった——繁忙期で運転手が必要だった——でも俺の声を聞いて、嘘じゃないと分かったんだろう。
「田中さん、大丈夫か?」
「インフルです」嘘をついた。「高熱で。運転中に倒れたくないんで」
「分かった。休め。でも金曜には元気になってくれよ?」
「はい。ありがとうございます」
その二日間、テレビの前に座ってニュースチャンネルに釘付けだった。
「渡辺祐樹さんの捜索が続いています。警察は名古屋の工業地帯を捜索しましたが、手がかりは…」
「家族が呼びかけています。火曜日の午後に見かけた方は…」
「友人たちは祐樹さんを静かな性格で、漫画が好きな…」
警察に行くべきだった。分かってた。それが正しいことだった。
でも何て言うんだ?
「すみません、あの男の子を轢いたかもしれません。ええ、行方不明の。いえ、証拠はありません。いえ、死体は消えました。いえ、酔ってません。ええ、頭おかしいって分かってます」
文章が終わる前に精神病院に閉じ込められるだろう。
それに…それに小さな声があった。脳の理性的な部分が囁き続けてた:「本当には起きてない。起きるはずがない。トラックは完璧だった。鈴木さんがチェックした。お前はただ…全部想像しただけだ」
でもテレビの写真は俺が見た男の子と完全一致だった。
完全に。
三日目、木曜日、仕事に戻った。
「健二君!生還おめでとう!」更衣室に入ると、別の運転手の山本が手を振った。
「よう」無理に笑顔を作った。
「ひどいインフルだったな?まだボロボロに見えるぞ」
「ありがとう、優しいね」
山本は笑った。四十代、太っちょ、いつも陽気なやつ。二十年トラックを運転してて、何でも見てきた。「冗談だよ冗談。とにかく今日は仙台まで。長距離だ」
仙台。北。名古屋から遠い。
いい。
最高だ。
「問題ないです」ロッカーを開けながら言った。
「あ、それと中村さんが出発前に会いたいって。車両チェックのことで何か」
心臓が跳ねた。「…チェック?」
「ああ、休んでる間に鈴木さんがお前のトラックをフルチェックしたらしい。全部オーケーか確認したいだけだろ」
「あ、ああ。分かった」
中村さんはいつものように書類と空のコーヒーカップに囲まれたオフィスにいた。
「田中さん、入れ」
座った。手に汗をかいた。
「えーと、鈴木が先週の火曜にトラックの不具合を報告したって言ってたが」
「はい、俺は…変な音がしたと思ったんです。でも全部オーケーだって」
中村さんは頷いて、報告書をめくった。「その通り。車両は完璧な状態だ。おそらく疲れてただけだろう。最近、長時間運転しすぎてないか?」
「いえ、いえ。全て規定通りです」
「よし。なぜなら安全が最優先だからな、田中さん。お前が一番よく分かってるだろう。七年間無事故だ」真剣な目で俺を見た。「誇るべき記録だ」
喉が渇いた。「はい」
「その調子で頼む。さあ行け、長い道のりだぞ」
オフィスを出た時、足が少し震えてた。
七年間無事故。
技術的にはまだ本当だ。だって事故なんて起きてない。そうだろ?
…そうだよな?
仙台への旅は…普通だった。
完全に、驚くほど、安心できるほど普通だった。
交通はスムーズ。天気は良い。ラジオは機能してる。トラックは完璧に無生物な乗り物として振る舞った。
唸り声なし。振動なし。憑依されたハンドルなし。
十九時に荷物を届けて、書類にサインして、倉庫近くのまともなラーメン屋で食った(ついに段ボール味じゃない!)、そして戻った。
深夜二時に東京着。疲れてたが…大丈夫だった。調子良かった。
ほらな?理性的な声が囁いた。ただのストレスだったんだ。ただの想像。
たぶん正しかったんだろう。
他に何だって言うんだ?
金曜日。土曜日。日曜日。
三日間の完璧な日常。
短距離。市内配送。事故ゼロ。異変ゼロ。
トラックはただのトラックだった。
日曜の夜、ユキに電話した——俺の妻で、行方不明の男の子じゃない、当然だが——彼女は会社の研修で大阪にいた。
「研修どう?」ソファに寝転がって聞いた。
「死ぬほど退屈」彼女がため息をついた。「一日八時間『革新的な営業戦略』のパワポ。革新的なんて嘘、五年前と同じことに違う名前つけてるだけ」
笑った。彼女の声が恋しかった。「いつ帰る?」
「火曜の夜!やっと。家が恋しい。あなたが恋しい」
「俺も」
「仕事どう?」
躊躇した。一瞬、全部話したくなった。事故。男の子。被害妄想。
でも考えた:何を話すんだ、正確に?
誰かを轢いたかもしれないって?
死体が消えたかもしれないって?
頭がおかしくなってるかもしれないって?
「大丈夫」代わりにそう言った。「いつもの日常」
「ん。でも疲れてるみたいよ」
「ちょっとね。でも本当に大丈夫」
「分かった。あのね、もう行かなきゃ。明日八時開始なの。愛してる」
「俺も。じゃあ」
電話を切って天井を見つめた。
火曜の夜、妻に会える。一緒に夕飯。たぶん寿司を注文。バカな映画を見る。
日常。
美しい、バカだけど素晴らしい日常。
月曜の朝、ほとんど…幸せな気分で目覚めた。
ああ、分かってる。こう言うとバカみたいだ。でも一週間の被害妄想の後に三日間何もなくて、俺の脳は「事故」を「繰り返してはいけない精神的弱さの瞬間」カテゴリーに収納してた。
行方不明の男の子?偶然。俺が幻覚で見た男の子に似てた。それだけ。
トラックの問題?ストレスと疲労。
全て説明できる。全て理性的。
「お前はバカだよ、健二」髭を剃りながら鏡に向かって言った。「被害妄想のバカ」
でも少なくとも再び眠れるバカだった。
月曜のシフトは短かった:横浜に配達、昼までに戻る。楽勝。
口笛を吹きながらトラックに乗った。口笛だぞ、クソ。何ヶ月もやってなかった。
エンジンをかけた。普通に唸った。
「いい子だ」ダッシュボードを愛情込めて叩いた。「その調子で頼むぞ」
横浜への高速はガラガラだった。まだ早い、七時半過ぎたばかりで、通勤ラッシュはまだ始まってなかった。
リラックスして運転してた。窓を少し開けて、朝の新鮮な空気がどんなコーヒーより目を覚ましてくれた。
ラジオで八十年代の古いシティポップが流れてた。タイトルも知らなかったが耳に心地よかった。
明日の夜ユキが帰ってくる、と思った。俺が料理しようかな。何か特別なもの。彼女の好きなカレー?それとも…
エンジンが唸った。
ダメだ。
ダメダメダメダメ。
「また始まるのか——」
ハンドルが右に引っ張った。激しく。
「クソ!」
全力でしがみついた。トラックが高速を降りようとしてる。俺が選んでない出口ランプを取ろうとしてる。
「やめろ!止まれ!」
ブレーキ。ブレーキを踏んだ。
何もない。ペダルは下まで行くがトラックは続ける。いや、加速してる。
ランプは一般道に続いてた。狭い。交通量少ない。
そしてそこで見えた。
男。三十五か四十くらい。真っ黒なスーツはクシャクシャ。ネクタイは緩んでる。黒い鞄。メガネ。
ゾンビの歩き方で歩道を歩いてた。深いクマ。丸まった肩。携帯が耳に貼り付いてる。
遠くからでも分かった。あれは…疲れ切ってる。完全に、完璧に、精神的に疲弊してる。
「…はい、緊急なのは分かってます」電話で言ってた。「はい。はい、今夜中に終わらせます。いえ、寝てません。はい。はい。すみません。本当にすみません。もう一度すみません——」
逃げろ!叫びたかった。でも無駄だと分かってた。
トラックが加速した。
ハンドルが手から引き剥がされた——文字通り引き剥がされた。見えない誰かが引っ張ってるみたいに。
「やめろおおお!」
男が頭を向けた。俺たちを見た。携帯が手から落ちた。
目が見開かれた。
一歩後ろに下がった。
足りなかった。
ドスン。
前と同じ音。鈍い。くぐもった。
それからトラックが止まった。
沈黙。
アイドリングのエンジン音と俺の荒い呼吸だけ。
どれくらいそこに座ってたか分からない。
手がハンドルを握りしめてて、指の関節が真っ白だった。
心臓が胸の中で叩いてた。
また。また起きた。
トラックから降りた。足が崩れそうだった。
道路を見た。
何もない。
死体なし。
携帯なし。
鞄なし。
何もない。
「でもここにいたんだ!」何もない空間に叫んだ。「クソ、ここにいたんだよ!」
狂ったように走り回った。トラックの下をチェックした。茂みの中。溝の中。
空っぽ。完全に空っぽ。
トラックの側面に寄りかかって、激しく呼吸した。
よし。分かった。
これはストレスじゃない。
これは想像じゃない。
これは…
何だ?一体何なんだ?
トラック。この呪われたトラック。
見つめた。普通に見える。無生物。ただのでかい金属とゴムの乗り物。
でも俺は知ってた。
感じたんだ。生命を持つのを感じた。ハンドルが勝手に動くのを感じた。物理法則と機械工学に反して加速するのを感じた。
俺は狂ってない。
これは本当に起きてる。
「お前は一体何なんだ?」トラックに囁いた。
沈黙。
それから、ほとんど聞こえないくらい微かに、エンジンが…唸った。
普通の唸りじゃない。ほとんど…満足そうな唸り。
猫がゴロゴロ喉を鳴らすみたいに。
トラックから後ずさった。心臓が狂ったように打ってた。
横浜での配達はオートパイロットモードで完了した。道中の記憶すらない。書類にサイン。箱を降ろした。全て機械的に。
デポに戻った。
トラックを停めた。
降りた。
そして立ち尽くして、見つめた。
今どうすればいい?
警察に行く?何て言う?「俺のトラックは憑依されてて人を殺します」?
中村さんに話す?辞める?
もしトラックが…トラックが俺なしでも続けたら?別の運転手と?
質問が多すぎる。恐怖が多すぎる。
家に帰った。
妻が明日帰ってくる。
普通に振る舞わないと。ああ。普通に。
でもその夜、天井を見つめて眠れないまま、分かってた。
これは始まりに過ぎないと。
そしてあのトラックが何であれ、俺を手放さないと。
翌日、朝食中にテレビを見てたら、ニュースが流れた。
待ってた。そして恐れてた。
「大手IT企業の社員が謎の失踪。佐藤博、三十八歳、月曜の朝に出勤のため家を出たきり戻っていません。同僚と家族が心配しています。男性は過労によるストレスを抱えており…」
画面に写真が映った。
黒いスーツ。メガネ。クマ。
あいつだ。
スプーンが指から滑り落ちた。
二人。
二人だ。
クソ。
クソクソクソ。
よし。頭おかしくなってないかも。もっと悪いかもしれない。ずっと、ずっと悪い。




