表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケオン  作者: れんP
ヨーロッパ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/182

霧の終わり、旅立ちの朝

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 ロンドンの霧は、少しずつ――ほんのわずかに、薄れ始めていた。

 重く垂れ込めていた灰色の帳は、朝の光に押し返されるように後退し、雲間から射し込む太陽の光が、濡れた石畳を黄金色に照らし出す。長い夜が、ようやく終わりを迎えたのだと、街そのものが静かに告げているようだった。


「……だったら……」

 霧の残滓の中で、ベアトリス・アシュフォード・コスミンスキーは俯いたまま、小さく声を漏らした。

「私は……何のために、生きればいいの……?」


 その問いは、誰かを責めるものではなく、世界に投げかけられた祈りにも似ていた。

 復讐のためだけに刻まれてきた彼女の時間は、今、行き先を失っている。


「……それを見つけよう」

 ユキは、迷いなく一歩前に出る。

「一緒に」


 短い言葉だった。

 だが、その声には揺るぎのない温度があった。


「……ぅ……っ……」

 ベアトリスの肩が震える。必死に堪えていたものが、堰を切ったように溢れ出した。


「泣いてもいいんだよ」

 彩葉(いろは)は、そっと彼女の背に手を置いた。

「止めるものはいないから」


 張り詰めていた空気が、ほどける。

 こうして事件は、静かに幕を閉じた。


「これで解決でしょうカ」

 ロゼッタは大きく伸びをしながら、周囲を見回した。


「……まあね」

 ソフィー=ドイルは軽く息を吐き、霧の向こうを見つめる。

「でも、やることは残っている。……それに、もういいのかい?」


「……“悪”は消えたようですので」

 機械仕掛けの(クロックワーク)妖精(スプライト)は淡々と告げた。

「私の役目は、もうありません」


 歯車の回転音が次第に遠ざかり、機械仕掛けの(クロックワーク)妖精(スプライト)は朝靄の中へと溶けていく。


「そうか」

 ソフィーは小さく頷いた。


 ――しばらくして。


 そこは、ソフィー=ドイルのお気に入りの家。

 古い煉瓦造りの建物で、窓辺には花が飾られ、紅茶の香りが漂っている。


「と、言うわけだ」

 ソフィーはソファに腰掛け、簡潔に状況をまとめた。


「ほんとに、どうにかなった……」

 ユキは安堵したように息を吐く。


「はい、頑張りマシタよ」

 ロゼッタは胸を張る。


「しかし、この国では少年犯罪は十歳以上で責任を問われるのじゃろう?」

 (むらまさ)が首を傾げる。

「どうして妾たちの同行に、すんなり頷いてくれたのじゃ?」


「フッフッフ!」

 ロゼッタは人差し指を立てた。

「事前に手を打っておいたデース。我々が捕まえた場合はこちらに引き渡すように、とネ!」


「これも、ウラナのおかげだ」

 ソフィーが付け加える。


「ウラナ?」

 フェルルが不思議そうに聞き返す。


「イギリス出身の守護者デース!」

 ロゼッタは誇らしげに言う。

「四姉妹の中で、占いが一番得意なんデース!」


「なるほど」

 彩葉は納得したように頷いた。


「よく承諾してくれたな、人間が」

 村正(むらまさ)が低く言う。


「あたりまえさ」

 ソフィーは微笑む。

「ロゼッタは、イギリスに“勝っている”からね。国土をまた一刀両断されたくないんだろう」


「……終わったよ」

 陽菜(ひな)が、静かに告げた。


「可愛く、なりました」

 (エイ)の声が続く。


「みてみて!みんな!」

 レナが声を弾ませる。


 奥の部屋から現れた陽菜たちの後ろ――

 そこにいたのは、衣服を整え、表情もどこか柔らいだあの少女だった。


「……どう、でしょうか?」

 ベアトリスは控えめに問いかける。


「かわいい!」

 彩葉は即答した。

「……えっと」


「ベアトリスと呼んでください」

 少女は小さく微笑む。

「苗字は、捨てました」


「うん、ベアトリスちゃん」

 彩葉がそう呼ぶと、ベアトリスは照れたように視線を逸らした。


「だが、警戒は必要だな」

 (くろ)が腕を組む。

「断界同盟を抜けたんだろ?狙われる可能性はある」


「そうデスね……」

 ロゼッタは少し考え、

「ならば、アフリカへ行ってはどうでしょう?」


「アフリカ?」

 ユキが聞き返す。


「あそこの守護者は兵ぞろいデス!きっと手を貸してくれるデース!」


「それに」

 ソフィーは封筒を差し出した。

「アフリカでも断界同盟の動きはある。……分かってくれるだろう。これは、招待状のようなものだ」


「ありがとう」

 彩葉は受け取り、深く頷く。


「うむ、行き先は決まりだな」

 (リー)芳乃(よしの)が言う。


「アフリカ大陸に〜出発〜!!」

 リリア=エジソンが明るく宣言した。


「お〜……」

「うん」

「オッケー」


 それぞれの声が重なる。


「行こう!」

 彩葉が笑顔で言った。


「船なら、私が用意するデス」

 ロゼッタは請け負うように胸を叩いた。


 霧の晴れたロンドンの空に、太陽が完全に姿を現す。

 それは終わりではなく――

 新しい物語の、確かな始まりを告げる光だった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ