霧の都に響く悲鳴
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
転移装置の光が収束すると同時に、足元に感じる大地の感触が変わった。
冷たく、しかしどこか湿り気を帯びた空気。鼻腔をくすぐるのは、石造りの街特有の匂いと、遠くから漂ってくる煤と霧の混じった香りだった。
「わぁ~! ここがロンドン……」
彩葉は目を輝かせ、辺りを見回す。
「他の国の街とは全然違くて、いいね」
重厚な石の建物が整然と並び、通りには古風な街灯が立っている。赤い二階建てのバスが遠くを走り、空には薄い霧がたなびいていた。どこか歴史の重みを感じさせる景色に、自然と背筋が伸びる。
「はい……そうですね……」
メデューサも頷きながら、物珍しそうに周囲を見ていた。
「して、ロゼッタはどこに……」
李=芳乃が周囲を見渡した、そのときだった。
「うぁぁぁぁあ!!!?」
街の一角から、切り裂くような悲鳴が響いた。
「!?……いまのは!」
陽菜が即座に身構える。
「行ってみよう!」
彩葉は迷わず言い、声のした方向へ駆け出した。
石畳を踏みしめ、角を曲がると、すでにそこには人だかりができていた。ざわめきと不安が渦巻き、空気が一気に重くなる。
「人だかりができてる」
彩葉が小さくつぶやく。
「何があったんだ?」
村正が低い声で問いかけた。
近くにいた街の人が、疲れ切った表情で振り返る。
「あぁ、守護者さまたちか……人が殺されてたんだよ。おそらく“また”あいつの仕業だろう」
「また? あいつ?」
陽菜が眉をひそめる。
「あぁ、ジャック・ザ・リッパーだよ。まぁ、二代目だがな」
「なんじゃと?」
栞の声が低く響く。
「しってるの?」
レナが栞を見る。
「あぁ。昔、ロンドンで続いた連続殺人事件の犯人の名称じゃ……」
栞は顎に手を当て、考え込む。
「それに、二代目とは……これは、なにかが絡んでおるのは間違いないの」
「……」
ユキは無言で現場を見つめていた。
空気に残る、嫌な気配。それは単なる人間の犯行ではない、と直感が告げている。
「これは……」
喰が周囲を見渡す。
「また、断界同盟かな?」
影がぽつりと呟いた。
「まぁ! その可能性はありマスネ!」
突然、明るい声が割って入った。
「あなたは?」
彩葉が振り向く。
「オット! 自己紹介がマダでシタか!」
くるりと回り、満面の笑みを向けてくる少女。
「私はロゼッタ! イギリスの守護者デース!!」
「あなたが……」
彩葉は目を見開いた。
「ほんとに、人懐っこそう……」
リリア=エジソンが小声で言う。
「うん……」
マイも静かに頷いた。
「おや? なにか私に用があるデスか?」
ロゼッタが首をかしげる。
彩葉は頷き、懐から一通の手紙を取り出して差し出した。
「これは……ロータスからデスね」
ロゼッタは受け取り、目を走らせる。
「……なるほどなるほど……わかりマシた!」
ぱっと顔を上げ、にこりと笑った。
「なるほど、詳しい話はこっちで話しまショウ!」
そう言うと、ロゼッタは迷いなく歩き出す。
彩葉たちはその後に続き、しばらく街路を進んだ末、一軒の落ち着いた佇まいの家へと案内された。
「ここは?」
フェルルが周囲を見回す。
「ここは、私の家だよ」
中から聞こえた、柔らかな声。
扉の奥から現れたのは、落ち着いた雰囲気の女性だった。
「ロゼッタ……お客人かな?」
「そうデスよ! あの英雄デスよ!」
ロゼッタが誇らしげに言う。
「あぁ、ニュースでやっていた……」
女性は一同を見渡し、軽く会釈した。
「私はソフィー=ドイル……ここを守る……ただの妖精、“ブラウニー”だよ……」
霧の都ロンドン。
その静かな街の裏側で、再び不穏な歯車が動き出していた。
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