雪解けの街、そして新たな同行者
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
戦いが終わった直後の街は、不思議な静けさに包まれていた。
朝日に照らされた石畳には、先ほどまでの銃声や悲鳴が嘘のように残っていない。ただ、空気の奥にわずかに残る冷たい緊張と、霊が去ったあとの名残だけが、この場所で何が起きたのかを静かに物語っていた。
エーデルワイスとオレンジリリーは、残留する霊的反応がないかを確認するため、灯籠を手に街路を巡っていた。淡い光が揺れるたび、見えない澱が溶けるように消えていく。
「……これで最後」
エーデルワイスは灯籠を下ろし、小さく息を吐いた。
「もう、彷徨える者はいない。市民も、これで安心できるはず」
「よかった……」
オレンジリリーは胸に手を当て、ほっとしたように微笑んだ。
一方、ヤグルマギクは街の外れに設置された転移装置の前に立ち、機構の最終確認を行っていた。金属と魔力を融合させたその装置は、低く唸るような音を立てながら安定した光を放っている。
「よし、転移装置の設定はこれで完了だな」
ヤグルマギクが満足そうに言う。
「ありがとう」
レナがぺこりと頭を下げた。
「いや、それより」
ヤグルマギクはにやりと笑う。
「ロゼッタに会いに行くんだよな? だったら、イギリスの守護者『ロゼッタ』に会ったら、よろしくな」
「はい!」
彩葉ははっきりと答えた。
「イギリスって、どんなところだろ……」
メデューサが少し不安そうにつぶやく。
「行ってみるなの。そこで考えればいいなの」
アビが軽やかに言う。
「……そうだね」
メデューサは小さく笑った。
「このお手紙を届けに行くんだよね」
花火が確認するように言う。
「うん……『ロータス』に届けるように、言われたやつ……」
マイは大事そうに封筒を握りしめていた。
「そう、これ」
彩葉も頷く。
「ちゃんと、届けよう」
「イギリスの『ロゼッタ』は、とても人懐っこいらしいな」
村正が腕を組んで言う。
「知っているのですね」
陽菜が少し驚いたように返す。
「『サクラ』から聞いたんだ」
村正は懐かしむように目を細めた。
「なるほど」
陽菜は納得したように頷く。
「また、いつか来ますね」
リリア=エジソンがエーデルワイスに向かって手を振る。
「うん……待ってる」
エーデルワイスは静かに微笑んだ。
「それじゃあ、お願いします」
マミが一礼する。
「……」
フェルルは何も言わず、深く頭を下げた。
「あぁ、それじゃあ行くぞ!」
ヤグルマギクが声を張り上げる。
「はい!」
彩葉たちが声をそろえた。
その少し後ろで、ユキは一人、雪解けの地面を見つめていた。
戦いは終わった。仇は討たれ、街は守られた。それでも、胸の奥に残る空洞は、簡単には埋まらない。
「……」
ユキはMG42をぎゅっと抱きしめる。
その様子に気づいた彩葉が、そっと近づいた。
「ユキちゃん」
優しく名前を呼ぶ。
「……彩葉さん」
ユキは顔を上げた。
「これから、どうするの?」
押しつけがましくない、静かな問いだった。
ユキはしばらく黙り込み、それからぽつりと口を開く。
「……今まで、ひとりで歩いてきた」
視線は遠く、過去を見ている。
「でも……あなたたちと一緒にいて……少し、楽だった」
彩葉は何も言わず、ただ待った。
「仇を討っても……心は、すぐには軽くならなかった」
ユキは自嘲気味に微笑む。
「……でも……あなたが、あのとき……一緒にほどこうって、言ってくれた……」
その言葉を思い出すように、胸に手を当てる。
「だから……」
ユキは一歩前に出た。
「……私も……一緒に行きたい……です」
一瞬の静寂のあと。
「もちろん!」
彩葉は迷いなく笑った。
「一緒に行こう、ユキちゃん」
「いいなの!」
アビが元気よく手を挙げる。
「仲間が増えるのは、いいことだ」
李=芳乃も頷いた。
「うん...」
「あぁ!」
影と喰も同意する
「歓迎するよ」
マミが柔らかく微笑む。
「……ありがとう……です」
ユキは小さく、けれどはっきりと頭を下げた。
やがて、転移装置の光が強まる。
「それじゃあ、行くぞ!」
ヤグルマギクが装置を起動させた。
光に包まれながら、彩葉たちは新たな目的地を思い描く。
イギリス――ロンドン。
雪解けの街を背に、彼女たちは次なる旅路へと踏み出した。
そしてその列には、もう一人、白い兎耳の少女の姿があった。
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