朝焼けの街に漂う影
雪はいつの間にかやみ、白く覆われていた街は、静かな朝を迎えつつあった。
雲の切れ間から差し込む朝日が、石畳を淡く照らし、夜の冷気をゆっくりと溶かしていく。吐く息はまだ白いが、どこか希望を孕んだ光が、街全体に満ち始めていた。
「国シリーズが三人も!」
レナが驚きの声を上げるのも無理はなかった。
エーデルワイス、ヤグルマギク、オレンジリリー――いずれも一国を象徴する守護者。その三人が同時に姿を見せること自体、ただ事ではない。
「……天空ドラゴン帝国のときは、助かりました」
エーデルワイスは静かに頭を下げた。
「報告は受けています」
「い、いえ……たまたま居合わせただけで、なにも……」
彩葉は少し慌てて手を振る。
「聞いてるぜ!」
ヤグルマギクが豪快に笑った。
「アスモデウスを倒したらしいな! あいつは相当な手だれだが、さすがだぜ。断界同盟の幹部を二人も屠ったって話もあるしな! ハハハッ!」
「すごい……です……」
オレンジリリーは尊敬のこもった眼差しで彩葉たちを見る。
「私じゃ……上級の悪魔に勝てるかどうか……」
「そんなに強いやつだったのか……」
陽菜が小さく息を呑む。
「ただのバカじゃないんだな」
村正は腕を組み、短くそう言った。
「ふむ」
栞が顎に手を当てる。
「して、なぜ三人も国シリーズの守護者が、ここに集まっておるのじゃ?」
「任務……です……」
オレンジリリーが答える。
「任務?」
李=芳乃が眉をひそめる。
「……この辺りに、スペイン軍が潜伏しているって噂があって……」
エーデルワイスが続ける。
「目撃者も、います……その調査です」
「まぁ、そういうことだ」
ヤグルマギクが肩をすくめた。
「……スペイン……」
ユキの声が、わずかに震えた。
「それって、人間の役目じゃないの?」
リリア=エジソンが首を傾げる。
「いや、本来はそうだったんだが……まぁ、色々とな」
ヤグルマギクは言葉を濁す。
「?」
フェルルが不思議そうに見る。
「色々?」
影が低く問い返す。
「……その他にも……」
エーデルワイスは慎重に言葉を選んだ。
「壁をすり抜けただの、軍の人間が捕まえようとしたら、すり抜けただの……だから、私たちが出た……」
「……それって、もしかして?」
マミの声が緊張を帯びる。
「うん……その可能性がある」
エーデルワイスは頷いた。
「だから、三途の川の船頭ちゃんに、この灯籠をもらった」
「灯籠?」
喰が首を傾げる。
「あぁ」
ヤグルマギクが答える。
「それを彷徨える者に渡すと、導いてくれるんだ」
「そう……なんですね」
影は静かに納得した。
「霊魂……か……」
花火が辺りを見回す。
「何人くらいいそうなの?」
「さぁな」
ヤグルマギクは遠くを見る。
「ここでは、家の仲間が暴れまわったからな」
「ここで生まれた仲間って、誰かいるの?」
花火が聞く。
「あぁ」
ヤグルマギクは指を折りながら答えた。
「カール自走臼砲の守護者、パンツァーファウストの守護者、それとUボート潜水艦の守護者だな」
「たくさんだね」
花火が感心する。
「そうか?」
ヤグルマギクは笑う。
「これでも少ない方だ。今は平和になって、のんびりしてるよ」
「平和が一番……」
メデューサがぽつりと呟く。
「そうだね」
彩葉も同意する。
「……?」
マイがふと遠くを指差した。
「……もしかして、あれがそう?」
その瞬間、空気が一変した。
「……せ……ん……そ……う……」
掠れた声が、四方から重なって響く。
次の瞬間――
「バババババ!!!!!」
銃声が朝の静けさを引き裂いた。
「!?」
エーデルワイスが即座に身構える。
「撃ってきました!?」
オレンジリリーが声を上げる。
「どうやら、簡単には終わらないようだ」
ヤグルマギクは低く笑い、装備を構えた。
「……スペイン……人……仇……」
ユキの目に、冷たい光が宿る。
「?」
彩葉がその変化に気づいた。
「他からも、ゾロゾロ出てきたのじゃ!」
栞が周囲を見渡して叫ぶ。
「……」
村正は無言で前に出る。
「突破は不可能です」
陽菜が即座に判断する。
「市民もいますし」
銃声、呻き声、彷徨える者たちの影。
朝焼けに照らされた街は、再び戦場の気配に包まれ始めていた。
「まずは、なんとかしましょう!」
彩葉の声を合図に、守護者たちは動き出す。
平和な朝を守るための戦いが、今、幕を開けた――。
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