雪原に眠る兎と鉄の鼓動
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
重厚な翼音が、白い大地の上で静かに消えていく。
騎竜は使命を果たしたと言わんばかりに翼をたたみ、ゆっくりと身体を伏せた。
そこは――鉄の国、ドイツ。
だが人々の営みは見えず、視界いっぱいに広がるのは、深く降り積もった雪と、凍りついた森だけだった。
空から舞い落ちる雪は音もなく、世界を白へと塗り替えていく。
「……ドイツについたね」
彩葉が白い息を吐きながら言った。
「ええ」
陽菜は周囲を見渡す。
「街には降りられなかったから、広い場所を選びましたが……それでも、とても美しい」
「うん!」
レナは雪を踏みしめながら、無邪気に頷く。
「なんだか、きらきらしてる!」
「しかし……」
村正が眉をひそめた。
「街一つ見えないな」
「そうですね」
陽菜も同意する。
「あたりを見ても……自然ばかりです。人の気配が、ほとんどありません」
「うん……」
マミは静かに雪景色を見つめる。
「ここ……」
リリア=エジソンが少し考え込むように言った。
「たぶん、南の方かな?」
「えっ」
マイが驚いたように振り向く。
「リリアちゃん、わかるの?」
「うん!」
リリアは笑顔で頷いた。
「地図を見たことあるから!」
「そうなんだ……」
マイは感心したように小さく呟いた。
「影、大丈夫か?」
喰が隣を歩く影に声をかける。
「寒くないか?」
「……大丈夫……です……」
影はそう言いながらも、少しだけ肩をすくめた。
「……飛んでみてみるなの」
アビがふわりと宙に浮かび上がる。
そのまま、雪雲を割るように高く舞い上がり、広範囲を見渡した。
――数秒後。
「……?」
空中で、アビの動きが止まる。
「どうしたのじゃ?」
栞が下から声をかける。
「……女の子……」
「え?」
彩葉が顔を上げた。
「女の子がいるなの……」
アビは不思議そうに言う。
「……こんな、なにもないところに少女?」
李=芳乃が目を細める。
「うん……いるなの」
アビは確信をもって頷いた。
「……どうして、こんなところに?」
彩葉は一瞬迷ったが、すぐに決断する。
「行ってみよう」
アビの案内で、彩葉たちは雪原を進んでいった。
やがて――
雪の小さな盛り上がりのそばで、それは見つかった。
「……寝てる……」
彩葉が小さく呟く。
そこには、雪の上に横たわる一人の少女がいた。
白い息を規則正しく吐きながら、ぐっすりと眠っている。
――だが。
「……でも……」
陽菜の視線が、少女の腕に向かう。
少女は、巨大なマシンガンを抱き枕のように抱え、すやすやと眠っていた。
「……これは……」
彩葉が言葉を失う。
「……マシンガン……」
陽菜は慎重に近づき、目を凝らす。
「これは……グロスフスMG42機関銃ですね」
「さすが陽菜だな」
村正が感心したように言う。
「銃のことに詳しい」
「まぁ……」
陽菜は少し照れたように微笑む。
「銃から生まれた守護者ですので」
「……ここで、寝ているみたいだね」
フェルルが優しく言った。
「……耳が生えてるよ?」
「……うさぎ、かな?」
メデューサが首を傾げる。
次の瞬間。
「……ぅ……」
少女が身じろぎした。
「……ぅ~……」
ゆっくりと瞼が開き――
「……あれ? ねてました~……?」
一瞬の沈黙。
「………………!?」
少女は彩葉たちの姿を認識した瞬間、跳ねるように飛び起きた。
「!?!?!?!?!?」
雪を蹴り、距離を取る。
マシンガンは、すでに構えられていた。
「……っ!」
空気が張り詰める。
「あ、驚かせてごめんね」
彩葉は慌てて両手を上げ、敵意がないことを示した。
「私は彩葉。君は?」
少女はしばらく警戒したまま、じっと彩葉を見つめていたが――
やがて、ぽつりと答えた。
「……ユキ……」
その声は、雪のように静かだった。
「……RABBIT精族……」
「せいぞく?」
花火が首を傾げる。
「妖精と精霊のハーフじゃ」
栞が説明する。
「それを、精族というのじゃ」
「……うん……」
ユキは小さく頷いた。
そして、少しだけ表情を緩める。
「……悪い人じゃなさそう……」
「……信用するよ」
「え!?」
彩葉が思わず声を上げる。
「そんな……あっさり?」
「……」
李=芳乃が目を見開く。
「精族は、警戒心が強いはず……」
ユキは首を傾げ、静かに問い返した。
「……?」
その無垢な仕草に、張りつめていた空気が、少しだけ和らいだ。
雪原に眠っていた、兎耳の少女。
鉄の鼓動を抱いた精族――ユキ。
彼女との出会いが、この鉄の国での旅に、
どんな波紋を広げていくのか。
白い雪は、まだ静かに降り続いていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




