表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケオン  作者: れんP
ヨーロッパ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/182

雪原に眠る兎と鉄の鼓動

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 重厚な翼音が、白い大地の上で静かに消えていく。

 騎竜は使命を果たしたと言わんばかりに翼をたたみ、ゆっくりと身体を伏せた。


 そこは――鉄の国、ドイツ。

 だが人々の営みは見えず、視界いっぱいに広がるのは、深く降り積もった雪と、凍りついた森だけだった。


 空から舞い落ちる雪は音もなく、世界を白へと塗り替えていく。


「……ドイツについたね」


 彩葉(いろは)が白い息を吐きながら言った。


「ええ」


 陽菜(ひな)は周囲を見渡す。


「街には降りられなかったから、広い場所を選びましたが……それでも、とても美しい」


「うん!」


 レナは雪を踏みしめながら、無邪気に頷く。


「なんだか、きらきらしてる!」


「しかし……」


 村正(むらまさ)が眉をひそめた。


「街一つ見えないな」


「そうですね」


 陽菜も同意する。


「あたりを見ても……自然ばかりです。人の気配が、ほとんどありません」


「うん……」


 マミは静かに雪景色を見つめる。


「ここ……」


 リリア=エジソンが少し考え込むように言った。


「たぶん、南の方かな?」


「えっ」


 マイが驚いたように振り向く。


「リリアちゃん、わかるの?」


「うん!」


 リリアは笑顔で頷いた。


「地図を見たことあるから!」


「そうなんだ……」


 マイは感心したように小さく呟いた。


「影、大丈夫か?」


 (くろ)が隣を歩く影に声をかける。


「寒くないか?」


「……大丈夫……です……」


 (エイ)はそう言いながらも、少しだけ肩をすくめた。


「……飛んでみてみるなの」


 アビがふわりと宙に浮かび上がる。


 そのまま、雪雲を割るように高く舞い上がり、広範囲を見渡した。


 ――数秒後。


「……?」


 空中で、アビの動きが止まる。


「どうしたのじゃ?」


 栞が下から声をかける。


「……女の子……」


「え?」


 彩葉が顔を上げた。


「女の子がいるなの……」


 アビは不思議そうに言う。


「……こんな、なにもないところに少女?」


 (リー)芳乃(よしの)が目を細める。


「うん……いるなの」


 アビは確信をもって頷いた。


「……どうして、こんなところに?」


 彩葉は一瞬迷ったが、すぐに決断する。


「行ってみよう」


 アビの案内で、彩葉たちは雪原を進んでいった。


 やがて――

 雪の小さな盛り上がりのそばで、それは見つかった。


「……寝てる……」


 彩葉が小さく呟く。


 そこには、雪の上に横たわる一人の少女がいた。

 白い息を規則正しく吐きながら、ぐっすりと眠っている。


 ――だが。


「……でも……」


 陽菜の視線が、少女の腕に向かう。


 少女は、巨大なマシンガンを抱き枕のように抱え、すやすやと眠っていた。


「……これは……」


 彩葉が言葉を失う。


「……マシンガン……」


 陽菜は慎重に近づき、目を凝らす。


「これは……グロスフスMG42機関銃ですね」


「さすが陽菜だな」


 村正が感心したように言う。


「銃のことに詳しい」


「まぁ……」


 陽菜は少し照れたように微笑む。


「銃から生まれた守護者ですので」


「……ここで、寝ているみたいだね」


 フェルルが優しく言った。


「……耳が生えてるよ?」


「……うさぎ、かな?」


 メデューサが首を傾げる。


 次の瞬間。


「……ぅ……」


 少女が身じろぎした。


「……ぅ~……」


 ゆっくりと瞼が開き――


「……あれ? ねてました~……?」


 一瞬の沈黙。


「………………!?」


 少女は彩葉たちの姿を認識した瞬間、跳ねるように飛び起きた。


「!?!?!?!?!?」


 雪を蹴り、距離を取る。


 マシンガンは、すでに構えられていた。


「……っ!」


 空気が張り詰める。


「あ、驚かせてごめんね」


 彩葉は慌てて両手を上げ、敵意がないことを示した。


「私は彩葉。君は?」


 少女はしばらく警戒したまま、じっと彩葉を見つめていたが――

 やがて、ぽつりと答えた。


「……ユキ……」


 その声は、雪のように静かだった。


「……RABBIT精族……」


「せいぞく?」


 花火(はなび)が首を傾げる。


「妖精と精霊のハーフじゃ」


 (しおり)が説明する。


「それを、精族というのじゃ」


「……うん……」


 ユキは小さく頷いた。


 そして、少しだけ表情を緩める。


「……悪い人じゃなさそう……」


「……信用するよ」


「え!?」


 彩葉が思わず声を上げる。


「そんな……あっさり?」


「……」


 李=芳乃が目を見開く。


「精族は、警戒心が強いはず……」


 ユキは首を傾げ、静かに問い返した。


「……?」


 その無垢な仕草に、張りつめていた空気が、少しだけ和らいだ。


 雪原に眠っていた、兎耳の少女。

 鉄の鼓動を抱いた精族――ユキ。


 彼女との出会いが、この鉄の国での旅に、

 どんな波紋を広げていくのか。


 白い雪は、まだ静かに降り続いていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ