竜の背に託す旅路、鉄の国へ
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
天空ドラゴン帝国を覆っていた戦の緊張は、すでに嘘のように消え去っていた。
アスモデウスが率いていた堕天使たちは一人残らず捕縛され、魔界の法に従い、魔界へと送り返された。
空に漂っていた不穏な気配は晴れ、澄んだ風が高き城の回廊を静かに吹き抜けていく。
玉座の間。
巨大な竜の紋章を背に、竜帝はゆったりとした様子で彩葉たちを見渡していた。
「お客人よ。主犯の相手をさせてしまい、済まなかったな」
その声には、王としての威厳と同時に、確かな誠意があった。
「い、いえ……お気になさらず」
彩葉は慌てて首を振る。
「私たちがここに来たのは偶然でしたし……」
「ハッハッハ!」
竜帝は大きく笑った。
「そう言ってくれるか。助かる。――ところで、お主たちはこれからどこへ向かうのだ?」
その問いに、彩葉は仲間たちを一度見回してから答えた。
「ドイツを渡って……イギリスに向かう予定です」
「ふむ……」
竜帝は顎に手を当て、少し考える素振りを見せる。
「であれば、騎竜を貸そう」
「きりゅう?」
レナがきょとんとした声を上げる。
「あぁ」
竜帝は穏やかに頷いた。
「人間がこの帝国を訪れる際に派遣する、特別なドラゴンだ。高度な訓練を受けており、目的地まで送り届けた後は、自ら帰還する」
「へぇ~……」
レナの瞳がきらりと輝く。
「そんなドラゴンがいるんだ……」
「騎竜だったら、みんな乗れるよ!」
ソフィア・フォン・ピラトゥスがぱっと顔を明るくした。
「私も一緒に行きたかったな~。でも、さすがに仕事があるから無理だけど」
少し残念そうに笑いながらも、その瞳には、仲間を見送る誇らしさが宿っていた。
「ありがとうございます」
彩葉が深く頭を下げる。
「本当に……助かります」
「ございます」
陽菜も静かに礼を添えた。
「では、準備が整い次第、出発としようか」
村正が仲間たちに声をかける。
「うん!」
彩葉は力強く頷いた。
「来る時に乗ったドラゴンに、また乗るのか~」
喰が腕を組み、にやりと笑う。
「たのしみだぜぇ」
「……うん」
影も小さく頷き、その表情はどこか穏やかだった。
「短い休息じゃったが」
栞が空を見上げる。
「旅もまた、楽しいものよ」
「そうだな」
李=芳乃も同意する。
「新たな地には、新たな学びがある」
「リリアちゃんは、ドイツに行ったことあるの?」
マイが少し控えめに尋ねる。
「あるよ~」
リリア=エジソンは微笑んだ。
「歴史も深いし、楽しいところだよ」
「そうなんだ……」
マイの声が、少しだけ弾んだ。
「……楽しみ」
「アビは飛べるから、今回も乗らなくてもいいなの」
アビがいつもの調子で言う。
「こんどは乗ったら?」
マミが優しく促した。
「いい体験できると思うよ?」
「……」
アビは少し考え込んだあと、こくりと頷く。
「……そうするなの」
「ドラゴンの背はとても居心地がいいから」
フェルルが柔らかく笑う。
「それがいいよ」
「うん……」
やがて、城の外に用意された騎竜たちのもとへ案内される。
巨大な翼をたたみ、静かに佇むその姿は、まさに空の覇者だった。
しばらくして――
彩葉たちは騎竜の背に乗り、天空ドラゴン帝国を後にする。
雲を突き抜け、山脈を越え、風を切り裂きながら進む空の旅。
眼下には、広がる大地と、移り変わる景色。
次なる目的地――
ドイツへ。
そして。
――ドイツ・塹壕跡。
深く掘られた地面。
崩れかけた壁。
錆びついた鉄と、忘れ去られた歴史の匂い。
その場所で、一人の少女が立ち尽くしていた。
白いウサ耳。
小柄な体。
だが、その瞳には、異様な光が宿っている。
「……武器がいっぱい……」
彼女は塹壕の中に転がる残骸を見つめ、くすりと笑った。
「えへへ……」
その笑みは、無邪気で――
同時に、どこか危うさを孕んでいた。
新たな土地、新たな人物。
旅は、次の局面へと静かに踏み込んでいく。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




