玉座に忍び寄る黒翼
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
玉座の間には、重厚でありながらどこか温かみのある空気が満ちていた。天井高く描かれた竜の紋章が、淡い光を受けて静かに輝いている。
「こ、こんにちは……」
彩葉は小さく頭を下げ、声を震わせながら挨拶をした。視線の先にいるのは、竜族を束ねる存在――竜帝。その威厳に、どうしても身体が強張ってしまう。
「ハハハ、そんなに固くならないでくれ。私も堅苦しいのは嫌いだ」
竜帝は大きく笑い、玉座から身を乗り出すようにして彩葉を見た。その声には威圧感よりも、長き時を生きた者特有の包容力があった。
「はい……」
それでも緊張は完全には解けない。そんな彩葉の袖を、勢いよく引っ張る者がいた。
「ねぇねぇ!お話しよ!こっち!」
ソフィア・フォン・ピラトゥスだった。輝く笑顔のまま、彩葉の手を掴み、半ば強引に引っ張っていく。
「え! わぁ〜!!」
「お話だお話〜!」
レナが跳ねるようについてきて、後ろからはマミが慌てた声を上げた。
「レナ、待って」
「一時の休憩もいいかもね、ふふっ」
リリア=エジソンが穏やかに微笑み、マイも小さく頷く。
「うん」
その様子を少し離れた場所から眺めながら、喰が口角を上げた。
「影、いこうぜぇ」
「うん……」
「わ~い」
花火が楽しそうに声を上げ、フェルルがその様子を見て微笑む。
「楽しそうだね」
「ああ」
村正は短く答え、栞は顎に手を当てた。
「久しぶりの休息じゃな」
「うむ」
李=芳乃が同意し、メデューサは何も言わず、静かに周囲を見渡していた。アビは気の抜けた声を漏らす。
「お〜」
――そして、ソフィアに連れられた彩葉は、玉座の間を抜け、城内の回廊へと足を運ぶ。
「ね、彩葉ってどんなところから来たの?」
「えっと……まだ、話せるほど整理できてなくて……」
「そっかぁ。でも、無理しなくていいよ!」
ソフィアはくるりと回って、楽しそうに笑った。その無邪気さに、彩葉の胸の奥が少しだけ軽くなる。
城の壁に掛けられた絵画、竜族の歴史を刻んだレリーフ。ソフィアは一つひとつを指差しながら、楽しげに語る。
「ここね、昔すっごい戦いがあったんだって!」
「戦い……」
「でも今は平和!……のはずなんだけどね」
その言葉が終わるより早く、玉座の間に緊張が走った。
「へ、陛下!!大変です!」
竜兵士が駆け込み、膝をつく。
「どうした!」
「そ、それが……堕天使です! 堕天使が攻めてきました!!」
一瞬、空気が凍りついた。
「……迎撃の準備をしろ」
竜帝の声は低く、揺るぎがなかった。
「はっ!!」
兵士は即座に走り去り、城内に警鐘が鳴り響く。
その頃――
ソフィア・フォン・ピラトゥスの部屋。
「……なんだか、騒がしいような……」
陽菜は窓の外を見つめ、不安げに呟いた。
そこへ、勢いよく扉が開く。
「姫様! お客人方! 緊急事態です!!」
「え……?」
「堕天使が攻めてきました!!!」
その報せに、彩葉の胸が大きく跳ねた。
休息の時間は、あまりにも短かった。
玉座に忍び寄る黒き翼――
嵐は、すでに始まっていた。
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次回もお楽しみに




