白嶺を越えし友、天空の王座へ
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
路地に響いた重い足音と、金属が触れ合う乾いた音が、穏やかな街の空気を切り裂いた。
「――姫様! ここにいらしたのですね!」
振り向いた先には、白銀の鎧をまとった竜兵士たちが並んでいた。
背には竜の紋章、視線は鋭いが、その奥には確かな安堵が宿っている。
「もう……探したんですよ」
先頭に立つ兵士が、深く頭を下げる。
「すみません、ちょっと街を見てみたくて」
ソフィア・フォン・ピラトゥスは、少し気まずそうに笑った。
だが次の瞬間、何かを思いついたように顔を上げる。
「あ、えっと……そうだ!」
くるりと振り返り、彩葉たちを見つめる。
「ねぇ! 彩葉たちも、私のお城に来ない? 歓迎するよ?」
その言葉に、一瞬の沈黙が落ちた。
「……ドラゴンの……お城に……」
影がぽつりと呟く。
「お〜」
アビは目を輝かせ、空を見上げた。
「行ってみたいです」
リリア=エジソンは興味を隠さず、マイも小さく頷く。
「私も〜!」
花火が勢いよく手を挙げる。
「お、オレも……」
喰が少し照れながら続き、レナもすぐに声を上げた。
「私も!」
「よ、よければ……」
マミの控えめな声に、陽菜も微笑んで頷く。
「うん」
彩葉は皆の顔を見回してから、ソフィアへ向き直った。
「……ほんとに、いいの?」
「もちろん!」
ソフィアは胸を張った。
「父上も、ドラゴンたちも地上の存在が好きだから。きっと喜ぶよ!」
「これはめったにないな」
村正が感心したように言う。
「うむ。異種族交流としても、貴重な機会じゃ」
李=芳乃も静かに頷いた。
「たしかにね」
フェルルは柔らかく微笑む。
「そ、それじゃあ……」
メデューサが不安げに彩葉を見る。
「いいかな?」
「うん!」
ソフィアは弾むように答えた。
「それじゃあ――行こー!!」
「……まったく、姫様は本当に自由なんですから」
竜兵士は小さくため息をつきながらも、姿勢を正す。
「ご案内いたします。お客人」
その合図とともに、空気が変わった。
竜兵士たちが魔力を展開すると、足元に光の陣が描かれ、周囲の風が一気に高空のものへと変わる。
次の瞬間、視界が反転し、街と山が遠ざかっていった。
――雲を突き抜けた先。
そこには、空に浮かぶ巨大な島があった。
白い岩盤と蒼い結晶で構成された大地。
その中心にそびえるのは、山そのものを削り出したかのような壮麗な城。
「……すごい……」
誰かが息を呑む。
城の周囲を、大小さまざまなドラゴンが悠然と飛び交い、空そのものが王国の一部であるかのようだった。
やがて、一行は城内へと導かれる。
高い天井、柱に刻まれた古き竜語の文様。
玉座の間へと続く回廊は、静謐で、そして圧倒的な威厳を放っていた。
「天空ドラゴン帝国・玉座にて――」
竜兵士の声が響く。
玉座の奥、巨大な玉座に座していたのは、威風堂々たる存在だった。
黄金の角、深い蒼の鱗。
人の姿を保ちながらも、その眼差しには空と時を支配する王の重みがある。
「……そうか」
竜帝は低く、しかしよく通る声で呟いた。
「娘が、友を連れてくるとはな」
竜兵士が一瞬、戸惑ったように顔を上げる。
「……? 皇帝陛下?」
「いや」
竜帝は、わずかに目を細めた。
「娘が友を連れてくるのは……おそらく、初めてのことだと思ってな」
その視線が、ソフィアへ向けられる。
ソフィアは少し照れたように笑いながらも、しっかりと前に出た。
「父上。この人たちは……私が、ちゃんと友達になりたいと思った人たちです」
玉座の間に、静かな沈黙が落ちる。
やがて――竜帝は、低く、深く頷いた。
「……そうか」
その一言には、認める重みが込められていた。
「ならば、天空ドラゴン帝国は彼らを歓迎しよう」
その瞬間、玉座の間に集った竜たちが、一斉に翼を鳴らした。
それは祝福の音。
白嶺の上、天空の王国で――
新たな縁が、確かに結ばれた瞬間だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
白嶺の街から天空ドラゴン帝国へ――物語は新たな舞台へと進みました。
ソフィアと彩葉たちの出会いが、これからどんな縁を紡いでいくのか。
次回も、どうぞお楽しみに。




