表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケオン  作者: れんP
ヨーロッパ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/182

暗雲の下で咆哮は沈む

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

イタリアの空に、ゆっくりと暗雲が集まり始めていた。

昼間の澄み切った蒼穹は、まるで嘘だったかのように色を失い、灰色の雲が静かに、しかし確実に広がっていく。

それは嵐の前触れではなく――戦いの終わりを告げるための幕のようでもあった。


「ここは……私一人で十分……」


アリーチェ・ディ・セル・レオナルド・ダ・ヴィンチは、振り返らずにそう告げた。

紫色の髪が風に揺れ、その背中には一切の迷いがなかった。


マンティコアの群れは、なおも空を埋め尽くしている。

獅子の体を持ち、人の顔で嗤い、毒を宿した尾を揺らす異形たちが、殺意を剥き出しにして旋回していた。


「グルルルルルルル……!」


最初に動いたのは、ボスマンティコアだった。

巨大な翼を一振りすると同時に、衝撃波が地面を抉る。


――だが。


アリーチェの姿は、すでにそこにはなかった。


紫の残光だけが空に線を引き、次の瞬間、マンティコアの首元に鋭い衝撃が走る。

空気を裂く音すら置き去りにする速度。

爪、牙、尾――そのすべてを、紙一重でかわし、反撃は正確無比だった。


「ギャァァァッ!!」


一体、また一体と、群れが撃ち落とされていく。

地面に叩きつけられる前に、アリーチェは確実に急所を断ち、再び空へと舞い上がった。


「無駄……」


彼女の声は静かだった。

怒りも、興奮もない。ただ“排除”という事実だけがそこにあった。


マンティコアたちは数で押し切ろうと、一斉に襲いかかる。

四方八方から迫る牙と毒針。

空間そのものが殺意で満たされていく。


だが、アリーチェは止まらない。


跳ぶ。

斬る。

叩き落とす。


紫の疾風が、夜の訪れとともに加速していく。

夕暮れが赤く空を染め、やがて闇が落ちる頃――それでも戦いは終わらなかった。


月明かりの下、マンティコアの咆哮は次第に悲鳴へと変わっていく。

夜の静寂を切り裂く音だけが、延々と続いた。


――そして。


「グ……グルル……」


残された数体が、傷だらけの体で空を漂っていた。

恐怖と本能が入り混じったその瞳は、もはや獲物を見るものではない。


「……終わり」


アリーチェが踏み込もうとした、その瞬間。


「とも!危ない!」


ワインの叫びが響く。


「!」


ともが振り返った時、すでに遅かった。

瀕死のマンティコアが、最後の力を振り絞り、毒尾を突き出していた。


「この距離じゃ……間に合わない!」


アリーチェが歯を食いしばる。


――その刹那。


「伏せてください!」


凛とした声が、空気を切り裂いた。


「!」


全員が反射的に身を低くする。


次の瞬間、残党のマンティコアたちは、動きを止め――

そのまま、石像へと変わった。


「……!」


静寂が訪れる。


「メデューサ!」


彩葉(いろは)が声を上げた。


「良かった……間に合った」


メデューサは息を整えながら、そっと目を伏せる。


「流石です」


ステンノが微笑む。


「さすが、わたしたちの妹」


エウリュアレも誇らしげに頷いた。


月明かりに照らされた石像の残骸が、静かに崩れ落ちていく。

夜風が吹き抜け、戦いの痕跡だけがそこに残った。


「やっぱり……すごいのよね!」


ともが目を輝かせる。


アリーチェは小さく息を吐き、空を見上げた。

暗雲はすでに散り、星が瞬き始めている。


その背後から、落ち着いた声がかかった。


「……何があったの?」


振り向くと、そこにはビアンカ=ヒナギクの姿があった。

大きな石剣を背負い、戦場を静かに見渡している。


夜は深く、だが確かに――

イタリアの空に、再び静寂が戻りつつあった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

イタリアの空の下、ひとつの戦いが静かに終わり、そして新たな流れが動き始めています。


それぞれの力と選択が、これからどこへ向かうのか――

次回も、ぜひお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ