旅は道連れ、心は選択
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
ギリシャの昼下がり。
柔らかな日差しが、パルテノン神殿の白い柱を照らし、空は穏やかな青をたたえていた。
神殿を見下ろす高台には、天空石で作られたベンチがあり、そこに一人の少女が横たわっていた。
「……うぅ~ん……」
小さく身じろぎし、彩葉はゆっくりと瞼を開く。
「あれ……? ここは……」
視界に入ったのは、見慣れない白い天井ではなく、澄んだ空と、どこか懐かしい神殿の輪郭だった。
「おや、目を覚まされましたか」
穏やかな声がして、彩葉は体を起こす。
「ステンノさん!」
そこに座っていたのは、落ち着いた微笑みを浮かべるステンノだった。
「あれ……? みんなは?」
「ふふ、あちらですよ」
そう言って、ステンノは顎で示す。
「……?」
彩葉が視線を向けると、広場の方では仲間たちが思い思いに過ごしていた。
「しかし、かっこよかったな~、あの時の彩葉」
村正の声が響く。
「そうじゃな。少しでも勇気がなければ、あぁはならんと思うのじゃ」
栞がうんうんと頷き、
「ワシもそう思う」
李=芳乃が腕を組んで同意していた。
その光景を見て、彩葉は少し照れたように笑う。
「……みんな……」
ふと、気づいたことがあり、彩葉はステンノに向き直った。
「そういえば……ステンノさん」
「はい?」
「向こうにいるエウリュアレさんも……人間の姿、ですよね?」
ステンノは小さく目を見開き、すぐに微笑んだ。
「お気づきになりましたか。女神アテナが、私たちも元に戻してくださったのです」
自分の手を眺める。
「久しぶりの人間の身体……もっと違和感があるかと思いましたが、不思議なものですね」
「じゃあ……力は?」
「えぇ」
静かに頷く。
「神としての力も、ゴルゴンだった頃の能力も……どちらも、存在しています」
彩葉は少し考え込む。
「それで……これからどうするんですか?」
「私たちは、イタリアへ向かおうと思っています」
「イタリアに?」
「はい。あの地には、力を制御する方法を知っている守護者がいると聞きました」
少し遠くを見るような目で、ステンノは言う。
「噂に過ぎないかもしれません。それでも……行ってみる価値はあると思うのです」
その瞬間、彩葉の顔がぱっと明るくなった。
「だったら!」
「?」
「一緒に行こ! 私たちもイタリアを通る予定なんです!」
「……よろしいのですか?」
少し意外そうに目を瞬かせるステンノ。
「うん!」
彩葉は迷いなく頷いた。
「仮同行、という形でしょうか」
陽菜が穏やかに言う。
「いいですね」
「うむ、旅は道連れというしな」
栞が笑い、
「そうだぜ」
村正も続く。
「……ありがとうございます」
ステンノは深く頭を下げた。
「では、皆さんに話してきますね」
そう言って立ち上がる。
「……」
彩葉は、その背中を見送りながら、ぽつりと呟いた。
「……色々、あったなぁ……」
「彩葉?」
隣に座る陽菜が声をかける。
「いや、なんでもない。ただ……」
少し空を仰ぐ。
「旅って、大変だなって」
「ふふ」
陽菜は柔らかく笑った。
「でも、まだ始まったばかりですよ」
「……そうだけど」
「それに」
陽菜は続ける。
「確かに……色々、ありましたね」
「……うん」
彩葉は静かに頷いた。
――しばらくして。
「ただいま~!」
花火の明るい声が響く。
「やったー! 同行だ~!」
「ふふっ」
リリア=エジソンも楽しそうだ。
「楽しくなりそうですね」
マイが微笑み、
「そうだね」
フェルルも頷く。
「うん……」
影が小さく同意し、
「あぁ」
喰も短く答える。
「短い間でしょうが、よろしくお願いします」
エウリュアレが丁寧に頭を下げた。
「ううん、いいよ」
彩葉は手を振る。
「私から誘ったんだし」
「もう少し、力を抜いてもいい」
マミが言う。
「そうなのです」
アビも元気よく。
「うんうん」
レナが大きく頷いた。
その時、陽菜が周囲を見回す。
「あれ? アテナ様とアルテミス様は?」
「お姉様たちは」
アカンサスが答える。
「先に神界へ戻って、諸々の報告をするそうです」
「……」
少し離れたところで、メデューサは立ち尽くしていた。
(私が……彩葉さんたちと?)
脳裏に、アテナの言葉が蘇る。
『うん! 同行して、一緒に旅をしたらいいと思うよ。どうかな?』
(でも……私は、この力が……)
『そっか。じゃあ、仮同行して考えるのも悪くないんじゃない?』
メデューサは唇を噛む。
(もし……この力で……仲良くなりたい人を傷つけてしまったら……)
「……」
「どうしたの?」
彩葉が振り返った。
「メデューサちゃん。行くよ?」
「あ……い、いえ……はい!」
慌てて答える。
「転送魔法陣、座標セット完了……」
アカンサスが装置を操作する。
「行きますよ」
「うん! お願い!」
「それでは――発動……」
光が広がり、視界が白に染まる。
その直前、アカンサスは小さく呟いた。
「……行きましたか……ビアンカ=ヒナギクさん……ちゃんと、教えてくれるかな?」
光の中で、新たな旅路が、静かに動き出していた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
出会いと選択が、これからどんな未来を形作っていくのか――
次回からの展開も、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回もお楽しみに。




