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アルケオン  作者: れんP
ヨーロッパ編

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朝陽にほどける因縁

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 朝日が、ゆっくりと空を染めていた。


 夜の名残を引きずる雲の隙間から、淡い光が差し込む。

 激しい戦いが嘘だったかのように、ギリシャの大地は静けさを取り戻しつつあった。


 砕けた石畳の上で、エウリュアレは言葉を失っていた。


「……」


 隣で、ステンノが震える声を絞り出す。


「どうして……メデューサ……」


 視線の先にいるのは、確かに三女の姿だった。


「殺されたはず……それに……」


 その姿は、蛇ではない。

 かつての、人の姿。


「……以前の姿に、戻っている……」


「うん」


 穏やかな声で、アテナが答えた。


「私が戻したからね」


「……え?」


 アテナは少し照れたように、けれど当然のことのように言う。


「お薬で。ペルセウスはね、勘違いしてメデューサの首を切っちゃったけど……」


 軽く肩をすくめる。


「ちゃんとハデス叔父様にお願いして魂を取り戻してもらったし、体の方は生命の神の力を使って再構成したよ」


「あら」


 アルテミスが微笑む。


「私にも内緒で?」


「だって」


 アテナは視線を逸らした。


「お父さんが、秘密にしてって言うから」


「……そう」


 アルテミスは苦笑する。


「らしいわね」


 ステンノが、ゆっくりとメデューサに近づく。


「……そうなの? メデューサ……」


「うん……」


 メデューサは小さく頷いた。


「死んだ、と思ったの。でも目が覚めたら……女神アテナの神殿にいて……」


 視線を落としながら語る。


「そこで、全部……説明してくれたの」


「……そう、だったのね……」


 エウリュアレの声が、かすかに震える。


 アテナが続ける。


「私はね、ペルセウスに“ゴルゴン三姉妹を連れてきて”ってお願いしただけなの」


 困ったように首を傾げる。


「なのに何を勘違いしたのか、首を持ってきちゃって」


「……」


 アカンサスが納得したように呟く。


「……英雄ペルセウスお兄さんが、しかられてたのは……そういうことか……」


「ごめんね……姉様たち……」


 メデューサが、頭を下げる。


「長い間、連絡しなくて……」


 顔を上げ、必死に笑おうとする。


「私ね……この能力を制御するために、修行してたの。だから……会えなくて……」


 ステンノは、そっとその肩に手を置いた。


「……いいの」


 静かに言う。


「こうして、来てくれたのなら」


「えぇ……」


 エウリュアレも、頷いた。


 ――その時。


「おいおい」


 空気を壊すような声が響く。


「俺が来た意味、ねぇじゃねぇか」


 ポセイドンだった。


「ポセイドン叔父様?」


 アテナが眉をひそめる。


「何をする気?」


「……え?」


 メデューサが一歩下がる。


「っ、メデューサ!!」


 ステンノが叫んだ。


「死ね――」


 低く、試すような声。


 ――その瞬間。


「カキンッ!!」


 金属音が響いた。


「……!」


 ポセイドンの目が見開かれる。


 彼の剣を、硬質化したショルダーストラップが止めていた。


「あの力……」


 陽菜(ひな)が息を呑む。


「無意識で発動しておるか……見事じゃ」


 即席で展開された硬質化は、確実に神の剣を受け止めていた。


「……おい、小娘」


 睨みつける。


「なんの真似だ?」


 彩葉(いろは)だった。


 震える手で硬質化したショルダーストラップを構え、必死に前に立つ。


「……戦いは……終わった……」


 息が荒い。


「戦う必要は……ない!!」


「彩葉!」


 村正(むらまさ)が叫ぶ。


「ハハハッ!」


 ポセイドンが嗤った。


「俺を止められるとでも? 小娘!」


「……」


 その時。


「ポセイドン叔父様」


 アルテミスの声が、低く響いた。


「その子の言うとおりです」


 彼女は静かに、しかし明確に怒っていた。


「戦いは終わりました。武器を収めてください」


「……」


「そうですよ?」


 アテナも続く。


「叔父様。この土地は、私が勝ち取ったものです」


 にっこりと、だが冷ややかに。


「さっさと帰ってください」


「……あの時の戦のことか?」


 ポセイドンが鼻で笑う。


「いくら貴様が無敗を誇ろうと……」


 一歩踏み出す。


「俺が勝つぜ?」


「……叔父様?」


 アテナの声が低くなる。


「お姉様がた!」


 アカンサスが叫ぶ。


「ここで戦えば、人間界への被害が……!」


 ――ゴロゴロ……


 ――ドカァァァン!!


 雷鳴が、空を割った。


「!?」


「戻れ! ポセイドン!!」


 ゼウスの声が、天から轟く。


「チッ……」


 ポセイドンは舌打ちした。


「……仕方ねぇか」


 その姿は、海霧と共に消えた。


 静寂。


 ――次の瞬間。


「……っ……」


 彩葉の膝が、崩れた。


「……はぁ……はぁ……」


「彩葉!」


 陽菜が駆け寄る。


「大丈夫か!?」


 (くろ)(エイ)が支える。


「……はい……」


 彩葉は弱く笑った。


「すみません……勝手に……」


「すごいよ! 彩葉ちゃん!」


 レナが目を輝かせる。


「うん……」


 マミも頷く。


「……そう……ですか……?」


  全身から、力が抜けていく。


「……あ……」


 世界が、ゆっくりと遠のいた。


「彩葉ちゃん!!」


 花火(はなび)が叫ぶ。


「緊張が解けたのじゃろう」


 (しおり)が静かに言う。


「……よく頑張った」


 (リー)芳乃(よしの)が腕を組む。


「さすがだね」


 フェルルが微笑む。


「さすがは、このパーティの“リーダー”なの」


 アビが胸を張る。


「いつの間にか、リーダーにされてるよ……」


 リリア=エジソンが苦笑する。


「でも……」


 マイが小さく言った。


「……合っている気がします」


 メデューサは、その光景を見つめていた。


「……すごい……」


「……?」


 アテナが、ふと彼女を見る。


 朝日は、完全に昇っていた。


 因縁の夜は終わり、新しい光が、確かにそこにあった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

ギリシャ編は、神々の因縁と向き合いながら、彩葉たちが一歩成長する章となりました。


戦いだけでは終わらない選択、

そして朝陽とともにほどけていく想いを感じていただけたなら嬉しいです。


物語は、まだ続きます。

次回も、どうぞお楽しみに。

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