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アルケオン  作者: れんP
ヨーロッパ編

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壊す刃、泣き叫ぶ少女

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 昼だというのに、ギリシャの空は暗かった。


 雲が厚く垂れ込め、太陽の輪郭だけがぼんやりと浮かぶ。

 光はある。だが、温もりがない。

 まるでこの地そのものが、迫り来る衝突を拒むかのようだった。


 砕けた石畳の上で、二つの巨大な影が蠢く。


「妹をたぶらかした神……」


 ステンノの声は、怒りと憎悪に濁っていた。


「お前も、死んでもらう」


「はははっ!」


 ポセイドンは豪胆に笑う。


「それは困るな! オレはまだ、やることが山ほどある!」


 エウリュアレが鼻で笑った。


「フンッ! 海の神が、不死である我ら姉妹をどうやって倒す!」


 その言葉に、ポセイドンは三叉槍ではなく――

 腰に携えた一本の剣へと手を伸ばす。


「……どうやって、だと?」


 剣が抜かれた瞬間、空気が変わった。


「こいつを使うのさ」


「アレは……」


 アカンサスが息を呑む。


「ハルパー……?」


 アルテミスの目が見開かれる。


 ステンノの蛇眼が細められた。


「妹を殺した武器か……」


 吐き捨てるように言う。


「だが我らは不死だ! そんなもので死なぬ!」


「おっと、勘違いするなよ?」


 ポセイドンの声は、どこか冷たかった。


「こいつはな――」


 剣身が、鈍い蒼光を帯びる。


「毒龍ヒュドラの毒と、破壊を司る神の神力を込めて、ヘパイストスが打ち込んだ武器だ」


「……なんだと?」


「ははっ!」


 ポセイドンは剣を構えた。


「これで死ぬかどうか、試してやろうじゃねぇか!」


「ふふっ……!」


 ステンノが笑う。


「かかってこい! 絶望するのはお前だ!」


 ――次の瞬間。


 大地が爆ぜた。


 ステンノの巨大な蛇尾が突進し、石畳を粉砕する。

 同時に、エウリュアレの瞳が妖しく輝いた。


 ――石化の呪い。


「甘ぇ!!」


 ポセイドンが叫ぶ。


 海水がどこからともなく湧き上がり、瞬時に防壁を形成する。

 水は鏡のように呪いを反射し、地面が石へと変わった。


「チッ……!」


 エウリュアレが舌打ちする。


「これならどうだ!!」


 ステンノが大きく跳躍し、上空から叩きつける。


 だが――


「遅ぇ!!」


 ポセイドンの剣が閃いた。


 ザンッ!!


 鋭い斬撃が、ステンノの胴を深く裂く。


「――っ!?」


 黒い血が宙に散る。

 傷口から再生の力が湧き上がる――はずだった。


「……な……」


 ステンノの声が震える。


「治らない……?」


 毒が、確実に傷を蝕んでいた。


「馬鹿な……!」


「だから言ったろ?」


 ポセイドンの声は、冷酷だった。


「これは“殺すための刃”じゃねぇ」


 剣を構え直す。


「壊すための刃だ」


「ステンノ姉さま!!」


 エウリュアレが叫び、猛然と襲いかかる。


 だが、海神は一歩も退かない。


「来い」


 海と破壊の神が、剣を振り上げる。


 不死と神威が、真正面から激突する。


 衝撃波が走り、神殿の柱が軋む。

 守護者たちは、ただ息を呑んで見守るしかなかった。


 ――その時。


「もうやめて!!」


 澄んだ、震える声が戦場を裂いた。


「!?」


 全員が振り向く。


「……そんな……」


 エウリュアレの瞳が揺れる。


「なんで……」


「……メデューサ……?」


 ステンノの声が、かすれた。


 そこに立っていたのは――

 かつて怪物とされた、三女。


「私のために……」


 メデューサは、涙を浮かべて叫ぶ。


「争わないで!!」


 剣が、止まった。


 蛇の姉妹も、海神も、動きを止める。


 因縁の中心にいた少女が、すべてを終わらせようとしていた。


 ――憎しみの連鎖は、断ち切られるのか。


 それとも、さらなる悲劇を生むのか。


 ギリシャの空は、なおも重く、静かに沈黙していた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

神々の因縁と、姉妹の想いが正面からぶつかる回となりました。


憎しみの先にあるものは何なのか。

そして、メデューサは何を選ぶのか。


次回、その答えが少しずつ見えてくると思います。

引き続き、お楽しみいただければ幸いです。

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