復讐の双蛇、海神の裁断
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
緩やかなギリシャの昼だった。
白い石畳に降り注ぐ太陽の光は柔らかく、風は穏やかに丘を撫でる。
パルテノン神殿の柱の影には、長い歴史が静かに横たわっていた。
――その平穏が、唐突に裂かれた。
空気が、重く沈む。
光が、歪む。
まるで昼が呑み込まれるかのように、神殿の周囲に闇が滲み出した。
「……アテナ……」
低く、粘ついた声。
「アテナ……アテナ……許さない……」
声は大地を這い、石を伝い、魂の奥へと入り込む。
「絶対に……殺す……」
その瞬間、アビが空へと跳び上がった。
「……上から見えるなの!」
翼を広げ、上空から視界を巡らせる。
「蛇……! 蛇みたいな女がいるの! しかも――」
アビの声が震える。
「二人いるなの!!」
「二人……?」
アカンサスの表情が一気に引き締まった。
「蛇の女……それは……」
アルテミスが静かに目を細める。
「……ゴルゴン、ですね」
「残っているゴルゴンといえば――」
「ステンノと、エウリュアレ……」
闇の中から、姿が現れる。
下半身は巨大な蛇。
上半身は女の姿。
髪は生き物のように蠢く蛇の群れ。
その瞳は、憎悪に濁っていた。
「許さない……」
ステンノが、唇を歪める。
「我が妹を怪物に変え……我ら姉妹も怪物に変え……」
エウリュアレが続く。
「許さない……許さない……」
その視線の先に、アテナがいた。
アテナは、何も言わない。
ただ、静かに二人を見つめている。
沈黙を破ったのは、アルテミスだった。
「……自業自得だと思いますが?」
空気が凍りつく。
「なんだと?」
ステンノの蛇髪が逆立つ。
「人の神殿で、しかも純潔の神の神殿でイチャラブするなんて」
アルテミスの声は冷静だった。
「メデューサと、ポセイドン叔父様が悪いと思いますけど?」
「貴様ぁぁぁぁ!!」
エウリュアレが咆哮する。
「我が妹を侮辱するのか!!」
「たしかに……」
村正がぽつりと呟いた。
「人で例えるなら、人の家で勝手にするのは悪いよな」
「えぇ……」
陽菜も静かに頷く。
「部外者がっ!!」
ステンノが叫ぶ。
「死ねぇぇぇ!!」
瞳が妖しく光る。
石化の呪いが放たれた、その瞬間――
「――っ!」
李=芳乃が一歩踏み出した。
「聖拳・鏡天撃!!」
拳が閃光を纏い、正面から呪いを打ち砕く。
衝撃が弾け、空気が爆ぜた。
「なにっ!?」
「ステンノ姉さまの石化を……弾いた!?」
エウリュアレが目を見開く。
「部外者のくせに……やるじゃない」
ステンノが舌打ちする。
「大丈夫なのじゃ?」
栞が問う。
「問題ない」
李=芳乃は拳を下ろす。
「すご〜い!」
レナが目を輝かせる。
「うん!」
マイも小さく拍手する。
だが――
「でも」
フェルルが眉を寄せた。
「確か、あの二人は……不死じゃなかったか?」
「えっ!?」
マミが青ざめる。
「じゃあ倒せないじゃん!」
「追い返すしかない?」
影が言う。
「でも……」
喰が低く唸る。
「かなりの強敵だぞ」
「追い返すって……どうやって……」
花火の声が揺れる。
そのとき。
「追い返す?」
低く、豪胆な声が響いた。
「そんなことはしねぇ」
「!」
村正が振り返る。
海の気配と共に、巨躯の神が現れた。
三叉槍を携えた、海の支配者。
「……あらあら」
アルテミスが肩をすくめる。
「元凶が現れましたね。ポセイドン叔父様?」
「おいおい」
ポセイドンが苦笑する。
「元凶ってのは、言い過ぎだろ?」
「でも事実だし……」
アテナが小さく言う。
「私の神殿で……」
「うっ……」
ポセイドンが視線を逸らす。
「ポセイドン兄様」
アカンサスが一歩前へ。
「なにか、案でもあるんでしょう?」
ポセイドンは槍を肩に担ぎ、息を吐いた。
「そうだな……」
そして、ゴルゴン姉妹を見据える。
「コイツらは……オレの失敗が生んだようなもんだ」
「だから――」
槍が、地面に突き立てられる。
「オレが、片付ける」
「……沈めないでよ」
アテナが言う。
「民もいるんだから」
「そうですよ、叔父様」
アルテミスも釘を刺す。
「わかってるって!」
ポセイドンは豪快に笑った。
「さぁ――」
海神の力が、大地を震わせる。
「始めようぜ!!」
復讐の双蛇と、海の神。
神々の因縁が、再び交差する――。
ギリシャの空に、嵐の予兆が走った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけたら幸いです。
感想やレビューをいただけると、とても励みになります。
引き続き、よろしくお願いします。




