月光の狩猟、そして欺瞞の神
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
「士気強化!」
ラーレの声とともに、大旗が大きく振るわれる。
その瞬間、仲間たちの体に力が満ちていくのがはっきりと分かった。
「ストラップ・ニードルバインド!」
彩葉の放った無数のショルダーストラップが、キマイラの脚へと絡みつく。
「ダークバインド!!」
喰の影が地面を這い、闇の鎖となって怪物を拘束した。
「……神力・力量強化……」
影の低い詠唱。
アルテミスの周囲に、月光が濃く集束する。
「!?」
キマイラが異変を察知したように身をよじった。
「……セレスティアル・アロー!」
放たれた矢は、星の軌跡を描きながら一直線に突き刺さる。
「ぐるる……がぁぁああ!!!!!」
悲鳴とともに、怪物の体が大きく揺れた。
「ブレスが来るぞ!」
ラーレの警告と同時に、キマイラの口に灼熱の光が集まる。
「ワシらに任せろ!!」
李=芳乃が一歩前へ。
「聖拳・天撃!!」
「ブレイブクローなの!」
芳乃の拳と、アビの鋭い爪が同時に叩き込まれ、ブレスは暴発するように拡散した。
「がぁぁ!?!?」
「狐火・炎魂永星」
栞の狐火が、星のように連なりキマイラを包む。
「ギァォォォ!!?」
「アドレナリンニードルミサイル!」
レナの弾幕が怪物の動きを鈍らせ、
「籠球・シュート」
「セイクリッドバレット!」
マミと陽菜の一撃が、重く胸部へと突き刺さった。
「がぁ!!……シャァァァァァァ!!」
蛇の尾が鋭く振るわれ、音を裂く。
「任せて!」
リリア=エジソンが前に出た。
「サイレントシールド! マイちゃん!」
「はい! 声マネ・おうむがえし!」
反射された音が逆流し、キマイラの咆哮が自らを打つ。
「シャァァァァァァ!?!?」
「ありがとうございます」
アルテミスが静かに告げる。
「ルナ・ダブルショット」
二本の月光の矢が、交差しながら突き刺さった。
「グギぁぁぁぁぁ!??……メェェェェェ……」
だが、キマイラはなおも光を溜める。
「光線か! させねぇよ!」
村正が割り込む。
「陽光・赫陽光!」
光と光が激突し、空間が歪む。
「こっち……」
アカンサスの声。
「シャイニングライト」
「!?!?!?!?!?!」
視界を覆うほどの強烈な光。
キマイラが混乱し、周囲を見回す。
――アルテミスの姿が、ない。
「うえですよ」
「!?」
「ねずみ花火!」
花火の小さな爆ぜる光が足元を乱す。
その刹那。
「……ありがとうございます」
アルテミスが弓を引き絞る。
「……ふぅ……ホーリー・ムーンショット」
満月のような一撃が、夜を貫いた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
キマイラは崩れ落ち、やがて動かなくなる。
「グル……ル……」
完全な沈黙。
「……」
アルテミスは静かに弓を下ろした。
その時――
「ほぅ……キマイラを倒したか」
どこか楽しげな声が、夜に混じる。
「誰だ!」
ラーレが即座に構える。
「クフフフフフ……私ですか?」
闇の中から、男の姿が現れた。
「貴方は……ロキ!」
アルテミスの表情が険しくなる。
「知っているのか? アルテミス様」
「……脱獄囚」
アカンサスが低く呟いた。
「え?」
彩葉が息を呑む。
「はい」
アルテミスは頷く。
「彼はラグナロクを引き起こし、神々を殺そうとした大罪神。牢獄に入っていたはずです」
「クフフフフフ……」
ロキは肩をすくめた。
「あの程度の封印で、この私を止められると?」
「問題ありません」
アルテミスは一歩踏み出す。
「ここで捕まえればいいだけです」
「それは困りますね」
ロキは微笑む。
「私の率いる断界同盟も、各地で動いていますので」
「断界同盟を率いる?」
陽菜が問いかける。
「えぇ。私が――“ボス”ですから」
「おい! 待て!」
ラーレが叫ぶが、
「それではまた」
ロキの姿は、闇に溶けた。
「……逃げられましたか」
アルテミスが静かに呟く。
――そして。
ヨーロッパのどこか。
「ロキ様、私にお任せください」
影の中で、別の声が響く。
「怪鬼や天魔のようには行きません。必ずや」
「任せましたよ」
ロキは愉快そうに笑った。
「――“切り裂きジャック”」
キマイラとの戦い、そしてロキの登場で物語は大きく動き出しました。
月光の下で交差した想いと力は、まだ序章に過ぎません。
引き続き、彩葉たちの行く末を見守っていただければ幸いです。




