月狩りの矢、夜闇を裂く
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
「あれが……キマイラ……」
彩葉の声は、わずかに震えていた。
三つの異なる命を無理やり縫い合わせたかのような怪物。
その巨体が呼吸するたび、森の空気が歪む。
「戦闘準備!」
村正の号令が飛ぶ。
だが――
「必要ありませんよ」
アルテミスは静かに、しかし断固として言い切った。
「私の獲物は、自分で取ります」
「えっ、でも――」
レナの言葉を遮るように、アルテミスは地を蹴った。
一瞬だった。
月光を背に受け、彼女の姿が夜の中へ溶ける。
「がぁぁぁぁぁぁっ!!」
キマイラのライオンの頭が咆哮し、巨大な前脚が叩きつけられる。
――だが、当たらない。
アルテミスは宙で身を翻し、弓を引き絞った。
弦が鳴る。
放たれた矢は、一直線に闇を裂き、山羊の頭の角をかすめて突き刺さった。
「グルルルルル……!」
怒り狂ったキマイラが、蛇の尾を大きくうねらせる。
毒を含んだ牙が、空気を裂いて迫った。
アルテミスは地面を転がり、間一髪で回避する。
「……なかなか手強いですね」
落ち着いた声とは裏腹に、彼女の表情は引き締まっていた。
キマイラは知恵を持つ獣だ。
ただの力押しではない。
「がぁぁァァァァァ!!」
三つの頭が同時に動き、前後左右から殺意が襲いかかる。
「しまったっ!」
避けきれない――
その瞬間。
「アルテミスお姉様、失礼します!」
白髪の少女が割り込んだ。
アカンサスのユニットが高速回転し、
キマイラの爪と尾を弾き返す。
「……下がりなさい、アカンサス!」
アルテミスの声には、焦りが滲んでいた。
「いえ!」
アカンサスは一歩も退かない。
「ここは私どもに、敵に“隙”を与える時間をください!」
「そうだぜ!」
ラーレが大旗を振り上げる。
「かなわなくても、スキを作るくらいはできる!」
「そのとおりじゃ」
栞が杖を構える。
「うむ」
李=芳乃も頷いた。
「後方から支援します!」
陽菜の声に続くように、
「私も!」
「はい!」
「は、はい……!」
レナ、マミ、マイが応じる。
「今回は抑えるよ!」
リリア=エジソンの声が響く。
「みんな!がんばるんだ!」
フェルルが鼓舞し、
「……はい!」
影が静かに構え、
「おう!」
喰が歯を見せて笑う。
「今回は支援か、悪くない」
村正が刀を収める。
「がんばるよ〜!」
花火が気合を入れ、
「スキを作るなの!」
アビが力を高める。
「みなさん!」
彩葉は拳を握った。
「がんばりましょう!」
一同の視線が、アルテミスへ集まる。
狩猟神は、ほんの一瞬目を閉じ――
そして、頷いた。
「……わかりました。お願いします!」
その瞬間、全員が動いた。
「グルルルルル……!」
キマイラが再び咆哮する。
だが今度は違う。
連携した攻撃と支援が、怪物の動きを確実に削り取っていく。
そして、アルテミスは再び弓を引いた。
月光が、矢に宿る。
「――狩りの時間です」
その矢は、夜闇を貫き、
運命へと向かって放たれた。
今回は、狩猟神アルテミスの本領が垣間見える回でした。
しかし同時に、彼女ひとりではなく、仲間たちの連携が戦いを動かし始めています。
夜闇を裂くその一矢が、何を終わらせ、何を呼び寄せるのか――
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回もお楽しみに




