消えない音、受け継がれる想い
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
戦いを終えた彩葉たちは、香辛料の匂いがまだ街に残るインドの都市を静かに離れていた。
喧騒から遠ざかるにつれ、胸の奥に沈殿していた緊張も、少しずつ解けていく。
その道すがら、マイがぽつりと口を開いた。
「……リリアちゃんは、前にも言ったけど……蓄音機一号機から生まれた守護者なの」
彩葉は歩みを緩め、耳を傾ける。
仲間たちも、自然と会話の輪に意識を向けていった。
「エジソンが作った最初の蓄音から生まれた存在……それが、リリアちゃん」
マイの声は穏やかで、どこか大切な記憶を撫でるようだった。
「それからリリアちゃんは、エジソンがこの世を去るまで、ずっと一緒にいた。
発明のそばで、音を聞いて、人の笑顔を見て……」
リリアは、少し照れたように微笑んでいる。
「でも、エジソンがいなくなって……リリアちゃんは旅に出たの」
「旅……」
彩葉が小さく呟く。
「うん。たくさんの偉人に会って、たくさんの幸せを見た。
人が音楽に笑って、言葉に涙して、誰かのために生きてる……そんな世界を」
マイは一度、言葉を区切った。
「そして……1939年。
リリアちゃんは、アメリカに戻った」
空気が、少し重くなる。
「そこは、前とは違ってた。
鉄の匂いが、街中に充満していて……」
レナが息を呑む。
「そこで、リリアちゃんは“戦争”を知ったの」
沈黙が落ちる。
「街を歩いていると、アメリカの守護者――ローズに出会ったんだって。
そして、こう言われたの」
マイは、言葉をなぞるように続ける。
「『もうすぐ戦争が始まる。加勢して』って」
「……そんな……」
彩葉の声が、震えた。
「リリアちゃんは、その申し出を断った。
でも、ローズは無理やり連れて行こうとした」
陽菜は唇を噛みしめる。
「だから、逃げた。
そして……その直後に始まったの。
第一次神怪世界大戦が」
その名に、栞も、村正も、わずかに目を伏せる。
「リリアちゃんは、ローズに見つからないように小屋に隠れた。
その時……二人の姉妹が現れたの」
「姉妹?」
レナが首を傾げる。
「守護者かな?」
マミの問いに、マイは頷いた。
「うん。警察の守護者。
姉が『ポーリン』、妹が『リース』」
陽菜はその名を、どこかで聞いた気がした。
「二人はね、自分たちを“革命軍”だって名乗った。
隙を見て、日本側に渡る計画を立ててたんだって」
風が、草を揺らす。
「それで……リリアちゃんに言ったの。
『仲間にならない?』って」
「……」
「最初は警戒してた。でも……承諾した」
マイは、優しく微笑んだ。
「“幸せの音”を取り戻すために」
その言葉に、彩葉の胸が強く脈打つ。
「……あとは、歴史通り」
「そんなことが……」
彩葉は呟いた。
「……アメリカの守護者って、強いんでしょ?」
影が、小さな声で言う。
「逃げ切れて……よかった……よ」
「あぁ」
喰も、短く応じる。
「……あの戦いは、本当にむごかったよ」
フェルルの声には、重みがあった。
「ワシも参加していたが……そんな話があったとはな」
李=芳乃は、腕を組む。
「ワシはアメリカ大陸には行っておらんが……」
「私もぉ~インドでぇ~戦ってたからぁ~
アメリカ大陸にはぁ~行ってないよぉ~」
ロータスは、少しだけ声を落とした。
「いろいろな場所で戦いがあった」
村正が続ける。
「最終的に、勢力はアメリカに集中したがな」
「……たいへんだったみたいなの?」
アビが首を傾げる。
「たいへん、なんて言葉じゃ表せない」
村正の言葉に、アビは静かに頷いた。
「……その戦争が終わって、二人は出会ったの?」
彩葉が、マイを見る。
「はい」
マイは微笑んだ。
「今では……親友です」
「えへへ~」
その時、リリア=エジソンが起き上がった。
「私も、親友だよ」
「リリアちゃん!」
マイが駆け寄る。
「もう大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
李=芳乃が確認する。
「ふむ……熱も下がってきておるな」
「よかった……」
彩葉は、胸を撫で下ろした。
「うむ」
栞も頷く。
しばしの沈黙のあと、彩葉が呟いた。
「……目的、また一つ減っちゃった……
次は、どうしよう」
その時。
「だったらぁ~これぇ~」
ロータスが、ひらりと封筒を差し出した。
「ロゼッタにぃ、届けてぇ」
「これは……?」
彩葉が受け取る。
「お手紙ぃだよぉ~
ロゼッタはぁ、イギリスの守護者だからぁ」
「イギリス……」
「それにねぇ~
新しい地域に行ったほうがぁ~
自分の存在理由、探しやすいと思うよぉ~」
彩葉は、しっかりと頷いた。
「はい!任せてください!」
「次の目的地、決まりだな」
村正が言う。
「それと」
李=芳乃が、にやりと笑った。
「ワシも、ついていくからな」
「……ほえ?」
レナの間の抜けた声が、旅の空気を少しだけ和ませた。
こうして――
音を失い、音を取り戻し、音を受け継いだ旅は、
新たな地へと向かっていく。
彩葉の“存在理由”を探す旅は、まだ続いていた。
戦いの音が消えたあとに残るものは、
過去と、想いと、そして受け継がれる“音”。
リリア=エジソンの歩んできた時間と、
彩葉たちの旅が、静かに重なった回でした。
彩葉の“存在理由”を探す旅は、まだ続きます。




