緑香る大地と、迫る影
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
潮風がやわらかく頬をなで、濃い緑の香りが空気に満ちていた。
彩葉、陽菜、影、喰、栞、村正、レナ、マミ、アビ、村正、フェルル、リリア=エジソン、マイ――一行は、ついにベトナムの大地へと降り立った。
「わぁ……緑がすごい……」
彩葉は目を輝かせ、見渡す限り広がる木々と田畑に息をのむ。
「湿気はあるけど、どこか落ち着く空気だね」
陽菜が穏やかに微笑むと、影も静かに周囲を見回して頷いた。
「……生きものの気配が、近い……」
「腹減る匂いじゃねぇな。ちゃんとした“生活”の匂いだ」
喰の言葉に、栞は感心したように頷く。
「人と自然が近い土地じゃの。長く続いてきた暮らしがある」
「異国の地も悪くないな」
村正は背伸びをしながら言い、レナはすでに興味津々で露店を指さしていた。
「見て見て! あのお店、色とりどりだよ!」
「少しだけ、観光していきましょう」
マミの提案に、皆が賛成する。
アビは軽やかに前に出た。
「アビ、案内はできないけど、ついていくなの!」
「お祭りみたいで楽しいね!」
花火が声を弾ませ、フェルルは屋台の飾りを眺めながら言った。
「工芸品も多い。土地ごとの文化がはっきりしているね」
「音楽も、どこかやさしい……」
リリア=エジソンは遠くから聞こえる旋律に耳を澄ませる。
「……声の出し方、勉強になるかも……」
マイも小さく呟き、首元のナットに触れた。
しばらく歩いたあと、川辺の木陰で一行は足を止めた。
「ここまでですね」
ハスが静かに言った。
「ここから先は、皆さんの旅路。私はここで失礼しますわ」
「ハス……」
彩葉が名残惜しそうに声をかける。
「ご一緒できて、嬉しかったです」
ハスは微笑み、深く一礼した。
「どうか、目的を見失わずに。インドの道は……簡単ではありませんから」
「はい。ありがとうございます」
陽菜も、栞も、皆がそれぞれ礼を述べる。
「また会えたらいいね!」
レナの言葉に、ハスは優しく頷いた。
「ええ、きっと」
夕暮れが近づき、空が橙色に染まり始める。
「そろそろ行くなの」
アビの声に、全員が手を取り合った。
ベトナムの緑の大地が、ゆっくりと遠ざかっていく。
――そして。
インドの街にて。
喧騒と熱気が渦巻く路地の奥。
一人の幼い少女が、鋭い目で周囲を見渡していた。
「……このあたりか。ワシの敵は」
幼女の姿に似合わぬ、老成した声が低く響く。
――同時刻、別の場所にて。
灯りの届かぬ闇の中、黒い影がうごめいた。
「まだ足りぬ……」
粘つくような声が、空気を震わせる。
「あのお方に捧げる、人間の魂が……まだ、足りぬ……」
遠くで雷鳴が鳴り、夜が静かに深まっていった。
彩葉たちの旅は、次なる地へ。
そして、見えざる影もまた、確実に動き始めていた。
六十話までお読みいただき、ありがとうございます
次なる地で、彼女たちを待つものは味方か、それとも――。
引き続き、旅の行方を見届けていただけたら嬉しいです。




