目的という名の羅針盤
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
森に漂っていた血と魔の気配はすでに消え、木々のざわめきだけが穏やかに残っていた。戦いの余韻が薄れ、張りつめていた空気が少しずつ緩んでいく。
「……あぁ、なにしにぃ来たんだぁっけぇ?」
ふと、マツリカが首をかしげた。
「あ、そうだった……」
サンパギータも思い出したように息を漏らす。
彩葉は一歩前に出て、胸の奥に溜めていた思いを言葉にした。
「あ、あの……私たちは断界同盟を探っているんです。なにか知っていることはありませんか? それに……私は、自分がなぜ存在しているのか、その理由を探していて……」
静かな沈黙が落ちた。
マツリカはしばらく考えるように視線を空へ向け、やがてゆっくりと口を開いた。
「うぅ~んとぉねぇ……
インドのほうぅでぇ、断界同盟の幹部らしきぃ存在がぁ、暴れてぇるぅらしぃよぉ~」
「……インド」
彩葉はその言葉を小さく繰り返す。
「そぉれぇとぉ……存在理由をぉ探してぇるんだよねぇ」
マツリカは優しく微笑んだ。
「私はぁ、よぉくわぁからなぁいけどぉ……
目的があるのはぁ、いいこぉとだぁよぉ~。
それぇはぁ、最終てぇきぃにぃ……自分で決めるこぉとだぁとぉ思うよぉ~」
「……そうですか」
彩葉は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「ありがとうございます。……それに、インド……」
彼女は少しだけ俯いたあと、はっきりと顔を上げた。
「私、決めました。
インドに行って、断界同盟を止めます。
それが――今の私の目的ですから」
その言葉を聞いて、マツリカは満面の笑みを浮かべた。
「うんうん~。
私もぉ、応援してぇるぅよぉ~」
「はい! ありがとうございます!」
彩葉は力強くうなずいた。
「ここからインドとなると、海を渡るか?」
村正が顎に手をやりながら言う。
「海を渡るなら、アビに任せてなの」
胸を張るアビに、別の声が重なった。
「いえ、陸から行ったほうがいいですわよ」
そう告げたのはハスだった。
「え? どうして?」
花火が首をかしげる。
「それは……いえませんの」
「?」
疑問符が空気に浮かぶ。
「だったら、ベトナムからインドの方に向かえばいいよ」
サンパギータが自然に提案した。
「ハス、帰るところでしょう? 一緒に行ったら?」
「それはいいですわね。お願いできますの?」
「うん、アビに任せてなの」
アビが元気よく応じる。
「……インド……海……もしや……」
栞が目を細め、すべてを悟ったように頷いた。
「なるほど……そういうことか。わかったのじゃ」
「さすがだね」
サンパギータが感心したように言う。
「何が流石なの?」
レナが首をかしげる。
「インドの海にはな、攻撃的な部族がおるからじゃ」
「え? 攻撃的?」
マミが思わず聞き返す。
「……もしかして……」
リリア=エジソンが小さく息を呑む。
「なにか知ってるの? リリアちゃん」
「うん……なんとなく、わかっちゃった」
「あぁ、あそこか」
フェルルが思い出したように言った。
「私の同僚が行ったことがあるらしいよ。詳しくは知らないけどね」
「……」
影は黙ったまま、遠くを見つめている。
「話を聞く感じ、行かないほうが良さそうだな」
喰が低く呟いた。
「わかったなの。ベトナムに行くなの」
アビは即断した。
「ここからですのね!?」
ハスが少し驚いた声を上げる。
「浜辺に移動しないの?」
マミの問いに、アビは首を振った。
「覚えたから、忘れる前に行きたいなの」
「なるほど……?」
完全には理解できていない様子のマミ。
こうして彩葉たちは、さまざまな思いを胸に、手と手を取り合った。
次の瞬間、風が巻き起こり、彼女たちの姿は空へと舞い上がる。
「……行っちゃったねぇ……」
残されたマツリカが、ぽつりと呟いた。
「うん……」
サンパギータも空を見上げる。
「北センチネル島……
あそこぉをぉ通ったぁらぁ、守護者だろうとぉ攻撃さぁれぇるぅからぁ……
遠ざけぇたぁんだよねぇ……」
「うん。そんなことになったら……
あの部族は消えてしまう……だからだと思う」
「だぁよぉねぇ……」
二人は静かに頷き合った。
やがて視界の先に、白い砂浜が広がる。
「見えた! あれがベトナムですわ」
ハスの声に、皆が目を凝らす。
「あれが……ベトナム……」
「緑いっぱいだね」
彩葉と陽菜は小さく呟いた。
新たな地、新たな道。
目的という名の羅針盤は、確かに次の方角を指し示していた。
今回は戦いのあと、彩葉たちが「次に進む理由」を見つける回でした。
答えではなく、目的を選ぶ――その小さな決意が、物語を次の舞台へ導いていきます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




