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アルケオン  作者: れんP
アジア編

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56/112

インドネシアと神の嫁

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 フィリピンの青い海を越え、彩葉たちは新たな大地へと降り立った。

 湿り気を帯びた風が肌を撫で、土と緑の匂いが濃く漂ってくる。


「ついたなの〜」


 アビが少し誇らしげに声を上げた。


「ここが……インドネシア……」


 彩葉(いろは)は足元の大地を踏みしめる。

 日本やフィリピンとはまた違う、生命力に満ちた感触だった。


「……」


 その隣で、サンパギータがじっと森の奥を見つめている。


「どうしたんですか? ぼーっとして」


 彩葉が声をかけると、サンパギータははっとしたように瞬きをした。


「……いや……マツリカの気配を探してた……」


「マツリカさん?」


「うん……いつもの森にいるみたい……」


「そうなんですね。どんな方なのか、楽しみです」


 彩葉が微笑むと、サンパギータは小さく頷いた。


「はーい! その前に!」


 レナが元気よく手を挙げる。


「インドネシアの町並みを見てみたいです!」


「私も……」


 マミも静かに賛同する。


「……マツリカに案内してもらったほうが……現地の人だし……」


 サンパギータは少し迷うように言った。


「え〜」


 花火(はなび)が不満そうに声を上げる。


「……わかった……行くときに生活圏を通るから……」


「やった!」


 花火が跳ねる。


「……マツリカはどんな人なんだい?」


 フェルルが興味深そうに聞いた。


「ん? マツリカ?」


 サンパギータは一瞬言葉を探すように視線を彷徨わせ、


「……マツリカはね……発明好きなんだ……昔から……」


「昔からの仲良しなんだね」


 フェルルの言葉に、サンパギータは――


「……うん……」


 ほんのりと頬を染め、照れたように答えた。


「いい人みたいだね」


 リリア=エジソンがにこやかに言う。


「……うん……」


 マイも小さく頷いた。


「さ、さぁ……行こう!」


 サンパギータは誤魔化すように前を向いた。


「あ、うん!」


「隣とはいえ、違う国じゃからな。勉強にもなるじゃろう」


 (しおり)が感心したように言う。


「そうだね」


 陽菜(ひな)も周囲を見渡す。


(エイ)、しっかりと見るんだぞ」


 (くろ)が声をかける。


「……うん……」


 影は真剣な眼差しで景色を刻み込んでいた。


「今更だが……旅もいいものだな」


 村正(むらまさ)がぽつりと呟く。


「村正! おいてくよ!」


 彩葉が笑いながら振り返る。


「おう!」


 インドネシアの町は、色と音に満ちていた。

 木造と石造が入り混じった家々、屋根の装飾、香辛料の匂い。

 市場では人々が声を張り上げ、果物や布、工芸品が並ぶ。


「すごい……全部、色が濃い……」


 マミが目を見開く。


「布がきれい!」


 レナは吊るされた布に手を伸ばす。


「音が……楽しい……」


 マイは耳を澄ませ、街の喧騒を記憶に刻んでいた。


「……この国は……土と人が近い……」


 サンパギータの言葉通り、街のあちこちに精霊の気配があった。

 壁や地面、柱に溶け込むように存在する土の精霊たち。


「へぇ……」


 影は感心したように周囲を見回す。


「とまぁ……こんな感じだよ……」


 ひと通り案内を終え、サンパギータは言った。


「ありがと〜!」


「……うん……」


 レナとマミが礼を言う。


「この森に……マツリカがいるの?……」


 影が、目の前に広がる深い森を見つめた。


「うん……」


「深そうな森だね……」


 リリア=エジソンが呟く。


 彩葉たちは、森の中へと足を踏み入れた。


 木々は高く、葉は重なり合い、光は柔らかく差し込む。

 湿った土、絡み合う根、遠くで鳴く鳥の声。


「……今日も旦那様ほめてくれた〜……えへへ……」


 ふいに、どこか浮ついた声が聞こえた。


「……?」


 その瞬間、こちらへ向かってくる足音。


「……あ」


 サンパギータが足を止める。


「……マツリカ、おはよう」


 次の瞬間――


 そこに座り込んでいたのは、ひとりの少女だった。

背中には、そらとぶジャージがふわふわと浮かび、

下着のような黒いシャツを無造作に身につけている。


その周囲には、奇妙な装置がいくつも転がっていた。


「あ〜、サンパギータちゃんだ〜。おはよ〜……」


 間延びした声。


「……ありゃ? お客さんだ〜」


「えっと……この人が……」


 彩葉が小声で言う。


「うん……マツリカ。インドネシアの守護者にして……」


 サンパギータは一瞬言葉を区切り、


「……ガルーダの嫁……」


「……ガルーダの嫁……

 ――この国の守護神、その伴侶……」


 栞の顔が、みるみるうちに引きつる。


「――『神の嫁』じゃと……?」


 一拍の沈黙。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 一同の叫びが、森に響き渡った。


「えへへ〜、よおしくね〜」


 マツリカは、何事もなかったかのように、にこにこと手を振っていた。


 ――こうして、

 彩葉たちは“神の嫁”という、想像を超えた存在と出会うのだった。

インドネシア編が、静かに、そして賑やかに幕を開けました。

土と緑の国で出会ったのは、想像を超えた肩書きを持つ守護者でした。

「神の嫁」という言葉の重さは、これから少しずつ明かされていきます。

サンパギータの表情が柔らいだ理由も、その先にあります。

旅は、風景だけでなく、人の関係も深めていくものだと思います。

次回もお楽しみに

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