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アルケオン  作者: れんP
アジア編

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55/90

白花の海路、そして血の影

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 南国の太陽は、容赦なく街を照らしていた。

 サンパギータの案内で歩くフィリピンの街は、日本とはまるで違う色彩をしている。


 色鮮やかな屋台、笑顔で呼び込みをする人々、遠くから聞こえる音楽。

 石造りの建物の影には、精霊や妖の気配が自然と溶け込んでいた。


「すごい……街が元気だね」


 彩葉(いろは)は、きょろきょろと視線を巡らせる。


「人の思いが強い場所……妖も多い……」


 サンパギータは淡々と語る。


「この匂い、好きかも!」


 花火(はなび)が笑顔で言うと、マイが静かに頷いた。


「……音も、にぎやか……」


「狙撃だけしてる人かと思ったけど、案内上手だね」


 レナの言葉に、サンパギータは少しだけ目を伏せる。


「……監視も、守ること……街を知る必要がある……」


 やがて一行は、潮の香りが強くなる場所へと辿り着いた。

 視界いっぱいに広がる、青く澄んだ海。


 波は穏やかで、太陽の光を反射してきらきらと輝いている。


「……この海の先が、インドネシアだよ」


 サンパギータが静かに言った。


「この先が……」


 彩葉は水平線を見つめる。


「サンパギータは、行かないの?」


 その問いに、彼女は答えなかった。


 ――その時。


「きゃぁーーーー!!」


 鋭い悲鳴が、海風を切り裂いた。


「!」


 陽菜(ひな)が即座に振り向く。


「あっちだ!」


 村正(むらまさ)が指差し、彩葉は強く頷いた。


「うん!」


 路地裏。

 地面にへたり込む一人の女性。その前に――


「だ、誰か……」


 声は震え、恐怖に満ちていた。


「助けなんて、こない」


 低く、歪んだ声。


 宙に浮かぶ――内臓をぶら下げた生首。


「……!」


「首が、浮いてる……」


 (エイ)が、思わず呟く。


「もしかして……あれがか?」


 (くろ)が身構える。


「……吸血鬼ウンガウンガ


 サンパギータの声が、冷たく響いた。


「……させない。

 スピリット・ジャッチメント!」


 彼女の足元から、土と霊力が渦を巻く。

 空気が震え、不可視の衝撃が吸血鬼を直撃した。


「!?

 あぁぁぁぁぁ!!!?」


「……さっさと帰れ」


 サンパギータの瞳は、揺らがない。


「フンッ!

 精霊モドキが……吸血鬼ウンガウンガ様に指図するとは、生意気!」


「今のうちに!」


 レナが女性の肩を支える。


「ここは任せて!」


 マミが前に出る。


「は、はい……!」


 女性は震えながらも逃げ出した。


「……チィッ」

ウンガウンガは忌々しそうに舌打ちし、

「覚えていろ……」という歪んだ声を残して、闇へと飛び去っていく。


 静寂が戻った。


「……」


 サンパギータは、しばらく動かなかった。


「さすがだね」


 フェルルが感心したように言う。


「うん!」


 花火も力強く頷いた。


「別に……いつものこと……」


 その言葉は淡々としていたが、背負ってきたものの重さを感じさせた。


「あれ?」


 彩葉が、ふと首を傾げる。


「そういえば、国が違えば言語も違うのに……私、普通に聞こえたよ?」


「私は、わからない言語でしたよ?」


 レナが首を振る。


「……《守護者の言葉》」


「え?」


「守護者は、どの国の言語にも精通する……

 だから、わかる」


「守護者じゃない人には……聞き取れない……」


「ほぇ〜」


 レナが感心した声を出す。


「便利だろ」


 村正が笑う。


「うん……」


 彩葉は、少し不思議そうに頷いた。


「そんな能力が……不思議じゃのう……」


 (しおり)も目を細める。


「……守護者の言葉は、不思議な音を発している……

 その音は、本人が一番わかる形で聞こえる……

 守護者自身にも……」


「そうなんですね」


 彩葉は静かに受け止めた。


「……そうだ」


 サンパギータは、海を見つめながら言った。


「私も……行こうかな……

 マツリカに会いに……

 監視するだけじゃ、見えないものもありそうだから……一時的な同行だけど...」


「うん! ありがとう!」


 彩葉の声が、海に溶ける。


「それじゃあ、海を渡るなの……」


 アビが、皆の手を促した。


 手と手を取り合い、空へと舞い上がる。


 フィリピンの海が遠ざかり、 白い花の守護者の決意を乗せて、 次なる地――インドネシアへ。


 ――インドネシアの森の中。


「えへへ〜……

 今日も良い発明ができたよ〜……」


 楽しそうな声が、木々の間に響く。


「……旦那様、喜んでくれるかな?」


 新たな出会いは、すぐそこまで迫っていた。

フィリピン編では、「守るとは何か」「存在理由とは何か」を、

白花の守護者サンパギータを通して描きました。


監視する者、街を知る者、そして一歩を踏み出す者。

彼女の選択が、彩葉たちの旅にも静かな影響を与えています。


血の影は去りましたが、世界の闇はまだ続きます。

次なる舞台、インドネシアで待つ出会いと真実を、どうか見届けてください。

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