白花の監視者と、揺れる存在理由
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
熱を帯びた風が、街の隙間を縫うように吹き抜けていく。
壁から地面へと静かに降り立ったサンパギータは、土埃をまといながら一行の前に立った。
その立ち姿には、街そのものを背負っているかのような落ち着きがあった。
「英雄さんたち……知っている」
淡々とした言葉だったが、その視線には確かな敬意があった。
「フィリピンでも聞かれてるんだ」
レナが少し驚いたように言う。
「うん! 世界中の人が聞いてるよ」
リリア=エジソンは誇らしげに胸を張る。
「……うん」
マイも、控えめながら同意するようにうなずいた。
「サンパギータは、なにしてるの?」
マミの問いに、サンパギータは少しだけ視線を遠くへ向ける。
「私は……監視」
その声は静かだが、重みを含んでいた。
「不届き者や、わるい妖とか……最近は、首と内臓だけで動く吸血鬼に襲われる人が増えてるから……」
空気が、一瞬で冷える。
「……首と内臓だけ……」
影が、ぽつりと呟いた。
「何だその恐ろしい姿……」
喰は思わず眉をひそめる。
「私もそう思う……」
フェルルが、小さく肩をすくめた。
「国が違えば、妖も違う……か……」
花火はどこか感慨深げに空を見上げた。
「海外の妖怪にも会ってみたいなの」
アビの言葉に、サンパギータはわずかに微笑む。
「フィリピンにいれば、フィリピンの妖や妖精に会えると思う……」
「どんな子がいるんだろう。少し気になる……」
彩葉の声には、純粋な好奇心がにじんでいた。
「気になることは、いいことだよ」
陽菜が優しく言う。
「そうだぞ」
村正も頷く。
「うん! お父さんも、いろんなことが気になる人だったみたいだからね」
リリアの言葉に、栞が懐かしそうに目を細めた。
「そうじゃったな……。
そうじゃ、話を戻そう。ISMPP……国家共生調停平和盟約に用があったんじゃろ?」
「私達に?」
サンパギータが首を傾げる。
「あ、そうだ!」
彩葉は一歩前に出て、はっきりと言った。
「私達、断界同盟を探しながら旅をしてるんです。お力を貸してください。
――自分の存在理由を探すためにも」
その言葉に、サンパギータはしばらく沈黙した。
風が吹き、街のざわめきが遠くに感じられる。
「……わかった」
やがて、静かに答える。
「だったら、リーダーのインドネシアの守護者、マツリカに聞くといい……」
「ありがとうございます!」
彩葉の声が、明るく弾んだ。
「そうだ」
サンパギータは、少し柔らいだ声で続ける。
「少し、ここを見ていってよ。自分の存在理由を探してるんでしょ?
……様々な地域を見たほうがいいと思う」
「はい!」
一行は、サンパギータの案内で街を歩き始めた。
色とりどりのジープニーが走り抜け、露店には南国の果物が山のように並ぶ。
潮の香りと甘い香辛料の匂いが混ざり合い、異国の空気を強く感じさせた。
「この市場……賑やかですね」
マミが目を輝かせる。
「人が生きてる音がするな」
喰が周囲を見回す。
「ここは、人と妖と精霊が近い……」
サンパギータはそう言いながら、一本の古い教会を指さした。
「守るべきものが、はっきり見える場所……だから、私は監視してる」
彩葉はその背中を見つめる。
(守ることが、存在理由……)
それは、自分たちにも通じるものだった。
夕暮れが街を包み、空が朱に染まる。
異国の地で見た景色、出会った守護者、語られた使命。
彩葉の胸の奥で、何かが静かに芽吹いていた。
――自分の存在理由は、まだ答えにならない。
けれど、探し続ける意味は、確かにここにある。
白い花の名を持つ守護者とともに歩いた一日は、
そのことを、優しく教えてくれていた。
今回は、フィリピンの守護者サンパギータとの出会いを描きました。
「守ること」をすでに選び、迷いなく立っている存在と、
まだ自分の存在理由を探し続けている彩葉たち――
その対比が、少しでも伝わっていれば嬉しいです。
答えはすぐに見つかるものではありません。
けれど、世界を歩き、人と想いに触れることで、
確かに心の中に芽生えるものがある。
次回もお楽しみに




