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アルケオン  作者: れんP
アジア編

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54/85

白花の監視者と、揺れる存在理由

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 熱を帯びた風が、街の隙間を縫うように吹き抜けていく。

 壁から地面へと静かに降り立ったサンパギータは、土埃をまといながら一行の前に立った。

その立ち姿には、街そのものを背負っているかのような落ち着きがあった。


「英雄さんたち……知っている」


 淡々とした言葉だったが、その視線には確かな敬意があった。


「フィリピンでも聞かれてるんだ」


 レナが少し驚いたように言う。


「うん! 世界中の人が聞いてるよ」


 リリア=エジソンは誇らしげに胸を張る。


「……うん」


 マイも、控えめながら同意するようにうなずいた。


「サンパギータは、なにしてるの?」


 マミの問いに、サンパギータは少しだけ視線を遠くへ向ける。


「私は……監視」


 その声は静かだが、重みを含んでいた。


「不届き者や、わるい妖とか……最近は、首と内臓だけで動く吸血鬼に襲われる人が増えてるから……」


 空気が、一瞬で冷える。


「……首と内臓だけ……」


 (エイ)が、ぽつりと呟いた。


「何だその恐ろしい姿……」


 (くろ)は思わず眉をひそめる。


「私もそう思う……」


 フェルルが、小さく肩をすくめた。


「国が違えば、妖も違う……か……」


 花火(はなび)はどこか感慨深げに空を見上げた。


「海外の妖怪にも会ってみたいなの」


 アビの言葉に、サンパギータはわずかに微笑む。


「フィリピンにいれば、フィリピンの妖や妖精に会えると思う……」


「どんな子がいるんだろう。少し気になる……」


 彩葉(いろは)の声には、純粋な好奇心がにじんでいた。


「気になることは、いいことだよ」


 陽菜(ひな)が優しく言う。


「そうだぞ」


 村正(むらまさ)も頷く。


「うん! お父さんも、いろんなことが気になる人だったみたいだからね」


 リリアの言葉に、(しおり)が懐かしそうに目を細めた。


「そうじゃったな……。

そうじゃ、話を戻そう。ISMPP……国家共生調停平和盟約に用があったんじゃろ?」


「私達に?」


 サンパギータが首を傾げる。


「あ、そうだ!」


 彩葉は一歩前に出て、はっきりと言った。


「私達、断界同盟を探しながら旅をしてるんです。お力を貸してください。

 ――自分の存在理由を探すためにも」


 その言葉に、サンパギータはしばらく沈黙した。

 風が吹き、街のざわめきが遠くに感じられる。


「……わかった」


 やがて、静かに答える。


「だったら、リーダーのインドネシアの守護者、マツリカに聞くといい……」


「ありがとうございます!」


 彩葉の声が、明るく弾んだ。


「そうだ」


 サンパギータは、少し柔らいだ声で続ける。


「少し、ここを見ていってよ。自分の存在理由を探してるんでしょ?

 ……様々な地域を見たほうがいいと思う」


「はい!」


 一行は、サンパギータの案内で街を歩き始めた。


 色とりどりのジープニーが走り抜け、露店には南国の果物が山のように並ぶ。

 潮の香りと甘い香辛料の匂いが混ざり合い、異国の空気を強く感じさせた。


「この市場……賑やかですね」


 マミが目を輝かせる。


「人が生きてる音がするな」


 喰が周囲を見回す。


「ここは、人と妖と精霊が近い……」


 サンパギータはそう言いながら、一本の古い教会を指さした。


「守るべきものが、はっきり見える場所……だから、私は監視してる」


 彩葉はその背中を見つめる。


(守ることが、存在理由……)


 それは、自分たちにも通じるものだった。


 夕暮れが街を包み、空が朱に染まる。

 異国の地で見た景色、出会った守護者、語られた使命。


 彩葉の胸の奥で、何かが静かに芽吹いていた。


 ――自分の存在理由は、まだ答えにならない。

 けれど、探し続ける意味は、確かにここにある。


 白い花の名を持つ守護者とともに歩いた一日は、

 そのことを、優しく教えてくれていた。

今回は、フィリピンの守護者サンパギータとの出会いを描きました。

「守ること」をすでに選び、迷いなく立っている存在と、

まだ自分の存在理由を探し続けている彩葉たち――

その対比が、少しでも伝わっていれば嬉しいです。


答えはすぐに見つかるものではありません。

けれど、世界を歩き、人と想いに触れることで、

確かに心の中に芽生えるものがある。

次回もお楽しみに

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