壁に咲く白き花 ― フィリピンの守護者 ―
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
蒼い海と空の境界が、ゆるやかに溶け合う場所。
強い日差しが大地を照らし、湿った風が肌をなでる。
「ついたなの〜」
アビの声が、開けた空間に軽やかに響いた。
「……8時間でついちゃった……」
彩葉は思わず遠くを見つめる。
「大丈夫? アビ」
「問題ないなのですよ」
にこりと笑うアビに、彩葉はほっと胸をなで下ろした。
「それなら良かった……」
一行が降り立ったのは、活気に満ちた街の外れだった。
色鮮やかな建物、陽気な声、行き交う人々の足音。
日本とはまるで違う熱とリズムが、空気そのものに宿っている。
「して、どこからまわるかの」
栞が周囲を見渡しながら言う。
「まずは現地の守護者に会いたいが……」
村正の視線は、警戒を含んでいた。
「フィリピンの守護者の名前は、サンパギータ」
陽菜が一歩前に出て説明する。
「元々は土の精霊で、土を操るんだ。サクラ様から聞いた話だと……」
少し間を置き、続ける。
「雲みたいなもので壁や柱に張り付いて、土で作ったスナイパーライフルで狙撃するのが得意らしい」
「ほぇ〜」
レナが感嘆の声を漏らす。
「狙撃手……」
マミは無意識に周囲を見回した。
「なぁ」
喰が腕を組んで言う。
「日本以外にも、魔法少女や魔法生物はいるのか?」
「もちろんだよ」
フェルルは即答した。
「私たちは世界中にいるし、魔法少女も世界中にいるよ」
「……そうなんだ……」
影は、どこか納得したように小さくうなずいた。
「じゃあさ」
リリア=エジソンが明るく声を上げる。
「そのサンパギータを探しながら、ここを観光しようよ」
「うん……観光したい」
マイが小さく賛成する。
「それいいね!」
花火も笑顔でうなずいた。
「うん! そうしよーう!」
彩葉の声が弾む。
こうして一行は、守護者を探しながら街を歩き始めた。
市場には果物の甘い香りが漂い、屋台からは陽気な音楽が流れてくる。
子どもたちの笑い声、遠くで鳴るクラクション――
この国の日常が、あふれるように広がっていた。
だが。
「……」
彩葉は、ふと背筋に違和感を覚えた。
――見られている。
確かな視線。
それも、正面ではない。
「……?」
その瞬間。
「……君たちが噂の?」
低く、落ち着いた声が響いた。
「!」
彩葉の心臓が跳ねる。
一同は一斉に周囲を見渡した。
だが、人影はどこにもない。
「……いない?」
「今の声……」
レナが息を詰める。
「壁だよ……壁」
「わぁ!?」
彩葉は思わず飛び退いた。
そこには――
建物の壁に、ぴたりと張り付く少女の姿があった。
まるで雲が形を成したかのような淡い土色の気配。
身体の一部は壁と同化し、足元からは土の粒子が静かに舞っている。
背中には、土で形作られた精緻なスナイパーライフル。
少女は壁に逆さまのまま、穏やかに微笑んだ。
「はじめまして」
静かで、芯のある声。
「フィリピンの守護者、サンパギータ……よろしく」
その名は、まるで白い花が咲くように、空気に溶けていった。
彩葉は一歩前に出て、深く息を吸う。
「……彩葉です」
仲間たちも、それぞれに視線を向ける。
壁に咲く守護者と、旅の一行。
異国の地での出会いは、静かに、しかし確かに――
新たな物語の扉を開いていた。
第五十三話、ここまでお読みいただきありがとうございました。
今回はフィリピンという土地に根付く「守る」という想いと、静かに咲く白き花のような守護者の在り方を描いています。
壁に咲く花は、厳しい環境でも消えない希望の象徴です。
その想いが物語をどう揺らしていくのか――引き続き見守っていただけたら嬉しいです。




