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アルケオン  作者: れんP
日本編

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52/73

緑の記憶と硫黄の影 ― 屋久島の守護者 ―

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 海の上を渡る風が、ふいに湿り気を帯びた。

 潮の匂いに混じって、深い森の香りが胸いっぱいに流れ込んでくる。


「ついた〜なの〜」


 真っ先に声を上げたのはアビだった。

 両腕をいっぱいに広げ、眼下に広がる島を見下ろしている。


「ここが、屋久島……」


 彩葉は息を呑んだ。

 島全体を覆うように、濃く、深く、重なり合う緑。

 山々から溢れる霧は生き物のようにゆっくりと動き、太陽の光を柔らかく反射している。


 ――この島は、生きている。


 そう直感せずにはいられなかった。


 彼女たちが降り立ったのは、森と浜辺の境目だった。

 苔むした岩の隙間を清らかな水が流れ、足元では小さな命がひっそりと息づいている。


「こんにちは……お客人」


 不意に、柔らかな声が響いた。


 振り向いた先に立っていたのは、緑あふれる少女だった。

 長い髪には蔦のような植物が絡み、肌は森の光を宿したかのように淡く輝いている。

 その眼差しは静かで、深く、何千年もの時を見てきたようだった。


「誰!?」


 レナが反射的に身構える。


 だが次の瞬間、別の存在が現れ、空気が一変した。


「遠くからご苦労さまだな〜」


 軽い調子の声。

 背中には、異様な存在感を放つ二丁のガトリング砲。

 鋼鉄の塊を軽々と背負った少女は、にやりと笑っていた。


「屋久はともかく……硫黄。なぜいる」


 村正の声が低く沈む。


「あ〜? 別にいてもいいじゃねぇか」


 少女は肩をすくめる。


「オレと屋久は姉妹みたいなもんだしな」


「硫黄……少しうるさいですよ」


 緑の少女が静かにたしなめる。


「おっと」


 硫黄と呼ばれた少女は、悪びれた様子もなく口を閉じた。


 緑の少女は一歩前に出て、丁寧に頭を下げる。


「改めまして。屋久島の守護者……屋久と申します」


「オレは硫黄島の守護者、硫黄だ。そのまんまでいいだろ」


「……あ、彩葉と申します……」


 彩葉は慌てて名乗った。


「まぁ、そんな固くなんなよ。今度オレの島にもこいよ」


「……あなたの島、何もないじゃないですか……」


 屋久の言葉は淡々としていた。


「あなたのせいで立入禁止ですし」


「ん? なにかしたかな?」


 空気が、ぴたりと止まった。


 屋久は視線を伏せ、静かに言葉を紡ぐ。


「第一次神怪世界大戦時……日本軍がいなくなると、敵軍を閉じ込める装置を硫黄島に置き……」


 硫黄の笑みが、わずかに歪む。


「さらには、その背中のガトリング砲から世界中の毒ガスを発射し……敵軍を殺し続け……」


 仲間たちの顔が、次々と引きつっていく。


「最終的に、それを一ヶ月間放置。毒ガスの影響で、立入禁止になったのでしょう?」


「あ……」


 硫黄は言葉に詰まった。


「怖いです……」


 レナが小さく呟く。


 マミとアビ、花火と影は、何度も無言でうなずいていた。


「安心しろ!」


 硫黄は急に声を張り上げる。


「敵軍の死体はみじん切りにして、ハワイの火山に放り込んでやったから!」


「そういう問題じゃない……」


 屋久は即座に切り捨てた。


「たしかに……」


 リリア=エジソンも、静かに同意する。


「それに、敵軍をコケや杉に変えたのだって怖いだろ?」


「私は、ナワバリに入ってきた敵を自然に返しただけですよ」


「……どっちもどっち……」


 マイがぽつりと漏らす。


「……」


 フェルルは何も言わず、じっと二人を見つめていた。


「ぁあ、どれも十分こわいだろ」


 喰がため息をつく。


「それを言ったら、沖縄の守護者・珊瑚だって、敵軍を珊瑚に変えてオニヒトデに食わせてたらしいぜ」


「島系って、みんな怖いの!?」


 彩葉の悲鳴が森に響いた。


「いや、この人たちが特別なだけ」


 陽菜が即座に否定する。


「そうじゃ……」


「……あぁ」


 栞と村正が同時にうなずいた。


「えぇ〜……」


 彩葉はがっくりと肩を落とす。


「そんなことより」


 硫黄がぱん、と手を叩く。


「屋久島を案内してやるぜ」


「それは私のセリフです……」


 屋久は呆れたようにため息をついた。


「……あ、うん……」


 一同は顔を見合わせ、


「お〜……」


 と声を揃えた。


 屋久島の森は、圧倒的だった。

 巨木の根は地を這い、幹には無数の苔と命が宿る。

 水音は絶え間なく、島そのものが呼吸しているかのようだった。


「この森は……戦も、悲しみも、全部覚えています」


 屋久は歩きながら、静かに語る。


「だからこそ、守るのです。奪うためではなく、還すために」


 彩葉はその背中を見つめ、胸の奥が温かくなるのを感じていた。


 やがて一行は、白い砂浜へと辿り着く。

 波は穏やかで、遠く水平線が滲んでいる。


「こっから渡るなの」


 アビが指を差した。


「こっからフィリピンに行けるの?」


「地図を見た感じ、問題ないなの」


 屋久は微笑み、一歩下がる。


「また、いらしてくださいね」


「じゃあな!」


 硫黄は大きく手を振った。


「はい!」


 彩葉は力強くうなずく。


 一同は手を取り合い、空へと舞い上がる。

 屋久島の緑と硫黄の影が、静かに遠ざかっていった。


 ――日本編、ここに終幕。

 次なる旅路は、アジア編へ。


 新たな大地が、彼女たちを待っている。

日本編、ここまでお読みいただきありがとうございました。


五十二話では、屋久島という“生きた島”を舞台に、

守護者という存在が背負ってきた歴史と、その重さを描きました。


屋久と硫黄は、どちらも「島を守った」守護者です。

しかしその方法は大きく異なり、

一方は自然に還し、もう一方は力で排除する道を選びました。


どちらが正しかったのか――

それは、この物語でも簡単には答えを出しません。


戦争という極限の中で選ばれた行動は、

守ったものと同時に、取り返しのつかない影も残します。

屋久島の森が“すべてを覚えている”という言葉には、

そんな歴史への敬意と戒めを込めています。


そしてこの回で、日本編は一区切りとなります。

彩葉たちは日本各地で、

多様な守護者の在り方と、世界の歪みを目にしてきました。


次章からは、舞台をアジアへ。

ISMPPをはじめ、価値観も文化も異なる守護者たちとの出会いが待っています。

その中で、彩葉たちが何を選び、何を守ろうとするのか――

ぜひ見届けていただければ幸いです。


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

次なる旅路で、またお会いしましょう。

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