火の国に吹く、新しい風
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
鹿児島の土地で話し声が聞こえる
「ねぇ、知ってる?」
「え?」
「怪鬼が倒されたんだって!」
「えぇ!? あの怪鬼がですか!」
「そうだよ。それで、その怪鬼を倒した英雄たちが――こっちに向かってるらしいんだ」
「へぇ〜……会ってみたいです!」
「そうだね、マイ!」
――視点は変わり、鹿児島の地へ。
「ついたなの」
アビの声とともに、彩葉たちはゆっくりと地面へ降り立った。
「ほぇ〜……ここが鹿児島……」
彩葉は目を輝かせ、あたりを見渡す。
「ねぇ! あの山はなに?」
彼女が指差した先には、堂々とそびえ立つ山影があった。
「あれは桜島だよ」
陽菜は少し微笑みながら答える。
「火山だ」
「へぇ〜! 火山か〜!」
彩葉は感心したように声を上げた。
「今日は、特にきれいに見えますね」
そう言って、陽菜は桜島を見上げる。
「確かにな」
喰も腕を組み、低くうなずいた。
「こんなに近くで見るのは……初めてですね」
フェルルは宙に浮かびながら、興味深そうに眺めている。
「……大きい……」
影もまた、じっと山を見つめていた。
「ねぇねぇ、ちょっと街を見ていこうよ!」
レナが弾むように言う。
「あ、待って、レナ!」
マミが慌てるが、
「まったく、子供じゃのう」
栞は呆れつつも、口元はどこか緩んでいた。
「まぁ、しょうがない。少し見ていくか」
村正が言うと、
「うん!」
「さんせ〜い!」
彩葉と花火が同時に声を上げた。
鹿児島の街は、火山の麓に広がる独特の景色を持っていた。
道のあちこちには火山灰対策の溝が走り、建物はどこか重厚で落ち着いている。
「わぁ……黒っぽい瓦が多いね」
「火山灰に強い造りなのです」
アビの説明に、彩葉は素直にうなずいた。
通りを歩けば、ふと甘い香りが漂ってくる。
「これ……なに?」
マミが足を止める。
「焼き芋……じゃないな」
「“かるかん”ですね」
「鹿児島の和菓子です」
「えぇ!? 食べたい!」
気づけば、全員の手にそれが渡っていた。
「……ふわふわ……」
「うん……優しい味」
さらに歩けば、今度は香ばしい匂い。
「肉だ!」
「黒豚ですね」
「これは……反則だな」
村正は思わず息を吐いた。
街を抜け、高台に出ると、錦江湾が一望できた。
「海も……きれい……」
「火山、街、海……全部そろってるんだね」
その言葉に、鹿児島の風がそっと吹き抜ける。
――そのとき。
「あの人たち……もしかして?」
不意に、背後から声がした。
「え?」
「あ〜! やっぱり!」
「リリアちゃん、声が大きいよ……」
振り返ると、そこには二人の少女。
鹿児島の風が、桜島の方から吹き抜ける。
――新たな出会いが、静かに始まろうとしていた。
鹿児島という「火の国」での一幕はいかがでしたでしょうか。
桜島の静かな存在感と、街のあたたかさを感じてもらえたなら幸いです。
新しい風と出会いが、彼女たちの旅をどこへ導くのか――次話もお楽しみに。




