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アルケオン  作者: れんP
日本編

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42/60

試練・影&喰編

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

薄曇りの空の下。

結界で隔てられた修練場に、二つの気配が並んで立っていた。


一方は影のように希薄で、輪郭すら揺らいで見える少女。

もう一方は獣のごとき圧を纏い、今にも前へ踏み出しそうな妖怪。


(エイ)は俯いたまま口を閉ざし、

(くろ)は腕を組み、苛立ちを隠そうともしなかった。


「……オレ達は、なにをすれば良い?」


喰の問いに、中央に浮かぶ菅原道真公の御霊が、静かに頷く。


「ふむ……では言おう」


空気が、わずかに張りつめた。


「影。お前は――“存在を消しすぎる”」


影の肩が、びくりと跳ねる。


「お前の力は優れている。

だがな、隠れすぎるあまり、自分自身まで薄めてしまっている」


影は唇を噛み、か細い声を絞り出した。


「わ、私は……前に出るのが……怖くて……」


その言葉に、喰が小さく舌打ちする。


「そんなこと――」


だが、道真公の御霊が手を上げ、静かに制した。


「ふむ、違うな。

それは“怖さ”ではない。“自分を信じきれぬだけ”だ」


影の目が、揺れる。


「……私は……必要、ですか?」


その問いは、迷いそのものだった。


「当たり前だ」


即答だった。


「必要のない者など、この世にはおらぬ。

そのようなことを言う者がいたなら――聞くに値せぬ」


一拍おいて、付け足す。


「……まぁ、宗教となれば話は別だがな」


喰が吹き出しそうになり、慌てて咳払いをした。


「よい。ここまでは、合格だ」


影が顔を上げる。


「え……?」


「自己を否定せず、向き合った。それが何よりの証だ」


道真公の御霊の視線が、影の背後の気配を捉える。


「その加護……酒吞童子のものだな?」


「は、はい……!」


声に、確かな力が宿る。


「良し。ならば教えよう」


杖が地を打ち、淡い光が足元に広がる。


「消えるのではない。“重ねる”のだ。

影とは、光があるからこそ生まれる。お主自身を否定するな」


影の姿は揺らぎながらも、確かに“そこに在る”形を取り戻していく。


一方、喰は歯を食いしばっていた。


(守る……待つ……それが一番、性に合わねぇ)


「……で、オレは?」


「喰。お前は――“前に出すぎる”」


「!」


「迷いなく振るう力は美徳だ。だがな、それでは仲間を置き去りにする」


喰は拳を握り、低く息を吐いた。


「……止まるのが、苦手なんだ」


「知っておる。だからこそ試練だ」


「影が前に出るまで、お前は動くな。

守れ。耐えろ。前に出たい衝動を、押し殺せ」


「……くそ」


それでも、喰は動かなかった。


影が一歩、また一歩と前に進む。

その背を、喰は黙って守り続ける。


時間は、ひどく長く感じられた。

だがその沈黙こそが、二人に必要な時間だった。


やがて――


「ふむ……これで良い」


「お前たちは、互いを補い合う存在だ。忘れるな」


影は深く頭を下げ、

喰は不器用に視線を逸らした。


――別の場所。


静かな回廊に、一人の少女が立っていた。


「……僕は、なにをすれば?」


陽菜(ひな)の問いに、菅原道真公の御霊は、再び静かに微笑む。


「ふむ……次は、お主の番だな」


次なる試練の気配が、確かに動き出していた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

第四十二話では、影と喰、それぞれが自分の欠点と向き合い、「一人ではない」という答えに辿り着く試練を描きました。


次回は、いよいよ陽菜の試練です。

またお楽しみいただければ幸いです。

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