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アルケオン  作者: れんP
日本編

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40/65

試練・村正編

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

結界の内側。

空は薄く歪み、地もまた静止しているかのようだった。

時間すら息をひそめるその場所で、村正は刀の柄に手をかけ、正面に立つ菅原道真公の御霊を見据えていた。


「俺は、なにをすれば良い?」


問いは簡潔だった。

迷いはない。だが、その奥にある“限界”を、村正自身が理解していることも、御霊には見えていた。


「ふむ……」


菅原道真公の御霊は、わずかに顎に手を添える。


「まずは向かってこい」


「わかった……」


村正(むらまさ)は一歩、踏み込む。


「行くぞ……月光・三日月!!」


白銀の軌跡が、弧を描いて走る。

鋭く、無駄のない一撃――だが。


「ふむ、もっとだ」


その言葉と同時に、御霊は難なく受け流した。


「ッ……!」


村正の表情が引き締まる。


「……月光・宵裂! 月光・幻月!!」


連撃。

間を置かず、二つ、三つと斬撃が重なる。

空間そのものを切り裂くような剣閃が、結界を震わせた。


だが。


「……お主は、隙が大きい」


御霊の声は静かだった。


「その隙を減らせ。そして……」


視線が、村正の腰元に向く。


「もう一本の刀は飾りか?」


「……!」


「その刀……月光刀に、陽光刀か。珍しいものを持っているな」


村正の目が、わずかに見開かれる。


「この刀達を、知っているのか」


「伝説の刀鍛冶が打った六本の刀。そのうちの二本だろう?」


御霊は淡々と続ける。


「知っているさ。神代より語られてきた逸品だ」


村正は、陽光刀の柄に手を置いた。


「……この陽光刀は、飾りじゃない」


低い声。


「俺の力が、まだ未熟で……認められていないだけだ」


一瞬の沈黙。


「なるほど」


菅原道真公の御霊は、静かに頷いた。


「では、私の記憶を見せよう」


「……?」


「それで少しは隙が消え、その刀にも認められるだろう」


村正は息を整え、短く答える。


「……わかった」


「では……」


御霊が、指を鳴らす。


次の瞬間――


「ッ…………!!」


村正の意識が、引きずり込まれる。


膨大な光景。

戦、祈り、裏切り、信仰、そして剣。


刀を握った者たちの“生”と“死”。

神と人の境界で揺れる記憶が、一気に流れ込んでくる。


「……苦しいか?」


御霊の声が、遠くで響く。


「耐えろ。そうでなきゃ、記憶に飲まれて戻れなくなるぞ?」


歯を食いしばり、村正は立ち続けた。


(……折れるな……)


膝が震える。

視界が白くなる。


それでも――


「……………………………………ふぅ……」


深く息を吐き、村正は意識を繋ぎ止めた。


「……よし……」


「耐えきったか……」


御霊の声には、確かな評価があった。


村正は、ゆっくりと刀を構え直す。


「……もう一度だ! 月光!」


身体が軽い。

視界が、澄み切っている。


「白夜斬!!」


白と銀が交錯する。

今度の一撃は、迷いがなかった。


「ッ……!」


御霊の結界が、わずかに軋む。


「……ふふふ……」


菅原道真公の御霊は、微笑んだ。


「見事だ。その調子だ……それを忘れるな」


「あぁ」


短く応える、その瞬間。


――カチャン。


乾いた音が響いた。


「!」


村正が視線を落とすと、陽光刀の鞘が、わずかに震えている。


「ほう?」


御霊は、興味深そうに目を細めた。


陽光刀は、まだ完全には抜けない。

だが確かに――村正を“見た”。


それだけで、十分だった。


 


――場面は変わる。


別の結界。


「妾は、なにをすればよいのじゃ?」


(しおり)が腕を組み、御霊に問いかける。


「支援妖術は完璧のはずじゃが」


「ふむ……」


菅原道真公の御霊は、栞を見つめ、ゆっくりと告げた。


「支援能力は、確かに素晴らしい」


一拍置いて。


「……が、お前は無駄に妖気を出しすぎだ」


栞の試練もまた、静かに始まろうとしていた。

剣とは、振るうための道具であると同時に、

振るう者の生き方を映す鏡でもあります。


村正の試練は、技を磨くためのものではありませんでした。

過去を知り、重みを受け止め、それでも立ち続けられるか――

剣士としての「覚悟」を問う時間でした。


陽光刀は、まだ抜かれていません。

けれど確かに、村正を見つめ、認め始めています。

剣に選ばれるということは、力を得ることではなく、

背負うものが増えることなのかもしれません。


そして試練は、まだ終わりません。

次に試されるのは、前に立つ者ではなく、支える者。

戦場の流れを読み、仲間の力を最大限に引き出す存在――

栞の試練が、静かに始まろうとしています。


守護者たちは今、確実に変わりつつあります。

それぞれが自分の力と向き合い、

やがて来る大きな戦いに備えるために。


次話も、どうぞお付き合いください。

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