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アルケオン  作者: れんP
日本編

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39/71

試練・レナ編

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

結界の内側は、外界の時間から切り離された静寂に包まれていた。

風は吹いているはずなのに音はなく、空気そのものが張り詰め、意志を持っているかのようだった。


菅原道真公の御霊は、ゆっくりとレナの前に立つ。

その眼差しは厳しくもあり、同時に導く者の温かさを帯びていた。


「――中に貯める感じだ」


御霊の声が、直接心に届く。


「そして箱の中にそれを封じ込めるような感覚でな。それを自由に開け閉めし、妖術を出したり消したりする。それが基礎だ」


「箱……」


レナは小さく頷き、両手を胸元で重ねた。

彼女の身体から、淡く揺らいでいた妖気が、まだ不安定に漏れ出している。


「えっと……こう、ですか……?」


意識を内側へ沈める。

流れ出ていた妖力を、無理に抑え込むのではなく、そっと“戻す”ように。


(中に……集めて……)


心の奥に、小さな箱を思い描く。

木箱のような、しかし壊れないもの。

その中へ、あふれる妖気を一つ一つ収めていく。


「ふむ……」


御霊は腕を組み、しばし観察する。


「少しはマシになったな。その調子だ」


レナの呼吸が安定していく。

妖気の漏れは次第に減り、結界の空気が静まっていった。


――どれほど時間が経ったのだろう。

額に汗を浮かべながら、レナはゆっくりと目を開く。


「……どう……ですか……?」


「うむ、いい感じだ」


御霊は満足そうに頷いた。


「では次は、妖術の使い方だ。霊力と違い、妖力は“練り上げる”ことで、より強く、より鋭くなる」


「練り……上げる……?」


「そうだ。意識を一点に集中させ、圧をかける。焦るな、ゆっくりでいい」


レナは再び目を閉じ、箱の中に納めた妖気へと意識を向けた。

ただ出すのではない。

混ぜ、重ね、凝縮させる。


(力を……まとめる……)


胸の奥が、じわりと熱を帯びる。

恐怖はない。

不思議と、落ち着いていた。


「……その調子だ……」


御霊の声が、遠くから聞こえる。


「練り上げた妖気を、素早く撃つ。威力を逃がすな」


レナの周囲に、淡い光を帯びたオーラが集まり始める。

それは以前のように荒れ狂うものではなく、鋭く、静かな刃のようだった。


「……ッ………………」


歯を食いしばり、限界まで練り上げる。


「良し……撃ってみよ」


「はい……!」


レナは一歩踏み込み、前方を見据えた。


「……ハァッ!」


解き放たれた妖術――

アナフィラキシーオーラは、音もなく、光そのものとなって走った。


次の瞬間。


御霊の胸元に、確かに命中していた。


「……」


沈黙。


レナは息を呑み、結果を待つ。


「…………合格だ」


静かな声が告げた。


「……!」


レナの肩から、力が抜ける。


「後はそれを、どう使うかだ」


御霊は穏やかに続ける。


「私は神だからな。お前の攻撃――アナフィラキシーオーラは、近ければ近いほど危険になる」


「で、でも……平気そうに見えますが……」


「私は神だからな」


くすりと、御霊は笑った。


「それに、この身体は御霊……つまり分身体だ。だがな」


声が、少しだけ真剣になる。


「それほど近距離で、これほどの精神ダメージを与えた。素晴らしい制御力だ」


レナは胸の奥が熱くなるのを感じた。


「もう少し特訓すれば、神の心――神核にすら届くだろう」


「……はい!」


力強く頷くレナの瞳には、迷いはなかった。


 


――視点は、別の結界へ。


「俺も特訓の必要が?」


腕を組み、村正(むらまさ)が御霊を見据える。


「あぁ、もちろんだ」


菅原道真公の御霊は、意味深に微笑んだ。


次なる試練が、静かに幕を開けようとしていた。

レナの試練は、「力を強くする」ためのものではありませんでした。

それは、力と向き合い、受け入れ、制御するための時間。


あふれ出る妖力を恐れず、否定せず、

自分の内側に“しまう”という選択をしたとき、

レナの力はようやく彼女自身のものになりました。


静かで鋭い一撃――

それは派手な成長ではないかもしれません。

けれど確かに、心と力が一つになった証です。


神である菅原道真公の御霊が「合格」と告げた意味は、

単なる修行の達成ではありません。

レナが“戦える存在”から、“託せる存在”へと

一歩踏み出したという評価でもあります。


試練はまだ終わりません。

次に待つのは、剣を振るう者の覚悟。

そしてその先には、守護者たちが避けては通れない

さらなる選択と戦いが待ち受けています。


太宰府の静寂の中で、

彼女たちは確実に強くなっています。


その強さが、誰かを守るためのものであることを願いながら――

物語は、次なる試練へと進みます。

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