試練・マミ編
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
結界の中、乾いた空気が張りつめていた。
先ほどの爆発の余韻がまだ残る中、花火は軽く伸びをしながらマミの方を振り返った。
「そうだね〜、まずはそこからかな」
花火は指先でくるりと円を描き、宙をなぞる。
「君の力――霊力を、もっと強く“圧縮”して投げるといいんだ」
マミは息を整えながら、花火の言葉を反芻する。
「圧縮……」
「うん。今はね、勢いよく放ってるだけ。悪くはないけど、エネルギーが散っちゃってる」
花火は一歩前に出て、マミの前に立った。
「それに、手から出すだけじゃなくて、遠隔でできたらもっと強くなる」
「遠隔で……?」
「そう。こう……」
花火は何もない空間に手を伸ばし、ぎゅっと握る仕草をした。
「遠くの“空間そのもの”をつかむ感じ。そこに力を詰めて、一気に解放する」
マミはごくりと息を飲む。
「……難しいかな?」
「…………」
しばらく黙り込んだ後、マミは小さく首を横に振った。
「……やってみます」
彼女は目を閉じ、両手を胸の前で組む。
バスケットボールの形を思い浮かべる――いつもと同じ、けれど今日は違う。
(押し出すんじゃない……集める……)
霊力が指先に集まりかけ、すぐに霧のように逃げていく。
「……っ」
「焦らなくていいよ」
花火の声は軽やかだが、どこか真剣だった。
「力は、強い子ほど扱いづらいんだ。君もその一人」
マミは唇を噛みしめ、再び意識を集中させる。
今度は“手の中”ではなく、“少し先の空間”を思い描いた。
何もないはずの場所。
けれど、そこに確かに“重さ”が生まれる感覚。
「……これ……?」
空気がわずかに歪み、小さな光の球が浮かび上がる。
「お、いいじゃん」
花火は目を細めた。
「それそれ。そのまま、逃がさないで」
マミは両手を動かさず、意識だけで光を押し固める。
額に汗がにじみ、呼吸が浅くなる。
(まだ……まだ……)
限界を感じた瞬間――
「今!」
花火の声と同時に、マミは意識を解放した。
轟音とともに、圧縮された霊力が一直線に弾け飛ぶ。
地面に深いクレーターが刻まれ、衝撃波が結界を揺らした。
「……!」
マミはその場に膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
「うん、上出来」
花火はぱちぱちと手を叩く。
「今の一撃、さっきの何倍も効率がいいよ」
マミは驚いたように自分の手を見つめ、ゆっくりと笑った。
「……できました……」
「できたね」
花火は優しく頷いた。
「これを繰り返せば、君はもっと怖い存在になるよ」
――少し離れた結界の一角。
レナは菅原道真公の御霊の前に立っていた。
その体からは、抑えきれない妖力が淡く漏れ出している。
「ふむ……」
御霊は静かに彼女を見つめる。
「そうだね……君はまず、自身の妖力を“抑え込む”ことから始めようか」
「抑え込む……?」
「そう」
御霊は地面に杖を軽く突いた。
「君の妖力は豊かだが、溢れ出てしまっている。とても、もったいない」
レナははっとして、自分の手を見る。
「本格的な修行は、それからだ」
「……はい!」
力強く返事をすると、レナは目を閉じた。
あふれる力を、抱きしめるように内側へと引き戻す。
試練はそれぞれ違う形で、確かに彼女たちを鍛え始めていた。
試練とは、強さを与えるものではなく、
自分の力と向き合う時間なのかもしれません。
三十八話では、マミの試練を通して
「力をどう扱うか」というテーマを描きました。
マミは決して弱くありません。むしろ、力は強すぎるほどです。
だからこそ、押し出すだけでは制御できず、迷い、立ち止まります。
花火の教えは、技術だけではなく、
「力を信じ、恐れず、しかし振り回されないこと」でした。
それは戦いだけでなく、生き方そのものにも通じるものだと思います。
そして最後に描いたレナの描写は、
次の試練への小さな予告でもあります。
溢れる力をどう抱え、どう抑え、どう使うのか――
試練はまだ続きます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
次話も、どうか見届けてください。




