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アルケオン  作者: れんP
日本編

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36/81

太宰府天満宮と試練開始

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

晴れ渡る青空が、ゆっくりと流れる白雲を抱きながら広がっていた。

やわらかな風が境内を吹き抜け、木々の葉を揺らし、鈴の音のような葉擦れの音を奏でる。


その空気の中へ、ふわりと降り立つ影があった。


彩葉(いろは)たちだった。


 


「ついた……なの」


アビの声とともに、エアーライドの浮遊感が消え、足裏に確かな地面の感触が戻る。

目の前には、朱と木の温もりが調和した社殿。長い年月を越えて人々の祈りを受け止めてきた、重みある佇まい。


 


「ここが……太宰府天満宮……」


彩葉は、思わず息を呑いた。

ただ“きれい”という言葉では足りない。空気そのものが澄み切っていて、胸の奥が静かに洗われていくようだった。


 


「きれ~い」


レナは目を輝かせ、境内を見回す。


「……はい……」


マミも、どこか緊張したように頷く。


 


「菅原道真公様の社。噂に違わぬ霊格じゃの」


(しおり)は扇子を軽く閉じ、感心したように呟いた。


 


そのとき。


 


「おやおや……団体様かな?」


柔らかく、しかし芯のある声が響いた。


彩葉たちが振り向くと、市女笠をかぶった一人の少女が、にこやかな笑みを浮かべて立っていた。

白と紅を基調とした装束は、巫女とも違い、どこか古風で、それでいて不思議な存在感を放っている。


 


「今日は参拝?それとも……なにか、私に用かな?」


 


「……これは……」


栞の目が、わずかに見開かれる。


「これはこれは……菅原道真公様? じきじきに来てくれるとはの」


 


「何だって!?」


村正(むらまさ)が思わず声を上げる。


「でも、歴史では……」


陽菜(ひな)が口を挟みかけた、その瞬間。


 


「……あのね」


少女――菅原道真公は、指を立てて軽く首を振った。


 


「歴史に書かれている菅原道真公は、あくまで“想像上の姿”。

本当はね、私は女なの」


 


「そ、そうなんですね……」


陽菜は一瞬戸惑いながらも、すぐに納得したように頷いた。


 


「すごいお方なの……」


アビは尊敬のこもった眼差しで、菅原道真公を見上げる。


 


「ふふっ……まあね」


道真公は少し誇らしげに微笑み、そして真剣な表情に戻った。


 


「それで? 私に何か用かな?」


 


彩葉は一歩前に出て、深く息を吸った。


「実は……」


 


彩葉たちは、断界同盟を名乗る存在のこと、入道が残した不穏な言葉、そして太宰府が狙われている可能性について、包み隠さず伝えた。


 


「……ふむ」


話を聞き終えた道真公は、しばし黙考する。


「なるほどね……。太宰府といえば、ここも有名だ。

わかった、気をつけておこう」


 


一同がほっとした、そのとき。


 


「……その前に」


 


道真公の声が、空気を引き締めた。


 


「?」


彩葉が首をかしげる。


 


「君たちに、試練を与える」


 


「えぇ!?」


(くろ)が思わず声を上げる。


 


「……わ、私も?」


(エイ)が小さく指差しながら確認する。


 


「もちろんだよ」


道真公は、はっきりと言った。


「君たちも戦うつもりなんだろう?

だったら、今より強くなってもらわないと困る」


 


「それはそうだろうが……」


陽菜は周囲を見渡し、懸念を口にする。


「そんな時間はあるのかい?」


 


「問題ない」


道真公は、きっぱりと言い切った。


 


そして――


 


パチン、と指を鳴らす。


 


空間が震え、境内の周囲に淡い光の膜が張られていく。

景色はそのままなのに、外界との繋がりだけが断たれたような、不思議な感覚。


 


「これは……」


村正が、刀の柄に手をかける。


 


「時間の流れを遮断する結界だよ」


道真公は穏やかに説明した。


「外では一瞬。中では、君たちが納得するまで鍛えられる」


 


その瞳が、彩葉たち一人一人を見据える。


 


「さあ――試練を開始しよう」


 


張り詰めた空気の中。


 


「ねぇねぇ、私も混ぜてよ」


 


明るく、弾むような声が割り込んだ。


 


「ん?」


道真公が振り向く。


 


「……お前もいたんだったな。花火」


 


そこには、導火線のような尻尾を揺らし、楽しそうに笑う少女が立っていた。


 


「ふふっ」


花火と呼ばれた少女は、いたずらっぽく笑う。


「ちょうどいい。彼女たちの試練を手伝ってもらえる?」


「はーい」


その返事と同時に、空気が揺らぐ。


「それじゃあ……」


道真が再び指を鳴らす。


——ズン。


「増えた!?」


彩葉が叫んだ瞬間、目の前に複数の“道真”と“花火”が現れた。


「ふふっ。このくらい、神ならできるよ」


無数の視線が一斉に彩葉たちを捉える。


「始めようか」


張りつめた空気の中、彩葉は仲間たちの顔を見渡し、小さくうなずいた。


——太宰府の地で、新たな試練が幕を開ける。

それは、これから訪れる戦いへの、避けられぬ第一歩だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


三十六話では、物語の舞台を太宰府天満宮へと移し、

神域ならではの静けさと重み、そしてその奥に秘められた“試練”の始まりを描きました。


菅原道真公は、歴史や伝承の中では恐れや畏敬の対象として語られる存在ですが、

この物語では「守る者」「導く者」としての側面を強く意識しています。

そのため、厳しさの中にも優しさがあり、試練を与える理由も“突き放すため”ではなく

彼女たちを前へ進ませるためのものです。


また、時間を遮断する結界という仕掛けは、

戦いの緊迫感とは別に「成長のための余白」を作るために用意しました。

ここから先、守護者たちが何を学び、何を得るのか――

その変化をしっかり描いていきたいと思っています。


そして最後に登場した花火。

張り詰めた空気の中に差し込む、少しだけ賑やかな存在ですが、

彼女がこの試練にどう関わっていくのかも、今後の見どころの一つです。


次話からはいよいよ、

守護者一人一人の力と覚悟が試される章へと入っていきます。

彼女たちの成長を、どうか最後まで見届けていただければ幸いです。


次回も、よろしくお願いします。

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