入道の影そして、太宰府へ
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
潮風が肌を撫で、広島の街のざわめきがまだ耳に残る中、彩葉たちの前に突如、重低音の響きが鳴り渡った。ドスン、ドスンッ――地面を揺るがすほどの足音が近づき、空気の色が一瞬にして鋭く張り詰めた。
「人間どもがたくさんいるぞ。どいつから食ってやろう!」
彩葉は思わず息を呑んだ。
「あれは!?」
栞が額に皺を寄せ、低く声を出す。
「入道か!?」
アビは小さく飛び上がり、その背中の小さな羽を広げる。
「はい! 一つ目入道なのです!!」
現れたのは、巨大な体に一つ目を持つ異形の存在だった。その目は赤く光り、怒りと狂気に満ちて周囲を見渡している。
「ククククッ!!ん? 貴様、守護者か?」
陽菜はすぐに構えを取り、冷静に返す。
「ここで暴れさせはしません」
村正も背中の刀に手をかけ、うなずく。
「あぁ!」
一つ目入道は高々と笑い声を響かせた。
「はーハッハッハー!!チビどもが! この私に勝てるとでも?」
灰原は静かに一歩前に出た。
「えぇ、勝ちますよ」
すると、一つ目入道は胸いっぱいに息を吸い込み、吹きかけた。猛烈な風圧が立ち込める。
「すぅ〜〜はぁーーーーーー!!!!」
アビは一瞬吹き飛ばされそうになり、必死に姿勢を保つ。
「わぁー!?」
レナも手を広げ、強く叫ぶ。
「アドレナリンスプラッシュ!」
しかし、風圧で攻撃はかすりもせず、空気を切る音だけが響いた。
一つ目入道は肩を揺らして笑う。
「ハッハッハー!この程度か?」
彩葉は迷わず動いた。
「ストラップ・ニードルバインド!」
ショルダーストラップを操り、一つ目入道の口元を封じる。驚愕する入道に、さらに攻撃の手を重ねる。
村正が刀を抜き、月光のように鋭く斬りかかる。
「月光斬!!」
陽菜も射撃用の魔弾を放つ。
「シャイニングバレット!!」
しかし、一つ目入道は驚くどころか、逆に挑発するように叫ぶ。
「ぬうぅ〜……ハァッ!効かん効かん!その程度かゆいわ! 妖術!執筆・絵龍!!」
黒い炎のような線が空中に走り、彩葉の目の前で巨大な龍の姿が浮かび上がった。
「ギァァァオ!!」
「絵龍ブレス!」
彩葉たちは身を翻し、攻撃をかわす。灰原が盾を展開する。
「原核シールド!」
「何!?」
「空爆マシンガン!!」
一つ目入道はその防御をものともせず、うなり声をあげるが、アビが飛び上がり、鋭い爪で反撃する。
「ブレイブクロー……なの」
「ぬぁぁぁ!??目がぁぁ!どこだ! どこに行った!」
「今……!なの」
彩葉たちは次々と連携攻撃を仕掛ける。栞の力量強化、喰のブラックバインド、彩葉のストラップ・ニードルバインド、レナのアドレナリンスプラッシュ、マミの籠球シュート、陽菜のエンチャントバレット、村正の月光・三日月――。
総攻撃により、一つ目入道はついに膝を折り、呻き声を上げた。
「ぬぁぁぁ~……」
彩葉が息を整えながら見つめる。
「……」
一つ目入道は不敵に笑い、最後の言葉を残す。
「ク……クククッ……我らは不滅だ……もう時期、あの方が太宰府を落とし……て…………」
そして、そのまま空中に溶けるように消えた。
栞が肩の力を抜き、周囲を見渡す。
「倒したようじゃが……」
陽菜が疑問を口にする。
「太宰府……いったい?」
アビは思案するように目を細める。
「太宰府といえば、太宰府天満宮? なのです」
村正は険しい表情で頷く。
「もしや? 太宰府天満宮を落とすつもりか?」
彩葉は全員に目を向け、決意を固める。
「急がないと!」
影も小さく頷いた。
「……うん……」
喰が拳を握り、肩を揺らす。
「そうだな!」
陽菜も力強く言った。
「違うとしても、怪しい点には変わらない。僕も行くよ」
栞も同意する。
「妾もじゃ」
レナが元気よく手を振る。
「私も〜!」
マミも小さくうなずく。
「うん! 救うために」
村正は鋭く目を細め、決意を固める。
「決まりだな」
アビは小さく跳び上がり、全員に手を伸ばした。
「だったらアビが連れて行ってあげるなの。一緒についていくなの!」
彩葉は驚きつつも微笑む。
「いいの?」
アビは力強く頷く。
「問題ない、なの」
栞も感慨深げに目を細める。
「新しい仲間じゃな」
影も小さくうなずき、少しだけほほ笑む。
「よろしく……です……」
喰も力強く手を合わせた。
「よろしくな!」
陽菜は微笑み、楽しげに言う。
「楽しくなりそうです」
レナが目を輝かせる。
「うん! また仲間が増えるね、マミ」
マミも頷き、少しはにかむ。
「うん……そうだね、レナ」
彩葉は皆の顔を見渡し、深く頷く。
「それじゃあ、よろしく!」
アビも笑顔で手を広げた。
「よろしくなの! それじゃあ行くなの!」
その言葉とともに、アビは空中に飛び上がり、触れている者を一気に持ち上げた。彩葉たちは驚きながらもアビの背に身を任せる。海風が顔を撫で、空はどこまでも澄んでいる。
「皆さんお気をつけてーー!」
灰原は別れを告げた彩葉達も別れを告げた
「わぁー! 空からの景色もすごい……!」
彩葉の声が風に混ざり、福岡の方向へと向かう。街の家々や森の緑、川の流れが下方に広がり、まるで地図の上を飛んでいるかのようだった。
「アビちゃん……すごいね……」マミは握った手をアビにぎゅっと寄せる。
アビはにこりと笑った。
「大丈夫なの。みんな、ついてきてなの」
波間に反射する太陽の光を背に、守護者たちは福岡へ、そして太宰府天満宮へと向かう――入道の影が告げた、次なる戦いの幕開けを胸に秘めながら。
広島の静かな祈りの地から一転し、今回のお話では「入道」という明確な脅威を通して、断界同盟の動きがはっきりと姿を現しました。
人々の営みのすぐ隣に潜む怪異、そしてそれに立ち向かう守護者たち――この世界が抱える緊張感を、少しでも感じていただけていれば幸いです。
また今回は、彩葉たちが「仲間として戦う」姿を強く描いた回でもあります。
誰か一人が突出するのではなく、それぞれの力と役割が重なり合い、ひとつの勝利へと繋がる。その積み重ねこそが、旅の意味であり、守護者という存在の在り方なのだと思います。
そして、入道の残した言葉――太宰府。
学問と祈り、そして長い歴史を持つ地に、断界同盟は何を求め、何を壊そうとしているのか。
新たな仲間アビとともに向かう次の舞台で
空を渡り、地を越え、想いを繋ぎながら進む旅は、まだ続きます。
次なる物語も、どうか見届けていただけたら嬉しいです。
――守るべきもののために。
そして、選び取った未来のために。
次話も、よろしくお願いいたします。




