広島の駆動は鉄路に響く
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
彩葉たちは自己紹介をすませると、灰原の案内で、広島の街を歩いていた。灰原は自らの経験や守護者としての役割について軽く説明しながらも、笑顔を絶やさずに彩葉たちを先導する。
「ここが、原爆ドームです。まぁ、当時とそんなに変わってないんですが……放射線を浴びたので、少し危険なくらいです」
灰原の声は静かで、落ち着いている。だが彩葉には、その言葉の端々に、過去を背負った者の重みを感じた。
彩葉は、ほとんど形を残しているドームの姿を見つめ、胸の奥が締め付けられるような気持ちになった。
「ねぇ……あそこにいる人は?」
灰原の指先に視線を追うと、少女が大きな板材を背負いながら歩いていた。身体の大きさよりも、板材の重さの方が目立つ。
「あぁ、あの子は工事の守護者『木蓮』なのです」
アビが彩葉たちに説明する。
「原爆ドームが崩れないように見てくれているんです」
灰原が続けた。少女はこちらに気づいたのか、軽やかな足取りで近づいてきた。
「おう!久しぶりだな!お?初めてのもんもいるな!アタイは木蓮!」
「彩葉です」
「僕は陽菜」
「……影」
「オレは喰!」
「妾は栞じゃ」
「村正だ」
「レナです!」
「私はマミ」
木蓮は皆の名前を一つひとつ聞くと、にっこり笑った。
「そうかそうか、みんないい名前だな!アタイは行くけど、お前たちは観光だろ?今日はここで国鉄8620形蒸気機関車の106周年イベントをやってるんだ!見たらどうだ?」
「なんて中途半端……なの」
アビは小さく呟く。
「アッハッハ!それはな!台風が続いたせいで中止を繰り返してたからだ!」
アビはうなずいた。「なるほど……なの」
「行ってみよ!」
彩葉の声に、皆もうなずく。少しざわつく街の音、子供たちの声、屋台の香ばしい匂い――すべてが観光地の活気を彩っていた。
「わぁ〜人がいっぱい!」
レナは興奮気味に手を叩く。マミも目を輝かせて周囲を見渡していた。
「……」
影は少し緊張した顔で辺りを見渡す。
「あの黒いのが国鉄8620形蒸気機関車か?」
喰が指差す先には、堂々とした黒い車体が鎮座していた。
「そうですね、アレがそうです……」
灰原が静かに頷いた。
「どうしたの?」
彩葉が首をかしげると、灰原は少し間を置いてから口を開いた。
「いえ、あの車両があるなら、あの子もいるはずなので」
「あの子?」
その瞬間、黒いコートをまとった少女が人ごみから顔を出した。
「そうですね〜、私もいますよ〜」
「っ!?」
「わぁ!? って……あなたは……」
少女は笑みを浮かべ、手を振る。
「フッフッフ〜、私はハチロク!国鉄8620形蒸気機関車の守護者にして乗務員のアイドル!ハチロクちゃんです!……あれ? あ!私はレイルロ……」
「それはいいの」
アビが静かに制する。
「こんにちは。彩葉です。そして、陽菜、影ちゃん、喰ちゃん、栞、村正、レナちゃん、マミ」
ハチロクは丁寧にお辞儀をした。
「はい、こんにちは、です!」
その明るさは、灰原の静けさとはまた違った、眩しいほどの存在感だった。彩葉たちは、ハチロクの手を振る元気な挨拶に自然と笑顔になる。
「今日はイベントを楽しむのもいいですが、広島の歴史も感じてほしいのです」
灰原の言葉に、彩葉たちは頷いた。鉄路と街の息づかい、ドームの静寂と人々の活気――すべてが、今を生きる守護者たちと街の共鳴を感じさせる。
イベント会場には、古い車両の威容、子供たちの歓声、屋台の香り、人々の笑顔。彩葉はその中で、守護者たちの役割と、街の生活の一体感を肌で感じていた。
その後、彩葉たちはハチロクの案内で蒸気機関車の周りを回り始めた。鉄路沿いに敷かれた小道には、歴史の説明パネルや、当時の写真、そして模型が展示されていた。マミは感心したように一つ一つを覗き込み、彩葉もレナも子供のように目を輝かせて歩く。
「わぁ、これ全部本物のパーツなんだ……!」
彩葉が手を伸ばすと、ハチロクが軽く微笑んだ。
「はい、触ってもいいですよ。運転席も自由に見られるようになってます」
彩葉たちは順番に運転席に座り、実際に蒸気機関車の操作パネルを触れる。レナがふざけてレバーを動かすと、ハチロクは大きな声で笑った。
「ちょっと〜! 勝手に触らないで〜!」
喰も嬉しそうに笑い、影は少し緊張しながらも、座席の感触を確かめた。栞は興味深げに計器を見つめ、村正は蒸気機関車の機構に思わず見入っている。
灰原は少し離れたところから微笑みを浮かべ、彩葉たちの様子を温かく見守った。
「ここに立つと……当時の人々の想いが少しだけ感じられるね」
彩葉が呟くと、ハチロクも頷いた。
「そうです、当時の鉄路は街と人々を繋ぐ命でした。今もその記憶を守るのが私の役目……です」
「すごい……」マミが小さく感嘆する。
彩葉たちは車両の周囲を歩きながら、写真を撮ったり模型を操作したりして、あっという間に時間が過ぎていった。
「さて、そろそろ次の場所に行きますか」
灰原が穏やかに言う。
「えぇ、まだまだ見たいところがありますから」
彩葉たちはうなずき、ハチロクに手を振った。
「ありがとう! ハチロクちゃん!」
「はい、また会えるといいですね、です!」
黒いコートの少女は、蒸気機関車の側で手を振り返し、笑顔を残した。
「よし、それじゃあ次は……」
灰原の言葉に、彩葉たちは期待を胸に歩き出す。広島の街はまだまだ深く、歴史と人々の記憶が交差する場所であり、彼女たちの冒険は次の章へと続いていく。
彩葉たちが歩く足音と、国鉄8620形蒸気機関車の汽笛が、かすかに風に乗って響く。
鉄路と街、人々と守護者、そして彩葉たちの心が静かに繋がっていく――それは、広島の駆動が生き続ける証でもあった。
広島の街を歩き、蒸気機関車の黒煙に包まれ、人々の笑顔を感じながら過ごした一日。彩葉たちは、守護者としての責任だけでなく、この街に息づく日常や歴史の重みも、肌で、心で受け止めました。
灰原の静かな導き、ハチロクの弾けるような元気、そして街の鼓動――それらが重なり合い、守護者たちの物語は、単なる戦いや力の話ではなく、人と街、時間と記憶をつなぐものになったのです。
旅はまだ続きます。次に訪れる土地でも、彩葉たちは新たな守護者と出会い、街の人々と触れ合い、知らなかった世界を知るでしょう。その一歩一歩が、彼女たちの心を少しずつ豊かにしていくのです。
読んでくださった皆さんも、広島の街を歩く彩葉たちの足音に、少しだけ耳を傾けていただけたら幸いです。歴史と今、守護者と街の物語は、今日もどこかで静かに、しかし確かに動いています。
次回も読んでくれるとうれしいです




