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アルケオン  作者: れんP
日本編

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32/33

空を渡り、灰色の心は草原へ

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

「それでは、行くのです……」


アビは小さく息を吸い、翼を広げた。


「……エアーライド」


その瞬間、足元からふわりと風が巻き上がる。


「わわっ、か、身体が浮いてます!」


レナが慌てて声を上げる。


「これは……すごいのじゃ……」


(しおり)は驚きながらも、落ち着いた目で周囲を見渡した。


アビは慎重に彩葉(いろは)の手を取る。


「アビの手を握って……他の人の手も……はなさないで……なのです」


(エイ)は無言のまま、しっかりと手をつないでいる。


「おぉ……意外と気持ちいいな!」


(くろ)が楽しそうに笑った。


「えぇ……」


陽菜(ひな)も空気の流れを感じながら、静かに頷く。


「空を飛んだのは初めてだ!」


村正(むらまさ)の声には、純粋な驚きが混じっていた。


「すごい……」


マミは下に広がる景色を見つめ、言葉を失っている。


「……少し、飛ばす……のです……」


アビが翼を大きく羽ばたかせた。


「わぁーーーー!!!」


彩葉の叫び声が、空へと溶けていく。


街並みは一気に遠ざかり、海と陸が滑るように後方へ流れていった。


――そして。


「あっという間に」、その言葉がふさわしいほどの速さで、彩葉たちは広島市の上空へとたどり着いていた。


「す、すごいね……アビちゃん……」


地に降り立った彩葉は、まだ足元がふわふわしているような感覚に包まれていた。


「お疲れなのです?」


アビは心配そうに覗き込む。


「それにしても、ここが広島か……」


栞がゆっくりと街を見渡す。


「素晴らしいところじゃ」


「ここには、あまり長居したことはありませんでしたが……」


陽菜が懐かしそうに微笑む。


「いつ来ても、いいところですね。……おや?」


人通りの多い場所で、少し騒がしい声が聞こえてきた。


「はわわ、押さないでぇ〜」


「お姉ちゃん、遊ぼ〜?」


「お姉ちゃん! おんぶして〜!」


黒い甲冑を身にまとった軽装の少女が、複数の子供たちに囲まれている。


「……あいつは……もしや……」


村正が目を細めた。


「え、えぇ〜っと……」


少女は困ったように周囲を見回し、彩葉たちを見つけると、目を輝かせた。


「あ! た、助けてくださ〜い!」


「え!? あ、うん!」


彩葉は慌てて駆け寄り、子供たちをやさしくなだめた。


しばらくして――。


「バイバーイ!」


元気な声を残し、子供たちは去っていく。


「これでよし……」


彩葉が息をついた、そのとき。


「あ、ありがとう……です……」


少女は深く頭を下げた。


「私は、灰原(はいばら)。守護者だよ」


「久しぶりだな、灰原か……」


村正は懐かしそうに笑った。


「いい名前だ。あのときは、名前がなかったからな」


「うん……」


灰原は小さく頷く。


「市の人たちが、考えてくれたの。私は昔、こころが灰色だったけど……こころは草原のように広いから、って」


「へぇ〜! いい名前!」


彩葉が明るく言う。


そのとき――。


「……ねぇ……」


マミの声が、ひどく静かに響いた。


「……何の守護者……?」


「え……」


灰原が言葉に詰まる。


「マミちゃん?」


レナが心配そうに声をかける。


「……放射線の匂いがする……」


マミは、まっすぐ灰原を見つめていた。


「アビちゃんも、放射線の匂いがした……でも、少なかった……」


「でも……あなたからは……すごい……巨大な匂いとエネルギーを感じる……」


「……アビ、知ってる……」


アビが静かに言った。


「灰原は……」


灰原は、少しだけ目を伏せ、それから顔を上げた。


「……いいのです……」


「改めて……はじめまして……」


「原子爆弾『ファットマン』の守護者……灰原……」


「………………」


マミは、ゆっくりと息を吐いた。


「……やっぱり……」


「マミちゃん……」


彩葉がそっと声をかける。


「……アレを、見てください……なのです」


アビが指を差した先には、原爆ドームがあった。


「……? アレはドームか……」


栞が目を凝らす。


「……窓だけに、ヒビが入っておるな……?」


「うん……」


アビは静かに続ける。


「彼女が、産まれたおかげで……この都市は、膨大な爆発に巻き込まれずにすんだのです……」


「守護者は、産まれる際に……情報とともに、そのもののエネルギーも吸い取るのです……」


「そのエネルギーを吸い取ってくれたおかげで……この都市は、莫大な犠牲から、まぬがれたのです……」


「……それに……」


「灰原は、あのドームに住んでる」


村正が続けた。


「土地に眠る霊を鎮めるためにな……」


「慰霊碑にも、顔を出してるらしいし……」


「今みたいに、街の人たちからは、人気者だ」


「……もし……」


灰原は、少しだけ震えた声で言った。


「あなたが、嫌ならば……」


「いやじゃないよ……」


マミは、首を振った。


「……あなたも、被害者……」


「産まれたくて、産まれるものはいない……それは、知っている……」


「……ごめんね……しんみりさせちゃって……」


「……いえ……」


灰原は小さく微笑んだ。


「一部の外国の方は……私のことを、知っただけでも……怖がるので……」


「わぁー!!」


彩葉が、ぱっと手を叩いた。


「もうやめにしよ! 観光しようよ!」


「私の目的も、探さないと!」


「そうじゃの」


栞が頷く。


「……うん……新しいところ……見てみたい……」


影が小さく言った。


「そうだな!」


「うん!」


「今は、楽しまなきゃな」


村正が、力強く言う。


「そういうのは、あとにしてくれ」


「……はい!」


マミも、前を向いた。


「……灰原……ご案内は……任せる……なの……」


アビがそう言うと。


「はい!」


灰原は、明るく返事をした。


「それではまず――」


広島の街へ、一歩踏み出す。


灰色だった心は、草原のように広がりながら――

新たな物語の中へ、彩葉たちを導いていった。

第三十二話をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は「空」と「灰色」という、少し対照的なテーマを軸に描きました。

アビの空を渡る力は、単なる移動手段ではなく、彩葉たちを新しい土地と、新しい心へと導く“きっかけ”でもあります。


そして登場した新たな守護者、灰原。

彼女は「原子爆弾」という、とても重く、簡単には触れられない存在の守護者です。

ですが、この物語では「恐ろしい力」そのものではなく、

産まれてしまった存在として、どう在るのかを大切に描きました。


産まれたくて産まれる存在はいない。

それでも産まれてしまった以上、そこに意味を見出し、誰かを守ろうとする。

灰原は、そんな守護者の在り方を象徴する存在です。


広島という街は、悲しみの記憶と、今を生きる人々の温かさが共にある場所です。

灰色だった心が、草原のように広がっていく――

そのイメージを、灰原の名前とともに込めました。


物語はここから、また少しずつ前へ進んでいきます。

重いものを抱えながらも、歩みを止めない彩葉たちの旅を、

これからも見守っていただけたら嬉しいです。


次話も、どうぞよろしくお願いします。

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