翼の守護者と呉の空
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
岡山の港町を離れ、彩葉たちは列車に揺られていた。
車窓の外を流れていく景色は、ゆっくりと山から海へと変わっていく。
乗り換えの駅で一度列車を降り、再び別の車両へ。
少し古びた車内には、どこか潮の匂いが混じっていた。
やがて――。
「次は、呉、呉です」
アナウンスとともに、列車は静かに停車する。
「着いたみたいだね」
彩葉が立ち上がり、伸びをした。
その頃。
高い場所、海と街を見渡せる場所で、ひとりの少女が空を仰いでいた。
小柄な身体、背中には小さな鳥の翼。
柔らかな羽毛が、風に揺れている。
「……ん……」
少女は目を閉じ、空気に耳を澄ませる。
「……守護者の気配……なのです……」
小さく胸に手を当て、少し不安そうに呟いた。
「アビは……アビは……仲良くできるでしょうか……」
少女――アビは、再び羽ばたき、街の方へと向かっていった。
呉駅に降り立った彩葉たちは、街の空気にすぐ馴染んでいった。
港町らしい潮の香り。
遠くには艦船のシルエットが見え、通りには歴史を感じさせる建物が並んでいる。
「すごい……! 船がいっぱいだ……!」
彩葉は目を輝かせる。
「呉って、こういう街なんだね」
レナは海を眺めながら微笑んだ。
「カレーの匂いもする……!」
マミが鼻をくんと動かす。
昼時の街は賑わっていて、観光客と地元の人々が行き交っていた。
彩葉たちは名物を食べ、港を歩き、写真を撮り、笑い合う。
「この街、落ち着くね」
「うん……海が近いからかな……」
陽菜は少し離れたところから、三人の様子を眺めていた。
「3人とも、元気だね〜」
「そうだな〜」
村正は腕を組み、どこか懐かしそうに街を見渡す。
影は静かに歩きながら、彩葉たちの後ろを守るようについていく。
「でも、それが……彩葉さん達……です……」
「そうじゃの」
栞は穏やかに頷いた。
昼が近づき、街の散策もひと段落する。
「楽しかった〜!」
彩葉が大きく息を吸い、笑顔を広げた。
「そろそろ広島市に行こ〜!」
「お〜!」
レナとマミが声を揃える。
「歩きで行くのか?」
喰が首を傾げる。
「そうだね〜……どうしよう?」
彩葉が少し悩んだ、そのとき。
「……だったら……」
背後から、控えめな声が聞こえた。
「……アビの能力で……アビが連れて行ってあげるのです……」
振り返ると、そこにいたのは鳥の翼を持つ少女。
「わぁ!?」
彩葉が驚いた瞬間。
「と、飛んでる!」
マミが指をさす。
少女はふわりと宙に浮き、羽ばたきながらゆっくりと降りてきた。
「アビという動物から産まれた守護者……」
陽菜が静かに呟く。
「そういやぁ、ここにもいたな」
村正が思い出すように言う。
「アビから産まれた、アビの守護者が」
少女は少し緊張した様子で、ぺこりと頭を下げた。
「はい……」
「アビは……アビ……」
「アビの守護者……なのです……」
潮風が羽毛を揺らし、呉の空を背景に、ひとりの新たな守護者が名乗りを上げた。
彩葉は、少しだけ驚いたあと、すぐに笑顔を浮かべた。
「よろしくね、アビ!」
その一言に、アビの表情が、ほんの少しだけ明るくなった。
――こうして、旅は新たな出会いとともに、広島へと続いていく。
第三十一話、ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回は岡山を離れ、呉という港町を舞台にしたお話でした。
列車での移動、潮の匂い、艦船の影――少しだけ旅情を感じられる回になっていれば嬉しいです。
そして、新たに登場したのが翼の守護者・アビ。
空を感じ、守護者の気配に不安を覚えながらも、誰かと仲良くなりたいと願う、少し臆病で優しい存在です。
呉の空と海を背景にした彼女の登場は、この章の象徴的な場面でもあります。
彩葉たちが各地を巡る中で、守護者同士の出会いは少しずつ形を変えていきます。
敵意ではなく、戸惑いと期待から始まる関係――
その積み重ねが、これからの物語にどう影響していくのか、見守っていただければと思います。
次回からはいよいよ広島へ。
新たな土地、新たな守護者が待っています。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
次話も、どうぞお楽しみに。




