初めての戦い、その先へ
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
彩葉の胸は、まだ少しだけ早鐘を打っていた。
ショルダーストラップが岩を貫いた感触。
自分の意思で力が動いた、あの瞬間。
(……私……本当に……)
不安と高揚が入り混じったまま、
彩葉は陽菜の隣を歩いていた。
草原を抜け、
舗装されていない道を進むにつれて、
遠くに人工的な輪郭が見え始める。
四角い建物の影。
電柱の並び。
空を切り裂くように伸びる道路。
「……あれは?」
彩葉が指差す。
「人間が住んでる街だよ」
「……人間の……街……」
初めて聞く言葉ではない。
だが、実際に“目にする”のは初めてだった。
無数の人間が生活し、
想いが渦巻き、
喜びも悲しみも、すべてが集まる場所。
「……怖い?」
陽菜が、彩葉の表情を覗き込む。
「……はい……少しだけ……」
正直な気持ちだった。
守護者として生まれた。
人を守る存在だと教えられた。
それでも――
人間の中に入ることは、
まだ知らない世界へ足を踏み入れることに等しい。
「大丈夫!」
陽菜は、明るく言った。
「いい人もいれば、悪い人もいる!
そういうものだよ」
そして、くるりと背を向けて歩き出す。
「怖かったら、僕の後ろをついてくるといいよ」
「……はい……」
彩葉は、小さく頷き、
少しだけ距離を詰めて陽菜の後ろを歩いた。
――そのとき。
陽菜が、ぴたりと足を止める。
「……おっと」
「……え……?」
彩葉が前を見ると、
空気が、わずかに歪んでいるのが分かった。
黒い靄が、地面から滲み出すように現れる。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
「……想霊……」
初めて、自分の意思で向き合う“敵”。
陽菜は即座に銃を構え、
彩葉に振り返った。
「彩葉!
拘束技をお願い!
私がその隙をついて倒す」
「……は……はい……!」
喉が鳴る。
足が震える。
それでも――
胸の奥で、確かに声がした。
(……役に立ちたい……)
彩葉は前に出る。
「……やぁっ!」
その瞬間、
ショルダーストラップが意思を持って伸びた。
風を切り、
闇を貫き、
想霊の身体へと突き刺さる。
黒い靄が、悲鳴のように揺れる。
さらにもう一本、
もう一本。
想霊たちは次々と地面に縫い止められ、
身動きが取れなくなった。
「……っ……!」
(……できた……!)
「良し!その調子!」
陽菜の声が、背中を押す。
次の瞬間――
パァン!
乾いた銃声。
一体の想霊が霧散する。
パァン!
パァン!
続けざまに、二体、三体。
最後の一体が、
必死に靄を広げようとした、その瞬間。
「最後!」
パァン!
銃声が響き、
想霊は完全に消え去った。
静寂。
風の音だけが、
ゆっくりと戻ってくる。
「……お……終わりました……?」
彩葉の声は、少し震えていた。
「うん!
お疲れ様。よく頑張った!」
陽菜は、満面の笑みでそう言った。
「……っ……」
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
怖かった。
震えた
それでも――
逃げなかった。
「……はい……」
小さく、けれど確かな返事。
彩葉は、自分の肩から戻っていくストラップを見つめた。
(……私……
ちゃんと……戦えた……)
それは、初めて得た実感だった。
陽菜は銃を肩に担ぎ、
街の方角を指差す。
「さ、人間の街――
京都に行こう」
「……京都……」
響きだけで、
どこか歴史と重みを感じる名前。
「……はい!」
彩葉は、今度は迷わず答えた。
二人は並んで歩き出す。
人の想いが集まる場所へ。
喜びも、悲しみも、
そして新たな出会いが待つ街へ。
忘れられた物から生まれた守護者は、
初めて“世界の中”へ踏み込む。
それはまだ、
ほんの入口に過ぎない。
だが――
彩葉の冒険は、確かに動き出していた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
この物語は「強さ」よりも、
役に立ちたいと願う心や
誰かの隣に立ちたいという想いを大切にして描いています。
彩葉は、まだ何も知らない守護者です。
自分の力も、立場も、世界の広さも、これから知っていきます。
失敗もするでしょうし、迷うこともあるでしょう。
それでも一歩ずつ、
守護者として、ひとりの存在として成長していきます。
この先、
人間の街での出会い、
新たな守護者や想霊、
そして世界に潜む“異変”が待っています。
彼女の歩む道を、
もし少しでも見守っていただけたなら幸いです。
――守護者の物語は、
まだ始まったばかりです。




