島を守る者、その始まりを語る夜
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
夕暮れの色が、直島の海を静かに染めていく。
波は穏やかで、風もやさしい。
昼間に見たアートたちは、今は影となって佇み、島全体が眠りに向かおうとしていた。
「島の守護者……」
彩葉が、あらためて直を見つめる。
「うん、そうだよ」
直はにこりと微笑んだ。
「私は、サクラ様より古くから、この島を守るよう仰せつかっております」
「サクラ様?」
彩葉が首をかしげる。
村正が一歩前に出た。
「サクラ様ってのは、この国の守護者の名前だ。
そして――地球の守護者でもある」
「……地球の……」
彩葉は息をのむ。
「この星、最強の存在だ」
「最強……」
その言葉に、レナが思わず声を落とした。
「すごい……お方ですね……」
「サクラはな!」
綾が腕を組み、誇らしげに言う。
「日本の島々に守護者を作って、守るよう命じてるんだ!」
「守護者を……作った?」
マミが驚いたように目を見開く。
「あぁ!そうだぞ!」
綾は大きく頷いた。
直が、少し補足するように言葉を続ける。
「サクラ様は、守護者の“核”を作る能力をお持ちなんです。
……まあ、実際には“命じて作る”というより、勝手に周囲から生まれてしまうのですが」
「その“勝手に生まれる”能力があるからだ」
村正が言う。
「日本には、守護者が多い」
「となると……」
栞が顎に手を当てる。
「日本から遠ければ遠いほど、生まれにくいということなのじゃな?」
「そうなるな」
村正は即答した。
「サクラ様の影響圏から、離れるほどにな」
「……なるほどな」
喰が腕を組む。
「で、村正はそのサクラってやつに会ったことあるのか?」
「あるぞ」
村正は遠くを見るような目をした。
「第一次神怪世界大戦の時だ。アメリカ大陸でな……」
その場の空気が、わずかに引き締まる。
「アメリカの守護者“ローズ”と、地球の守護者“アース”の戦いを、俺たちは見ていた」
影が、何も言わずに俯いた。
「あの方は、本来戦いが嫌いなのに……」
陽菜が静かに言う。
「それでも、あの派閥は戦いを挑み、絶望し、敗れた。
当時は、サクラとアースは別の守護者だと思われていたからな」
「……どうして……そんなに絶望したんですか?」
レナが、恐る恐る尋ねる。
直が、少しだけ表情を曇らせた。
「古参でなければ……知らないのも無理はありません」
そして、はっきりと言った。
「守護者は――
生まれた年月が、過去であるほど強くなります。
……最強へと、近づくのです」
「だからだ」
綾が続ける。
「昔から、日本じゃ“守護者を攻撃してはいけない”って子供に教えてたし、
“守護者は守護者にしか倒せない”って言われてるんだよ」
「……そうなんだ……」
彩葉は、胸の奥に何かが落ちていくのを感じていた。
「それに、アメリカは知らなかった」
陽菜が言う。
「日本生まれの守護者が大量に存在していること、
そして――日本の守護者は、水の上を歩けるということを」
「えっ!?」
彩葉が声を上げる。
「水上歩行できるんですか!?」
「あぁ、できるぞ?」
村正が不思議そうに返す。
「知らなかったのか?」
「知らないよ!」
彩葉は思わず叫んだ。
「ハッハッハ!」
村正は大きく笑った。
「知らなかったか!」
「ふふっ……」
直は楽しそうに微笑む。
「にぎやかな方たちですね」
「だろ?」
綾も笑った。
やがて、直が空を見上げる。
「さて……そろそろ夜も近くなってきましたし」
彩葉たちを見回し、
「宿を紹介しましょう」
「紹介してもらえるのかの?」
栞が言う。
「えぇ。すぐ近くに、ちょうどいい宿がありますので」
「ありがとうございます」
陽菜が丁寧に頭を下げる。
「別に構わねぇよ」
綾が肩をすくめる。
「明日出発なんだろ?」
「よくご存知で」
村正が言うと、
「オレには未来を見る力があるんだ!」
綾は胸を張った。
「……まあ、その力があっても、あいつらを守れなかったんだけどな」
一瞬、沈黙が落ちる。
「……ま、今はいい!」
綾は手を叩いた。
「宿だ!宿!」
「こちらです」
直が歩き出す。
そのとき――
「ぅ……ぅぅ……」
低いうめき声。
「……想霊!」
彩葉が反応する。
「問題ありません」
直は静かに言った。
背中に背負っていた大剣を、革の鞘から引き抜く。
刃が、月明かりを反射した。
「……ふぅ……」
一瞬、呼吸を整え――
「七光一閃」
光が走る。
「ぅゔウゥッッッ!」
想霊は、そのまま霧散した。
「……すごい……」
マミが息をのむ。
「この程度……褒められたものではありませんよ」
直は剣を収め、柔らかく笑った。
「ふふっ」
「そうだ!」
綾が思い出したように言う。
「明日はな!オレと直の“決闘祭り”があるんだ!」
「決闘祭り……?」
彩葉が首を傾げる。
「私と綾が、海上で戦っているところを見るお祭りです」
直が説明する。
「私と綾が、まだ敵同士だった頃の……名残みたいなものですね」
そして、前を向く。
「……さあ、そろそろ行きましょう」
直に案内され、一行は宿へと向かった。
島の夜は静かで、
波の音が、子守歌のように響いていた。
その夜、彩葉たちは久しぶりに、深く、穏やかな眠りについた。
そして――
直島の朝は、やさしい光とともに訪れる。
第二十九話では、直島という静かな島を舞台に、
守護者という存在の「始まり」と「重み」に、少しだけ踏み込んだ回になりました。
直という島の守護者、そしてサクラ様という存在。
彼女たちは強さを誇るために在るのではなく、
ただ長い時間、島や人の営みを見守り続けてきた存在です。
守護者の強さは、力そのものよりも、
どれだけ長く、何を見てきたかで決まっていく。
そんな世界のルールを、焚き火を囲むような夜の会話の中で
自然に感じ取ってもらえたら嬉しいです。
そして、綾と直。
かつて敵同士だった二人が、今は同じ島に立っているという事実も、
この世界が積み重ねてきた時間の証なのだと思います。
次回、第三十話もよろしくお願いします。




