ひとときの安らぎ、その空の下で
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
「これ、高知でもらった茶葉で作ったお茶です。どうぞ」
百江がそう言って、湯気の立つ湯呑みを一人ひとりの前に置いていく。
「ありがとうございます」
彩葉は両手で湯呑みを受け取り、丁寧に頭を下げた。
「いえいえ……ポポっ……」
百江は軽く笑うと、ふと窓の外へと視線を向ける。
「……寧々、楽しそうですね」
「あぁ」
村正も同じ方向を見る。
「他の奴らもな」
窓の外では、開けた空間にいくつか残された遊具の周囲で、喰、影、レナ、そして寧々が思い思いに過ごしていた。
喰はブランコを力いっぱい漕ぎ、鎖がきしむ音を響かせている。
「おぉー!これ、思ったより高くなるな!」
「きゃっ……!」
少し離れたところで、レナがそれを見て思わず声を上げる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「平気平気!」
喰は笑いながら、勢いよく地面に着地した。
その近くでは、寧々がジャングルジムの下に立ち、じっと様子を眺めている。
紙袋の奥から覗く視線は、興味深そうでありながら、どこか遠慮がちだった。
影もまた、少し離れた木のそばに立っている。
遊びの輪の中に入りたい気持ちはあるのに、一歩が踏み出せない。
けれど、ブランコが揺れるたび、レナの笑い声が聞こえるたび、その視線は自然とそちらへ向いていた。
「……」
影は、そっと手を握りしめる。
寧々も同じように、遊具へ視線を向けていた。
二人の距離は少し離れている。
けれど、どちらも“混ざりたい”という同じ気持ちを抱えているのが、どこか似ていた。
少し離れたベランダでは、栞が椅子に腰掛け、本をめくっている。
風に揺れるページの音と、木々のざわめきが静かに混ざり合っていた。
一方、室内。
「そうですね。楽しそうですね」
陽菜が微笑みながら言う。
「ここには、遊具がたくさんあるんですね」
「えぇ」
百江は頷いた。
「ここはもともと、子供たちのために開こうとしたキャンプ場だったそうです」
彩葉が興味深そうに身を乗り出す。
「キャンプ場?」
「えぇ。ただ、作っている最中に別の場所へ計画が移ってしまって……
これは、その名残だそうですよ」
「へぇ~……」
彩葉は湯呑みを口に運び、目を見開いた。
「あ、このお茶……美味しい」
「ポポポっ、それは良かったです」
百江は満足そうに笑った。
そして、ふっと表情を引き締める。
「それで……山乃」
名を呼ばれ、山乃は背筋を伸ばす。
「……少しは、落ち着きました?」
「……はい……」
山乃は静かに答えた。
「……元に戻ってる……」
マミが小さく呟く。
先ほどの異形の姿ではなく、いつもの人型だった。
「あれが、元の姿なんだっけ……
じゃあ、“元に戻った”は違う?」
百江は腕を組み、山乃をじっと見る。
「まったく……」
その声には、はっきりとした叱責が込められていた。
「「行ってくる」の一言だけ伝えて勝手に行くなんて!
自殺行為ですよ!!」
「……はい……」
山乃は肩をすくめるようにしながら、深く頭を下げた。
「すみませんでした……」
「まったく……」
百江はため息をつく。
「今回は、私が早めに場所を特定して連れ帰ったから良かったものの……」
視線を逸らし、ぽつりと呟く。
「……本当に……」
「……」
山乃は何も言えず、ただ黙ってその言葉を受け止めていた。
再び窓の外を見ると、喰が今度はレナを誘って鬼ごっこを始めている。
「ま、待ってください~!」
「ははっ!ほらほら!」
少し遅れて、影がそっと二人の後を追い始めた。
「……」
それを見た寧々も、ためらいながら一歩、また一歩と歩き出す。
遊びの輪は、ゆっくりと広がっていった。
――その光景を、はるか上空から見下ろす影があった。
黒く歪んだ霧のような存在が、山々の上を漂っている。
「……どこだ……」
憎悪に満ちた声が、風に溶ける。
「……どこにいる……」
祟面の気配が、空気を震わせた。
「あいつら……」
怒りが、形を持つ。
「……必ず……消し炭にしてくれる...........」
その叫びは、まだ誰にも届かない。
けれど――
確実に、迫っていた。
四国編も、少しずつ核心へと近づいてきました。
今回は、戦いよりも「日常」と「想い」に焦点を当てた回です。
守るものがあるから、怒りが生まれ、
待ち続けた時間があるから、前へ進む決意が生まれる。
そんな話になっていれば幸いです。
次回もお楽しみに




