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アルケオン  作者: れんP
日本編

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23/38

待ち続ける少女と、憎悪の名

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

山乃(やの)に導かれ、彩葉たちは公園の奥へと足を踏み入れた。


再建された体育館は、外見こそ整えられているものの、どこか時間が止まったような静けさをまとっている。

扉が軋む音を立てて開いた瞬間――


「……っ……」


彩葉(いろは)は、思わず息を呑んだ。


体育館の中央。

薄く差し込む光の中に、一人の少女が立っていた。


バスケットボール模様のベレー帽。

胸に抱えられた、使い込まれたボール。

その視線はどこか遠く、誰かを待ち続けているようだった。


「………………ん……誰です?」


低く、静かな声。


「あ、えっと……」


彩葉は一歩前に出る。


「私は彩葉。バッグの守護者です!」


少女は一瞬だけ彩葉を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「……私は……マミといいます。

バスケットボールから、生まれました……守護者です。」


「マミちゃん……?」


彩葉は少し声を柔らげる。


「どうかしたの?」


マミは答えず、視線を床に落とした。


その代わりに、山乃が口を開く。


「……マミさんは、ここで“なくした人”を待っているのです」


「なくした……人……」


レナが、小さく呟く。


「もしや……空爆か?」


(しおり)の問いに、山乃は静かに頷いた。


「はい。

ここは、彼女のために街の人たちが再建した体育館です。

空爆で壊れた場所を、あの日のままに……」


マミの指が、ぎゅっとバスケットボールを握りしめた。


「……そういやぁ」


村正(むらまさ)が山乃を見る。


「お前は、何してんだ?ここで」


「わたくしですか?」


山乃は軽く首を傾げた。


「情報収集ですよ。仲間と一緒に。

……今は、彼女に協力をお願いしに来たのですが」


「協力?」


陽菜(ひな)が眉をひそめる。


「えぇ」


山乃は真剣な表情になる。


「彼女なら、想霊――祟面(タタリメン)の封印場所を知っているのではないか、と」


「タタリメン?」


喰が首をかしげる。


「祟面は、人の憎悪から生まれた想霊です」


山乃の声は低く、重い。


「あまりにも強すぎたため、封印された上位個体。

想霊の上位個体は感情体(かんじょうたい)と呼ばれます」


「……」


「その祟面の封印が弱まり、トドマリが増えているのです」


「なるほどな」


村正が腕を組む。


「それで仲間と一緒に来たわけか」


「おや?」


山乃は目を瞬かせる。


「どうして仲間と来たと?」


「背の高い女……お前の仲間だろ」


村正はちらりと(エイ)を見る。


「八尺様。影が見たそうだ」


「まぁ……」


山乃は楽しそうに微笑む。


「彼女、影ちゃんを気に入ったのね。ふふっ」


「……気に入られたの……?」


影は困惑したように呟く。


「まったく」


村正はため息をつく。


「怪異警官じゃなかったら、旅どころじゃないぞ……」


「ふふっ」


山乃は気にした様子もなく。


「彼女、子供が好きですからね」


「女性好きのお前が言うな」


「……」


山乃はただニコニコしていた。


「……そろそろ」


陽菜が咳払いをする。


「本題に戻ったらどうだい?」


「そうですね……すみません」


山乃はマミの方を向いた。


「……それで、マミさん。

祟面の封印場所、知っていますか?」


マミはしばらく沈黙し――やがて、小さく頷いた。


「……知ってる……

子供たちと一緒に、登った山に……ある……」


「それは、どこです?」


「……讃岐山脈の、洞窟の中……

そこに……昔の人間が、封印した……」


「讃岐山脈……」


山乃は確認するように言う。


「どのあたりです?」


マミの視線が、鋭くなった。


「……どうして?」


「……祟面の封印が、解けかけています……」


「っ……!」


マミの指が震える。


「それで……封印を強めるために、探しています」


沈黙。


やがて、マミはゆっくりと一歩踏み出した。


「………………ついてきてください」


その声は小さいが、確かな決意を帯びていた。


彩葉たちは互いに顔を見合わせ、静かに頷く。


体育館の空気が、わずかに動いた。


――長く待ち続けた少女が、

ついに“過去”と“今”を繋ぐ一歩を踏み出した瞬間だった。

第二十三話では、これまでの旅の中でも特に「静かな痛み」と「時間の停滞」をテーマに据えました。

マミという存在は、戦いのための守護者ではなく、“待ち続ける者”として描いています。


第一次神怪世界大戦という過去の出来事は、この物語の世界ではすでに終わった歴史ですが、

想いを宿した存在にとっては、終わらないまま胸の中に残り続けています。

マミが体育館に留まり続けていたのは、憎しみや復讐のためではなく、

「もう一度会えるかもしれない」という、ささやかな願いのためでした。


また、祟面という存在は“悪”そのものではなく、

人の憎悪や絶望が行き場を失った末に形を得てしまったものです。

それを封じるという行為は、単なる討伐ではなく、

過去と向き合い、痛みを理解し、それ以上広がらせないための選択でもあります。 


次話からは、讃岐山脈という“記憶と感情が眠る場所”へと舞台が移ります。

マミが何を見て、何を失い、何を選ぶのか。

そして祟面の正体が明らかになるとき、

彩葉たち自身の在り方も、少しずつ変わっていくでしょう。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次の物語も、どうか最後まで見届けてください。

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