表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケオン  作者: れんP
日本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/34

焼け跡に残るもの

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

朝の光は、柔らかく街を包んでいた。


宿での朝食を終えた彩葉たちは、静かな四国の街を歩いていた。

昨夜の余韻がまだ身体に残っているのか、足取りはどこか穏やかだ。


「いい朝だね」


彩葉(いろは)がそう言って、空を見上げる。


雲は少なく、澄んだ青が広がっている。

平和――そう言葉にすれば簡単だが、この空の下にどれほどの歴史が積み重なっているのか、彼女はまだ知らない。


そのとき。


「……これは……」


レナが足を止めた。


視線の先には、広い敷地。

草木に囲まれた公園の中央に、明らかに異質な建造物が残されている。


崩れた校舎の跡。

黒く焼け焦げた壁。

そして――奇妙なほど無傷で残った体育館。


「廃校……ですね」


陽菜(ひな)が静かに言った。


「しかも、体育館以外壊れてやがるな……」


村正(むらまさ)は顎に手を当て、破壊の痕を見渡す。


「……この壊れ方は……」


「えぇ」


陽菜は焼けた壁面に近づき、指でなぞるように見つめる。


「第一次神怪世界大戦の時の空爆……でしょうね。この焦げ方は」


空気が、少しだけ重くなった。


(しおり)は古びた看板の前に立ち、文字を追っている。


「ふむ……」


やがて、ゆっくりと口を開いた。


「今はどうやら、平和の象徴として公園にしてるようじゃの……」


「平和の象徴……」


彩葉はその言葉を繰り返し、崩れた校舎を見つめる。


「……何があったんでしょう。第一次神怪世界大戦って?」


陽菜は少し間を置いてから、答えた。


「人類以外と共存を目指す『日本側』と――

人類以外を道具として使い、戦争の道具にしようとした『アメリカ側』の戦争だ」


彩葉は、言葉を失った。


「……」


「どうなったんだ?...」


(くろ)が腕を組んだまま聞く。


「日本側が勝ったさ」


村正は淡々と言った。


「でなきゃ、俺達はここにいない」


影は何も言わず、ただ地面を見つめている。


「……あのときはの」


栞は遠くを見るような目で語る。


「存在が、共存を目指し戦い合った……

……もう、あんな戦いはごめんじゃ……ん?」


そのとき、栞の視線が一点に留まった。


「祠がある……」


「祠?」


(エイ)が小さく首をかしげる。


「……あの祠は、いったい……」


そう言いかけた瞬間だった。


――ブロロロロロロ……!


空を引き裂くような音が、低く、重く、頭上を覆った。


全員が反射的に空を仰いだ。


「……あれは!」


村正の声が鋭くなる。


「爆撃機じゃと!?」


栞が目を見開く。


「まさか……アメリカ側が条約を破って……!」


陽菜の声が強張る。


「問題ありませんよ」


その声は、不思議なほど落ち着いていた。


「え?」


彩葉が振り返った、その瞬間――


ヒューーーーーー……!


「……っ!」


次の刹那。


――ドカァァァァン!!


凄まじい爆音と衝撃。

地面が揺れ、空気が裂ける。


「わわわぁ!」


レナが思わず彩葉にしがみついた。


だが――

爆撃機は、炎と共に空中で砕け散っていた。


「ね?」


先ほどの声の主が、何事もなかったかのように言う。


「えっと……あなたは……」


彩葉は、改めてその人物を見る。


桃色の髪を揺らす、背の高い少女。

制服のような服装に、腰には識別章。


「それに……あれは……」


「あぁ」


少女は軽く会釈した。


「申し遅れました。

わたくし、ヤマノケの山乃(やの)と申します。一応、怪異警官です」


「怪異警官の人……私は...」


彩葉は少し驚いたように呟く。


「はい、存じています。

彩葉さん、陽菜さん、喰さん、影さん、栞さん、村正さん、レナさん……ですね。

コトリから話は伺っています」


山乃は頷く。


「そして、あれは『トドマリ』といいます。

……そうですね、想霊の仲間です」


「トドマリ……」


村正が低く復唱する。


「い、今のは!?」


レナが震えた声で聞く。


「あの体育館に住んでいる守護者による攻撃です」


山乃は、体育館の方角を指差した。


「彼女は戦争をひどく嫌っていて……

トドマリが近づくと、ああやって破壊するんです」


「……」


「まぁ、危険性が分からないとはいえ……

トドマリは想霊ですので」


山乃は一息つき、彩葉たちを見る。


「これから、彼女のもとに行くんですが……

ついてきますか?」


彩葉は一瞬だけ迷い、そして頷いた。


「……うん。会ってみよう。みんな」


「あぁ」


村正が応える。


「なにか理由がありそうだ。

この時代、戦争を嫌ってるやつなんて、そうそういないからな」


「いろんな、しなのじゃ」


栞も静かに同意する。


「……はい……」


影が小さく頷く。


「おう!」


喰は迷いなく言った。


「私も!会いたい!」


レナは力強く手を挙げる。


「もちろん、ついて行くよ」


陽菜も微笑んだ。


「決まりのようですね」


山乃は穏やかに笑う。


「それでは、わたくしについてきてください」


こうして一同は、桃色の髪の少女の後を追った。


――視点は、変わる。


薄暗い体育館の中。


ひび割れた床に、埃が舞う。


「ダンッ……」


「ダンッ……」


「ダンッ……」


乾いた音が、反響する。


バスケットボールが床を叩く音。


「………………許さない…………」


低く、抑えた声。


「ダンッ! ダンッ! ダンッ!」


その音は、怒りと憎しみを刻むように、

体育館の中に響き渡っていた。

第二十二話、ここまでお読みいただきありがとうございます。


今回は、四国編の本格的な導入として

「平和」という言葉の裏側にあるものを描きました。


焼け落ちた校舎、無傷で残る体育館。

第一次神怪世界大戦という過去は、もう終わった出来事でありながら、

今も確かに“痕”として残っています。


そして、戦争を嫌う守護者の存在。

彼女はただ過激なのではなく、

「二度と同じことを繰り返したくない」という、強い感情を抱えています。


山乃とトドマリの登場によって、

この土地にはまだ語られていない想いがあることが、

少しずつ見えてきたのではないでしょうか。


次話では、

体育館にいる守護者と、彼女が抱え続けてきた過去に

より深く踏み込んでいくことになります。


それでは、次回――

二十三話も、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ