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アルケオン  作者: れんP
神界編

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175/182

復讐の雷槌 ― クラーケンの娘クララ ―

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 神界の首都ユグドラシル。

 その中心にそびえるオリュンポス神殿の大広間。


 神々と英雄が円卓を囲み、会議は続いていた。


 


 彩葉(いろは)は静かに呟く。


 


「ロキ……」


 


 その名を聞くだけで、胸の奥に重たい感覚が残る。


 


 (リー)芳乃(よしの)が腕を組みながら言う。


 


「たしか断界同盟を率いていると言っておったな」


 


 ゼウスが重々しく頷いた。


 


「うむ」


 


「会議の後、我とヴァルハラの統治神オーディンで調査を行った」


 


「そして結論は同じだった」


 


 ゼウスの声が低く響く。


 


「やはりロキの仕業だ」


 


 神殿の空気が少し重くなる。


 


 陽菜(ひな)が不安そうに尋ねた。


 


「やっぱり……そうなんだね」


 


「居場所は掴めているのかな?」


 


 ゼウスは頷く。


 


「あぁ」


 


「神界とヴァルハラをつなぐ道の上空」


 


「そこに謎の飛行城が存在する」


 


「天使たちが確認した」


 


 ヘルメスが指を鳴らす。


 


 空中に光の映像が浮かび上がった。


 


 巨大な空飛ぶ城。


 


 黒い雲に包まれた不気味な要塞だった。


 


 ゼウスが続ける。


 


「調査の結果――」


 


「そこがロキの居城だと判明した」


 


 村正(むらまさ)が目を細める。


 


「空飛ぶ城か……」


 


「いかにも神らしい発想だ」


 


 ゼウスはさらに続けた。


 


「だが問題はそれだけではない」


 


「城の門番として――」


 


 一瞬の沈黙。


 


「かつて雷神トールと引き分け死んだ」


 


「ヨルムンガンドが確認された」


 


 ユキが小さく首をかしげる。


 


「ヨルムンガンド?」


 


 メデューサが静かに説明する。


 


「ヨルムンガンドは……」


 


「世界を覆い尽くすほどの巨大な体を持つ大蛇」


 


「強い毒を持ち……」


 


「その毒でトール様を殺したと言われている」


 


 メデューサは眉をひそめた。


 


「しかし……」


 


「トール様に敗れたはずでは?」


 


 ポセイドンが腕を組みながら言う。


 


「あぁ」


 


「俺たちもそう思った」


 


「だがロキのやつが禁呪を使い復活させたらしい」


 


 ポセイドンは鼻で笑う。


 


「まぁ」


 


「本来の大きさよりは小さいがな」


 


 ベアトリスが考え込む。


 


「じゃあ……」


 


「まずはそのヨルムンガンドをなんとかしないと」


 


 その時だった。


 


 神殿の扉が――


 


 バンッ!!


 


 勢いよく開いた。


 


「その大蛇……!」


 


「私に相手をさせてください!!」


 


 神殿の視線が一斉に向く。


 


 そこに立っていたのは――


 


 青い髪の少女だった。


 


 海を思わせる瞳。


 


 背には巨大な海獣の紋章。


 


 アフロディーテが少し驚いた声を出す。


 


「あら」


 


「会議中に割り込んでくるなんて」


 


 ゼウスが静かに目を細める。


 


「よい……」


 


「それでお主はたしか……」


 


 少女は深く頭を下げた。


 


「会議を中断させてしまい申し訳ありません」


 


「私は神話生物クラーケンの娘」


 


「クララ」


 


 彼女の声は震えていない。


 


「そして――」


 


「いまは亡き主」


 


「トール様の眷属です」


 


 神々がざわめく。


 


 ヘパイストスが顎を撫でる。


 


「あのトールの眷属か」


 


「鍛え直した神器『ミョルニル』はどうだ?」


 


 クララは胸元の大槌を見た。


 


 雷を宿した神器。


 


 トールの武器。


 


「はい」


 


「ヘパイストス様」


 


「問題ありません」


 


 ゼウスが静かに尋ねる。


 


「して」


 


「その件はどういったわけだ?」


 


「敵討ち……か?」


 


 クララは拳を握った。


 


「はい」


 


「私は……」


 


「主の敵を討ちたいのです」


 


 その瞳には強い決意が宿っていた。


 


「必ず」


 


 アポロンが困ったように言う。


 


「無茶では?」


 


「主神」


 


「あの毒蛇は神でさえ殺す毒を持っている」


 


 アフロディーテが笑った。


 


「でも」


 


「あの目は本気の目だよ?」


 


 アポロンが眉をひそめる。


 


「しかし……」


 


 アレスが腕を組んで言った。


 


「意思を尊重すべきでは?」


 


 ゼウスは少し黙った。


 


 そして――


 


「わかった」


 


「許可しよう」


 


 神殿がざわめいた。


 


「主神!」


 


 アルテミスが驚いた声を出す。


 


「それはいささか無謀では……」


 


 ゼウスは静かに言った。


 


「止めてもあの娘は行くだろう」


 


「その目は本気の目だ」


 


「行くと決めたら行く」


 


「そういう意思を感じる」


 


 彩葉がゆっくり頷いた。


 


「私もそう思います」


 


 ヘラが微笑む。


 


「……いいんじゃないですか?」


 


「私は応援しますよ」


 


 アテナが元気よく手を挙げた。


 


「私も!」


 


 ヘスティアが優しく言う。


 


「英雄とは……そういうものですから」


 


「やると決めたことはやり遂げる」


 


「素晴らしいです」


 


 ゼウスは頷いた。


 


「しかし」


 


「単身で乗り込ませるわけにはいかぬ」


 


 ゼウスは彩葉たちを見る。


 


「クララ」


 


「彩葉たちとともに戦え」


 


「いいな?」


 


 クララは深く頭を下げた。


 


「はい!」


 


「ありがとうございます!」


 


 デメテルが穏やかに言った。


 


「決まったようだね」


 


 ゼウスが立ち上がる。


 


 神殿の空気が張り詰めた。


 


「うむ」


 


「それと」


 


「オリュンポスからアテナを送る」


 


 アテナが笑う。


 


「はい!」


 


「任せて!」


 


 ゼウスは続ける。


 


「アレス」


 


「他の神々に伝達せよ」


 


「都市の防衛を高めるように」


 


 アレスは頷いた。


 


「了解した」


 


 ゼウスはさらに命じる。


 


「ポセイドン」


 


「デメテル」


 


「アポロン」


 


「ヘルメス」


 


「アルテミス」


 


「アフロディーテ」


 


「ヘパイストス」


 


「ヘラ」


 


「都市と神殿の防衛を頼む」


 


 神々が同時に答えた。


 


「はい!」


 


 ゼウスは最後に言った。


 


「ヘスティア」


 


「引き続き炉の炎を守備してくれ」


 


 ヘスティアは静かに頷いた。


 


「承知しました」


 


 ゼウスはゆっくりと彩葉たちを見た。


 


 神の威圧。


 


 しかしその目には期待が宿っている。


 


 ゼウスが力強く言った。


 


「そして――」


 


「英雄一行よ」


 


 神殿に雷のような声が響く。


 


「ロキを打ち倒せ!!」


 


 彩葉たちは立ち上がった。


 


「はい!!」


 


 こうして――


 


 ロキ討伐の戦いが


 


 ついに始まろうとしていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます

次回もお楽しみに

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