守れなかった想いと、新たな仲間
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
潮風が、伊勢の街をやさしく撫でていた。
結界石の騒動から少し離れ、彩葉たちは海辺から街中へと戻ってきていた。
戦闘の余韻はまだ体に残っているが、同時にどこか張りつめていた気配も、少しずつほどけていく。
「ここで一度……別行動、ですね」
コトリが静かに告げる。
「えぇ。
我々は怪異警官として準備を整えます。
皆さんも……装備や情報収集を」
「合流は……」
「この場所です」
六花が地図を指差す。
「んー! んー!」
「了解」
村正が短く答えた。
こうして、彩葉たちは怪異警官の二人――コトリと六花、そして大鮑之命と一度別れ、それぞれ準備と調査、そして束の間の“日常”を過ごすことになった。
伊勢の街は、思っていた以上に賑やかだった。
「わ……人、いっぱい……」
彩葉が目を丸くする。
「伊勢は観光地でもあるからね」
陽菜は周囲を見渡しながら言った。
「伊勢神宮、赤福、海産物……
人の想いが集まりやすい場所なんだ」
「ふむ……」
栞は腕を組む。
「想いが集まれば、守護者も妖怪も生まれやすい。
結界が重要になるのも道理じゃな」
「でも……」
喰が屋台を見て目を輝かせる。
「腹減った」
「……うん....」
影が小さく頷いた。
「戦いの前に……腹ごしらえ、か」
村正が苦笑する。
「まぁ……悪くはねぇな」
こうして一行は、束の間の休息と準備を兼ねて、伊勢の街を歩くことになった。
赤福の甘い匂い。
焼き魚の香ばしさ。
人々の笑い声。
戦いの最中には決して感じられない、穏やかな空気。
「……不思議だね」
彩葉がぽつりと呟く。
「こんなに普通なのに……
さっきまで、結界が壊されそうだったなんて」
「だからこそ、守る価値がある」
陽菜は真っ直ぐ前を見ながら言った。
「守護者は……
“当たり前”を守る存在だから」
彩葉は、その言葉を胸に刻んだ。
しばらくして。
「そろそろ……合流場所に向かうか」
村正が言った。
「準備も整った」
「うん」
彩葉たちは歩き出す。
――その時だった。
背後から、わずかな“違和感”。
村正と陽菜が、同時に立ち止まる。
「……お前は誰だ?」
村正が低く問いかける。
「……撃ちますよ?」
陽菜の銃口が、迷いなく向けられた。
「ひっ……!」
声が震える。
「え、えっと……!」
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
オレンジ色の、ぶかぶかのパーカー。
深く被ったフードには、触角のように長いものが二本、垂れ下がっている。
小柄で、どこか怯えたような表情。
「わ、私は……レナ!」
少女は必死に声を絞り出す。
「エピペンの……付喪神、レナです!」
「付喪神……?」
彩葉が小さく声を上げる。
「そうだよ」
陽菜が銃を下ろしつつ説明する。
「付喪神は、長年使われてきた“もの”に命が宿った妖怪」
「へぇ〜……」
彩葉は感心したようにレナを見る。
「……あ、あの!」
レナは一歩前に出た。
「わ、私も……連れて行ってください!」
「……なに?」
村正が眉をひそめる。
「私……役に立ちたいのです……」
レナの声は、次第に強さを帯びていく。
「私の……持ち主は、もういません……」
一瞬、空気が重くなる。
「ですから……」
レナは拳を握りしめた。
「私は……守れなかった……
あの子のためにも、頑張らないといけないのです!」
涙を堪えるように、必死に言葉を続ける。
「だから!
私も……仲間に入れてください!」
沈黙。
風が、レナのフードを揺らした。
「……どうするのじゃ?」
栞が彩葉を見る。
「怪しいが……」
村正が腕を組む。
「悪いやつではなさそうだ」
彩葉は、少しだけ目を伏せ、そして――決意したように顔を上げた。
「……私は構わない」
ゆっくりと、レナの前に歩み出す。
「レナちゃん」
彩葉は手を伸ばした。
「私たちは……これから、戦いに行くの」
「それでも……来る?」
一瞬の迷い。
けれど――。
「……はいっ!」
レナは、はっきりと答えた。
そして、彩葉の手を、強く握り返す。
「……また、にぎやかになりそうだな」
喰が笑う。
「……」
影は静かに頷いた。
「よし」
村正が前を向く。
「合流場所に急ぐぞ」
「おー!」
それぞれの想いを胸に。
守れなかった過去を背負う者。
守るために歩む者。
新たな仲間を迎えた彩葉たちは、再び歩き出す。
――三重大結界を巡る戦いは、まだ終わっていない。
読者の皆様も読んでくれてありがとうございます。
現実の景色と神秘が交わる舞台で、彩葉や陽菜、村正、そして新たに加わったレナたちが、それぞれの想いを胸に動き回る姿を描けたことが、私にとって何よりの喜びです。
キャラクターたちは、守るべきもののために必死に戦い、笑い、時には戸惑いながらも前に進んでいきます。その小さな勇気や絆が、神秘と日常が混ざる世界を鮮やかに彩ってくれる。読者の皆さんにも、その一瞬一瞬を感じ取ってもらえたなら幸いです。
日本編はまだ続きます。次もどうぞ、彼らの旅を見守ってください。




