楓の国カナダ ― 白銀と翠の楽園
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
監視領域を越え、ついに辿り着いた新天地。
彩葉は思わず息を呑んだ。
「ここがカナダ? なんか、他の国よりも違う気がする」
空気が澄んでいる。
遠くに連なる山脈は白く輝き、深い森はどこまでも広がる。
湖は鏡のように空を映し、街並みは自然と共存するように整っている。
荒廃した監視領域とは、まるで別世界だった。
サトウカエデが柔らかく微笑む。
「ふふっ、ありがと。それじゃあ少し見て回りましょうか」
「さんせーい!」
花火が元気よく手を上げた。
◇
まず目に入ったのは、広大な針葉樹林。
風が吹くたびに木々がざわめき、どこか優しい香りが漂う。
「森の匂いがする……」
レナが深呼吸する。
「落ち着くなの……」
アビも小さく頷く。
少し進むと、大きな湖が広がっていた。
透き通る水。
水面を跳ねる魚。
遠くで鹿の群れが水を飲んでいる。
「ひろーい!」
花火が駆け出しかけ、陽菜に止められる。
「足元注意だよ」
さらに移動すると、木造と石造りが調和した街並みが見えてきた。
近代的だが、どこか温かい。
屋根には雪対策の工夫。
街路樹には小さな楓の葉の装飾。
「自然と共存してる感じがするね」
ユキが呟く。
「守護者の影響でしょうね」
メデューサが静かに分析する。
遠くには雪化粧の山々。
空気は冷たいが、刺すような寒さではない。
澄みきった青空が広がる。
「とても綺麗で涼やかなところだな」
李=芳乃が感心する。
「うむ、そうじゃな」
栞も頷く。
「たしかにね」
陽菜も穏やかに笑う。
サトウカエデは少し照れたように笑った。
「ふふっ、ありがと」
◇
「それじゃあ、そろそろ行こうかしら」
そう言って、サトウカエデが手をかざす。
空間がゆらりと歪む。
淡い翠色の光が集まり、円形のゲートが出現した。
「わぁ♡ 便利」
ラキシアが目を輝かせる。
「ふふっ、それじゃあ向かいましょうか」
「うん」
彩葉は一歩踏み出す。
ゲートを抜けた瞬間――
視界が開けた。
どこまでも広がる芝生。
やわらかな風。
澄んだ青空。
「ひろい……」
マイがぽつり。
「うん!」
リリア=エジソンが元気よく頷く。
そして奥には――
一本の大きな木。
堂々と空へ伸びる幹。
鮮やかな葉。
優しく包み込むような存在感。
「えぇ、そうですわ……奥の木はもしかして」
ココア=モカ=コフィアが息を呑む。
「えぇ、私の象徴。“サトウカエデ”という楓の木よ」
影影が静かに呟く。
「綺麗……です」
「うん!」
フェルルも嬉しそうに頷く。
「……他の守護者が見えないよ?」
ユキが周囲を見渡す。
「たしかにそうですね」
メデューサも警戒を緩めない。
「ああ、多分敵を追い返すためにはじっこまで行ってるんでしょう」
サトウカエデが自然に言う。
「そんなに多いの?」
マミが眉をひそめる。
「えぇ」
短い肯定。
「私たちもお手伝いできないかな?」
レナが前に出る。
「そうなの、手伝うなの」
アビも続く。
サトウカエデは優しく首を振った。
「ふふっ、今のところ問題ないわ。みんなには送信済みだから、終わったら来るわ」
「ん、わかった」
ベアトリスが素直に頷く。
そのとき。
「おや、もう来たのですね」
澄んだ声。
振り向くと、羽織をまとった小さな少女が立っていた。
「……あら? ムクゲ、おかえり」
「はい。サクラにサトウカエデの様子を見てきてほしいと……必要なかったようですね」
彩葉が一歩前へ出る。
「えっと、あなたは」
少女は静かに一礼する。
「……はじめまして、英雄一行。私は韓国の守護者“ムクゲ”と申します」
芝生を渡る風が、楓の葉を揺らす。
世界同盟の舞台。
守護者たちの集う地。
彩葉たちの旅は、いよいよ世界規模へと広がろうとしていた。
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次回もお楽しみに




