赤眼の漆黒獣 ― 分身体の襲来
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
監視領域を抜け、さらに北へ。
荒廃した大地の先に、かすかに国境の標識が見え始める。
カナダ――。
冷たい風が吹き抜け、空気がわずかに変わった。
彩葉たちは、まだ知らない。
“何か”が、確実に近づいていることを。
「それにしても、ここまでなんにもなかったな」
喰が言う。
「まぁ、それが一番――」
陽菜が言いかけた、その時。
ヒュゥゥゥゥゥ――――
空気を裂く音。
ドォォォォンッ!!!
地面が爆ぜ、衝撃波が走る。
砂煙が巻き上がる。
「なに!?」
レナが叫ぶ。
土煙の中から、巨大な影が立ち上がる。
赤く光る双眼。
黒い羽。
人型に近いが、どこか異形。
「……ククククッ」
低い笑いが響く。
「はーっハッハッハッ!!」
笑い声が大地を震わせる。
「あれは、怪異? 妖怪?」
ラキシアが目を細める。
「いや……あのエネルギーは……UMAじゃな」
栞が静かに告げる。
煙が晴れる。
現れたのは、巨大な蛾のような翼を持つ黒き存在。
赤い目が不気味に光る。
「ハッハッハッ! そのとおり!」
翼を広げ、堂々と名乗る。
「私は断界同盟幹部《赤眼の漆黒獣》――“モスマン”! UMAである!」
空気が一変する。
「しかも……分身体か?」
李=芳乃が目を細める。
「エネルギーが拡散している」
「え!? 本体じゃないの?」
花火が驚く。
「そのとおり」
モスマンが赤眼を細める。
「この身体は分身体である」
黒い霧のような粒子が、その身体からわずかに漏れている。
「貴様ら危険因子は早めに片付けないといけないからな……」
巨大な翼が一度、強く羽ばたく。
突風が吹き荒れる。
「それに本体はカナダに進軍している部下の指揮を取っている」
「……進軍?」
彩葉の目が鋭くなる。
「だから私が来た」
モスマンの口元が歪む。
「さぁ!」
翼が大きく広がる。
「思う存分! 暴れようぞ!!!」
轟音と共に、モスマンが急降下。
「散開!」
陽菜が即座に指示を飛ばす。
赤い眼光が、彩葉を捉える。
空からの圧力。
分身体とはいえ、幹部クラスのUMA。
監視領域の終端。
カナダ国境目前。
新たな戦いの火蓋が、切って落とされた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




