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アルケオン  作者: れんP
日本編

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16/34

三大結界と破壊者たち

この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。

それは神話でも、空想でもない。

人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――

**守護者アルケオン**と呼ばれる存在だ。


彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。

意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。

だが、生まれた瞬間から強いわけではない。

迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。


これは、

忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が

初めて世界と向き合い、

初めて誰かと並んで歩き出す物語。


戦うことだけが、守ることではない。

それでも――

守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。

 朱と白を基調とした荘厳な鳥居の向こうに、静謐な空気が満ちていた。

 森のざわめきすら、どこか敬意を払っているかのように穏やかだ。


「ここが……伊勢神宮……」


 彩葉(いろは)は思わず息を呑む。

 目に見えないはずの結界の存在が、肌に直接触れてくるようだった。


「なぁ、オレ達も入っていいのか?」

 (くろ)が首を傾げる。「妖怪だぞ?」


「何、心配はいらん」

 先を歩く(しおり)が振り返る。

「結界とは“悪しきもの”を弾くもの。悪しき存在でなければ拒まれはせん。我らは弾かれぬ」


「……そうなのか」


「うむ。では、入るぞ」


 一行が境内へ足を踏み入れても、何かに阻まれる感覚はなかった。

 むしろ、静かに迎え入れられているような、不思議な温かさすらある。


「ここで待ち合わせ?」

 陽菜(ひな)が周囲を見渡す。


「あぁ」

 村正(むらまさ)は鎧の胸元に手を当てる。

「手紙の最後に、そう書いてあった。……小さくな」


「んー! んーー!」


 その時、奥の方からくぐもった声が響いた。


「こんにちは?」


 姿を現したのは、二人の少女だった。

 一人は鍵のついたマスクを顔に付け、小柄で落ち着きなく身じろぎしている。

 もう一人は、儚げな雰囲気をまとい、どこか影を帯びた目をしていた。


「あなた達が怪異警官?」

 彩葉が問いかける。


「お、そうだな」

 村正がうなずく。

「鍵付きマスクの方が六花(ろっか)。都市伝説『コインロッカーベイビー』から生まれた存在だ。赤子のままだから、喋ることはできない」


「んー! んーー!」


「で、こっちのおとなしそうなのが、呪物『コトリバコ』のコトリだ」


「……よろしくお願いします……」


「六花ちゃんに、コトリちゃんか〜。よろしくね」

 彩葉は柔らかく微笑む。


「んーー!」

 六花は元気よく手を振った。


「はい……」

 コトリも小さく頭を下げる。


「コトリは昔からこうだから気にするな」

 村正は続けて、表情を引き締めた。

「それより、陰陽師が三重の結界を破壊しようとしているというのは本当か?」


「はい……事実です」

 コトリの声は震えていた。

「三重の結界は“三大結界”の一つ……それが破壊されれば、何が起こるか……」


「任せて!」

 彩葉が即座に答える。


「僕も手伝うよ」

 陽菜も拳を握る。


「妾もじゃ」

 栞がうなずき、


「……うん……」

 (エイ)も静かに同意する。


「オレにも手伝えることがあったら言ってくれ」

 喰が歯を見せて笑った。


「皆さん……ありがとうございます……」

 コトリは深く頭を下げる。


「んー! んー!!」


 ――その瞬間。


 ゴゴゴゴッ!!


 地鳴りのような轟音と共に、境内全体が大きく揺れた。


「何!?」

 彩葉が声を上げる。


「今のは……!」

 コトリの顔色が変わる。

「海の方の結界石……そのあたりからです!」


「海の方!?」


「ここからじゃ間に合わない!」

 陽菜が叫ぶ。


「問題ありません!」

 コトリは六花の方を見る。

「六花!」


「んー! んん〜! んーーー!!!!」


 六花が力いっぱい声を上げた瞬間、空間が歪んだ。


「っ……!」

 影が息を詰める。


「何だ何だ!?」

 喰が足を踏ん張る。


「転移!」

 栞が即座に理解する。


「わー!……あれ?」

 彩葉が目を瞬かせる。

「一瞬で着いちゃった」


「……六花は、自分の能力で入れたものを収納したり、移動させたりできるんです」

 コトリはそう説明し、前を向いた。

「急ぎますよ!」


 全員が無言でうなずき、

 一斉に走り出した。

海辺の結界石の前。

 砕け散った霊符と、荒れ狂う霊力の残滓が空気を歪ませていた。


「……あれは……鮑!」


 コトリの視線の先、岩場の陰から小さな人影が飛び出してくる。


「あ、コトリさん! 大変ですぅ〜! 陰陽師が〜!」


「わかっています!」


 その存在――大鮑之命(おおあわびのみこと)が言い終えるより早く、状況は動いた。


「みんな! 戦闘準備!」

 陽菜の声が鋭く響く。


「クソッ! 怪異警官め!」

「守護者までいるぞ!」


 陰陽師たちがざわめく中、一人の女陰陽師が前に出た。


「関係ないわ! 破壊を続行しなさい!

 残りの者は迎撃!」


「はっ!」


「炎の獣よ! 敵を喰らい尽くせ!」


 召喚された炎が獣の形を成し、牙を剥いて襲いかかる。


「ふむ」


 それを見た栞は、ただ一言、そう呟いた。


「何!?」


「これで本気か?

 ……炎は、こう使うのだぞ?」


 栞が扇を振るう。


「狐火之夏祭り」


 妖しく光る狐火が夜空に舞い、次の瞬間――

 爆ぜるように陰陽師たちへと降り注いだ。


「な、何だこの威力!?」

「うわぁぁぁぁ!」


 炎は焼くのではなく、喰らい尽くすように霊力を削り取っていく。


「影食い!」


 喰の影が伸び、地面から陰陽師たちの足元を絡め取った。


「からだが!」

「動かない!」


「エンチャントバレット!

 ――セイクリッドバレット!」


 陽菜の銃口から放たれた弾丸が、正確に脚部を撃ち抜く。


「ぎゃぁ!!」

「グ……この……程度……で……」


「ストラップ・ニードルバインド!」


 彩葉の声と同時に、無数の霊糸が陰陽師たちを拘束し串刺しにする。


「何だこれは!?

 グァァァァァ!」


「こんな奴ら!」

 村正は吐き捨てるように言った。

「技を使うまでもない!」


 次の瞬間、結界石を破壊していた陰陽師たちは、

 斬撃の嵐に飲み込まれ、為す術なく崩れ落ちた。


「な、何だ……強い……強すぎる……!」


 女陰陽師は後退りながら歯を噛みしめる。


「このままでは……あのお方に……!

 クソがぁぁぁ!!」


 霊力を込めた拳が、一直線に振り下ろされた。


「……六花」


「んーー!!」


 ――ガンッ!


 鈍い衝撃音。

 拳は、六花の展開したシールドに阻まれていた。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 硬い! 何だこの硬さは!!?」


「んーんーーんー!」


「六花は……とても硬いんですよ?」


 コトリは静かに言い、手を前にかざした。

 まるで、何かを――ひねるように。


「っ!? ……がっ……あぁ……っ……かはっ!」


「な、何を……! やめ……ヤメロ……!」


 コトリは止めない。

 不敵な笑みを浮かべたまま。


 グシャリ


 鈍く、嫌な音が響き、

 女陰陽師は血を吐いて崩れ落ち、そのまま動かなくなった。


「え……?」

 彩葉が目を見開く。

「な、なんで……何もしてないのに……」


「コトリはな」

 村正が淡々と告げる。

「子孫繁栄を潰す呪物だ。

 遠隔で腹をえぐって殺す」


「……猿夢よりヤバそう……」

 陽菜が小さく呟く。


「……」

 栞は何も言わず、


「……」

 影も、ただ静かに目を伏せた。


「終わったのか?」

 喰が周囲を見渡す。


「まぁ、そういうことだ」


「皆さん! 本当にありがとうございました!」


 大鮑之命が深く頭を下げる。


「……神の童子なのに……」

 コトリは小さく呟く。

「陰陽師……一人くらい倒せないの?」


「し、仕方ないじゃないですか!」

 大鮑之命は慌てて弁解する。

「私はまだ修行中の身ゆえ……」


「まぁいいじゃねぇか」

 村正が肩をすくめる。

「それよりどうする?

 こいつからアジトを聞き出せたんじゃねぇか?」


「…………あ……」


「それならお任せください!」

 大鮑之命が胸を張る。

「地図はあります?」


 六花はポケットから、三重県の地図を取り出した。


「んーんーー!」


「ありがとうございます……えっと……」

 大鮑之命は地図を指差す。

「……ここです」


「わかるのか?」

 村正が眉を上げる。


「はい!」

 大鮑之命は自信満々に答えた。

「私は水分の記憶を見ることができるので!」


「そうと分かったらどうする?」

 陽菜が彩葉を見る。

「行く?」


「……もう少し準備をしたほうがいいと思う……」

 彩葉は慎重に言った。


「それはそうじゃな……」

 栞もうなずく。

「準備は必要じゃ」


「では……準備が整った後、ここに集合しましょう」


 コトリの提案に、全員がうなずいた。


 ――その時。




 遠く、岩陰から小さな声が漏れる。


「……あの人達……かっこいい……

 私も……あんなふうに……」


 その視線の先には、

 戦いを終えた彩葉たちの背中があった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

桜菊祭を経て、彩葉たちは「守護者」としてだけでなく、

世界の裏側で起きている争いに一歩、深く踏み込みました。


伊勢神宮という、日本の歴史と信仰が重なる場所で描かれた今回の戦いは、

単なる「敵を倒す話」ではなく、

守るべきものと、壊そうとする意思が真正面からぶつかる章でもあります。


コトリや六花といった怪異警官たちは、

人に恐れられてきた存在でありながら、

誰よりも秩序を守ろうとしています。

自分の在り方とは何か――

という問いを、彩葉たちだけでなく、読者の皆さんにも投げかけているつもりです。

そして最後に現れた名もなき少女の視線。

物語は静かに、次の章への準備を始めています。


彩葉はまだ、自分の力の意味も、

神界やオリュンポスが何を望んでいるのかも、

完全には理解していません。

それでも彼女は、恐怖を知りながら、前に進ぶことを選びました。


この旅は、

守るために戦う物語であり、

選択を迫られる物語でもあります。


次話では、新たな仲間が登場します。

ここまで読んでくださったことに、心から感謝を。

そして――

彩葉たちの旅路を、見守っていただければ幸いです。

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