無差別プレスの跡地 ― 空白の大地
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
“監視領域”の夜が明ける。
チャイルド・テイカーを救った後、彩葉たちは静かな朝を迎えていた。
空は澄み渡り、荒廃した大地に朝日が差し込む。
「……行こう」
彩葉の一言で、再び北へと歩き出す。
しばらく進むと、景色が変わった。
崩れた建物すら見当たらない。
ただ、広大な“さら地”。
不自然なほど平坦な大地。
「このあたりは、さら地? 何もないけど」
フェトゥ=ハーネアネアが首をかしげる。
「あぁ、ここは多分あれだな……ロサンゼルスとその周辺だろうな」
村正が遠くを見る。
「あぁ、無差別プレス……」
陽菜が小さく呟いた。
「?」
レナが首を傾げる。
「なにか知ってるの?」
彩葉が問う。
「あぁ、えっとな……ここはもともと都市があったんだ」
「そうは見えないなの」
アビがきょろきょろと辺りを見回す。
「まぁ、そうだよな」
村正は少し言葉を選ぶようにして続けた。
「マリアナ海溝って深海にな? そこに深海の守護者がいる」
「そいつは白亜紀以前から住んでいる守護者でな。元々は三葉虫の守護者だった」
「三葉虫……?」
レナが目を丸くする。
「だが深海に潜ったことで、生き延びるために変質した。深海の守護者『シンカ』になってな」
村正は淡々と語る。
「そのせいか常識がなくてな。それで第一次神怪世界大戦のとき、やっと地上に出てきた」
空気が少し冷える。
「戦争を“縄張り争い”と勘違いしてな」
「……え」
彩葉が固まる。
「圧力魔法で都市を生き物ごとプレスしてできたのが、ここだ」
沈黙。
「え……それって」
ユキが声を震わせる。
「人間ごと潰したってこと?」
メデューサが問い返す。
「えぇ、そうです」
陽菜が静かに肯定する。
「跡形もなく潰されました。人間も動物も建物も、全てが」
彩葉は足元を見る。
何もない。
ただ平らな地面。
「なにそれ怖い……」
「即死、ですか?」
影が小さく言う。
「うむ、そうじゃな。一瞬だったからの」
栞が目を伏せる。
「……一瞬でぺちゃんこ……」
マミがぽつり。
「怖い……」
レナが小さく身を縮める。
「うん……」
花火も表情を曇らせる。
村正は肩をすくめた。
「ま、今は時の大精霊に世間を教えてもらってるがな」
「そ、そうなんだ……」
彩葉は少しだけ安堵する。
「無知純粋による攻撃か……厄介」
李=芳乃が呟く。
「そうですわね」
ココア=モカ=コフィアも頷く。
「あは♡ でも、勝てたのはその子のおかげでもあるんでしょ? 鍛えれば更に強力な戦力になりそ♡」
ラキシアが笑う。
「まぁ、味方ならな」
村正が苦笑する。
「そうだな」
喰も頷いた。
彩葉たちは、その後も歩きながら様々な話をした。
戦争のこと。
守護者のこと。
この世界の理不尽さ。
広大な更地は、どこまでも続いている。
かつての大都市の跡。
命が一瞬で消えた場所。
その上を、今はただ風が吹き抜けていた。
――上空。
遥か高みから、彼女たちを見下ろす影がある。
「……要注意」
低い声。
黒い影は、翼のような何かを広げ――
音もなく飛び去った。
彩葉たちは気づかない。
監視領域は、まだ彼女たちを見ている。
次なる視線が、すでに向けられていることを。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




