失われた声とメモリアの深淵
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
監視領域の夜。
崩れた都市の只中で、怪異チャイルド・テイカーは止まらない。
「止まらない! どうする!」
ユキの銃撃が胸部を削るが、再生は追いつく。
「普通の怪異なら霊的エネルギーを溜め込んでいるはずだ。ソレを戦いで消耗させ、弱ったところを叩くのが普通だが――」
村正が舌打ちする。
「尋常じゃないエネルギー量……」
フェトゥ=ハーネアネアの瞳が光る。怪異の体内で、底なしの闇が渦巻いている。
六指が広がる。
「……子供……よこせ…………返して」
「え?」
彩葉の耳に、最後の「返して」が刺さる。複数の声が重なる中、そこだけがはっきりとした人間の男性の声だった。
「返して?」
陽菜が眉を寄せる。
「どういうことなのです?」
アビが首を傾げる。
「……」
チャイルド・テイカーは、ひび割れた面を軋ませる。
「どこにも……いない……返して……奪わないで」
彩葉の胸が強く脈打つ。
「喰! マイ! あいつを拘束して!」
「お、おう! ダークバインド!」
闇の鎖が六指に絡みつく。
「はい! ノイズバインド!」
音の波が身体を縛る。
「!」
動きが一瞬止まる。
彩葉は地を蹴り、怪異の懐へ滑り込む。腹部へ掌を当てる。
「深く……深く! メモリア・アーカイヴ!!!」
光が走り、意識が沈む。
記憶の園
「ここは?……」
柔らかな芝生。夕焼けの庭。
(お父さん! おかえり!)
(あぁ、ただいま)
笑い合う父と子。
「……あの人は……チャイルド・テイカー?」
(ねぇねぇ! お父さん! 今日ね! 大人の人を助けたんだ!)
(おぉ、良かったな〜)
温かい光景。
だが――
場面が裂ける。
無機質な個室。ベッドに横たわる小さな身体。
(……お願いだ……返してくれ……私にはお前しか……いないんだ)
重い沈黙。
(誘拐殺人として捜査を進める。なにかあれば伝えよう)
足音が遠ざかる。
(…………復讐してやる)
森の中。
(う、うわぁあぁ! く、来るなぁ!!)
(……返せ、子供、返せ……)
刃が閃き、悲鳴が裂ける。
(……どこにいる……)
子どもたちの笑い声が遠くで響く。
(あはははっ)(遊ぼ)(わぁーい)
(……子供、みぃ〜つけた……)
(おじさん、誰?)
(……一緒に来ようねぇ)
「……!」
彩葉の胸が締め付けられる。
愛と喪失。
絶望と狂気。
復讐が怪異へと堕ちた瞬間。
意識が弾かれ、現実へ戻る。
「……あなたは」
「彩葉! 避けろ!」
村正の声。
「っ!」
六指が振り下ろされる直前、陽菜の弾丸が軌道を逸らす。
「彩葉!」
「大丈夫……」
彩葉は立ち上がる。
「あの人、彷徨ってる……救わないと」
短く、見たものを伝える。
静まり返る仲間たち。
「そんな……」
メデューサが目を伏せる。
「まぁ……そんなことが」
ココア=モカ=コフィアが息をつく。
「亡き子どもを探し彷徨っている……か……しかしどうやって救う?」
李=芳乃が腕を組む。
「ねぇ♡ 私と姉様の力で負のエネルギーを浄化できないかな?」
ラキシアが一歩前へ。
「あ、その手があった」
レナが頷く。
「できるのかの?」
栞が問う。
「うん、やったことないけど、いけるはず」
「うん♡」
「うん! わかった、お願い!」
彩葉が背を預けるように下がる。
チャイルド・テイカーは、なおも呻く。
「返して……奪わないで……」
レナが両手を胸の前で組む。ラキシアがその背に手を添える。
「いくよ」
「うん♡」
二人の足元に、淡い光陣が広がる。
白と淡桃の光が重なり、闇へと溶け込む。
「デュアル・ピュリフィケーション」
優しい波が、怪異を包む。
六指が震える。
ひび割れた面が軋む。
「……あ……」
複数の声がほどけていく。
黒い霧が、身体から抜ける。
スーツと一体化していた闇が剥がれ落ちる。
「……こども……」
最後に残ったのは、かすかな男性の声。
面のヒビが光を帯び、ぱきりと割れた。
砕けた破片は、夜風に溶ける。
細長い身体は、霧となり、淡い粒子へと変わっていく。
「……ありがとう」
それは、確かに人の声だった。
やがて、闇は消える。
残ったのは、静かな夜と、月明かり。
監視領域の風が、少しだけ柔らいだ。
レナとラキシアは、ゆっくりと手を下ろす。
「……できた」
「うん♡」
彩葉は空を見上げた。
彷徨っていた魂は、ようやく――
子どもを探す旅を終えたのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




