監視領域への選択 ― 北へ向かう覚悟
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
太陽の国メキシコ。
メキシコシティの朝は、ゆっくりと始まった。
高層ビルの隙間から差し込む光が、街を黄金色に染める。遠くでクラクションが鳴り、屋台の準備をする人々の声が響く。昨夜の賑わいが嘘のように、朝の空気は澄んでいた。
宿の窓辺に立つ彩葉は、北の方角を見つめていた。
「……監視領域」
小さく呟く。
無法地帯。
怪異や妖怪、様々な存在が入り乱れ、秩序がほとんど機能していない場所。
人間も、妖怪も、どちらも傷を負った戦争の名残。
そこを通るかどうか。
それが、今の選択だった。
「まだ迷ってる?」
レナが隣に立つ。
「うん……ちょっとだけ」
彩葉は正直に答えた。
「危ないんだよね?」
「危なくないとは言えんな」
村正が腕を組む。
「だが、通れないわけではない。実力があればな」
「実力なら、あるんじゃない?」
花火がにこっと笑う。
「昨日だって冥府を救ったんだし!」
「でも無法地帯って……ルールがないんだよね……?」
マイが不安そうに言う。
「そうじゃな」
栞が静かに頷く。
「守護者の影響も薄い。力がものを言う世界じゃ」
「……力がものを言うなら」
陽菜が銃を軽く持ち上げる。
「私たちの出番ですよ」
「でも」
ユキが小さく言う。
「戦いになる可能性、高いよね」
部屋の空気が、少しだけ重くなる。
彩葉は振り返った。
仲間たちの顔を見る。
不安もある。
覚悟もある。
そして――信頼がある。
「遠回りはできる?」
彩葉が尋ねる。
「できなくはないが、かなり時間がかかる」
李=芳乃が答える。
「補給や滞在の問題も出るだろう」
「それに」
ココア=モカ=コフィアが続ける。
「監視領域を避け続けるのは、いずれ限界が来ますわ」
「避けてばかりも、性に合わんしな」
村正が笑う。
「彩葉はどうしたい?」
レナが真っ直ぐに問う。
少しだけ沈黙。
窓の外では、朝日が完全に昇りきった。
彩葉は、ゆっくりと息を吸う。
「……通る」
はっきりと言った。
「危ないかもしれない。でも」
一歩前に出る。
「無法地帯だからって、放っておくのも違う気がする」
「何があるのか、自分の目で見たい」
「それに」
微笑む。
「みんながいるから」
レナが笑い返す。
「うん」
「あは♡ やっぱりそうなるよね♡」
ラキシアが楽しそうに言う。
「決まりじゃな」
栞が頷く。
「準備はしておこう」
陽菜が淡々と言う。
「弾薬確認する」
ユキがケースを開く。
「物資も整えておきましょう」
ベアトリスが荷物を整理する。
フェルルが胸を張る。
「監視領域でもマスコットは必要だからね!」
「役に立つの?」
マミがぼそっと言う。
「……たぶん」
小さな笑いが広がる。
だが、その奥には確かな緊張があった。
監視領域。
戦争の傷跡。
守護者アース――サクラの暴威が刻まれた地。
そこは、まだ終わっていない場所。
彩葉は最後にもう一度、北を見る。
「行こう」
その一言で、全員が動き出す。
太陽の国メキシコ。
メキシコシティを背に。
彩葉たちは、監視領域へ向かって歩き出した。
選んだのは、危険な道。
だがそれは――
進むと決めた者の道だった。
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次回もお楽しみに




