太陽の都のひととき ― 夜を越えて語られる守護
この世界には、人の目に見える“異質な存在”がいる。
それは神話でも、空想でもない。
人の想いに触れ、時に人を守り、時に人を遠ざける――
**守護者**と呼ばれる存在だ。
彼らは人と同じ姿をしていながら、人ではない。
意思を持ち、感情を抱き、使命を背負って生きている。
だが、生まれた瞬間から強いわけではない。
迷い、怯え、悩みながら、自分の存在理由を探していく。
これは、
忘れられた物から生まれた、ひとりの守護者が
初めて世界と向き合い、
初めて誰かと並んで歩き出す物語。
戦うことだけが、守ることではない。
それでも――
守りたいと願った瞬間から、物語は始まる。
太陽の国メキシコ。
冥府ミクトランを救った彩葉たちは、地上へと戻り、巨大都市メキシコシティの中央へとやって来ていた。
高層ビルが立ち並び、車のライトが流れるように走る。人々の笑い声と音楽が混ざり合い、冥府の静寂とは正反対の、生命に満ちた空気が広がっていた。
「死者が帰ってくところも見たし、一件落着だね」
彩葉がほっとしたように笑う。
「そうじゃな。しかしここのところ戦いばかりで、あまり長居できておらんからの。少し見て回りたいのじゃ」
栞が周囲を見渡す。
「あ! さんせーい!」
レナが手を挙げる。
「私も〜!」
花火も元気よく続く。
「うん! いいね! フェイトたちはどうするの?」
「私達は一度怪異警官の基地へ戻ります。情報を伝えないといけないので」
「うん! わかった、またいつか」
「えぇ」
「バイバーイ」
「またね〜♪」
フェイト、メル、ハーメルンは軽く手を振り、人混みの中へと消えていった。
「あは♡ それじゃあ見て回ろ♡」
「うん……!」
影も小さく頷く。
彩葉たちは、石畳の広場へと足を運んだ。
中央広場では、色鮮やかな民族衣装をまとった人々が踊り、ギターの音色が響いている。屋台からはスパイスの香りが漂い、焼きとうもろこしやタコスの匂いが食欲を刺激した。
「わぁ……!」
花火が目を輝かせる。
「きれい……」
ベアトリスも、街を照らす装飾灯を見上げる。
古代遺跡の石組みが、近代建築と並んで存在している光景は不思議な調和を見せていた。遠くにはピラミッドのような影が夜空に溶け込んでいる。
「こうして見ると、普通の街だね」
レナが呟く。
「でも、あの下に冥府があるんだよね……」
マイが小声で言う。
「表と裏があるのは、どの国も同じですわ」
ココア=モカ=コフィアが穏やかに微笑む。
通りを歩きながら、彩葉は人々の笑顔を見つめた。
守られた日常。
それを実感できる時間。
戦いの合間の、ささやかな休息。
やがて、夕焼けが街を朱に染める。
太陽が沈み、夜が訪れる。
ネオンが灯り、音楽はより賑やかになる。
「もう夜だ……夜の街というのも悪くない……」
李=芳乃が静かに呟く。
「うん……」
ベアトリスも頷く。
彩葉たちは宿へと入り、ひとまず身体を休めることにした。
部屋で一息ついたところで、ユキが尋ねる。
「彩葉? 次はどこ行く?」
「う〜ん……このまま北に行きたいけど」
その言葉に、村正が眉をひそめる。
「“監視領域”を通るのか? おすすめはしないが……」
「危険なの?」
「いや、そこまで危険では……いや危険か……怪異や妖怪の無法地帯でな? そのせいで大して人は来ないし、ましてその元国の人間を受け入れたがる国はいないからな……ほぼスラムだな」
「色々あったんだね」
「ま、半分は自業自得ですけどね」
陽菜が腕を組む。
「あの国が私利私欲のために守護者を利用しようとして喧嘩をふっかけなければ、こんなことにはなってませんよ」
「……妖怪は人間、人間は妖怪を襲っちゃダメってルールがなかった?」
ユキがぽつりと言う。
「そのルールはあの場所ではあまり機能せんな……なにせ無法地帯じゃし」
栞が答える。
「そこまで?」
メデューサが問い返す。
「あぁ。あの戦争で守護者、妖怪、怪異、妖精/精霊、神、天使、悪魔、神話生物が暴れまわったからの。ボロボロじゃ」
「そのことなら存じておりますわ。私達も日本側として戦ったですもの。あれは戦いではなく蹂躙にちかかったですけど……」
「じ、蹂躙……」
レナが青ざめる。
「まぁ、サクラ様が大暴れしたせいでもありますが」
陽菜が肩をすくめる。
「日本の守護者『サクラ』……すごく強い?」
彩葉が尋ねる。
「そうだな。あと、あいつはな、ふたつの守護者を名乗っているんだ。日本の守護者はあとから付けられたものだな」
「最初は何だったの?」
村正は少し沈黙し、やがて低く告げた。
「……地球の守護者『アース』。スキルは自然支配。ありとあらゆる自然現象を操ることができる」
「え!?」
彩葉が目を見開く。
嵐も、地震も、海も、火山も。
すべてを。
自然そのものを操る力。
想像しただけで、背筋が震える。
部屋の空気が一瞬静まり返る。
だがそのまま、話は続き、議論は広がり、気づけば窓の外は白み始めていた。
夜は過ぎ。
朝日が、メキシコシティを照らす。
新しい一日。
新しい道。
彩葉は、ゆっくりと息を吸った。
北へ。
監視領域へ。
次なる試練が、静かに待っている。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




